TF

創作物語 ThunderForce forever

第4話 ヒュードラの攻防  -戦火再び -

 抜かれた…マサヤの目には何が起きたのか理解できなかった。加速し、すれ違った白い敵機が目に残る。その鮮やかな動きと、はじめて体験する実戦のスピードに、マサヤは食らいつくことができない。あわてて操縦桿を握りしめる。レーダーを確認し、澄み切った青空を見渡す。目に入るのは、空と大地。そして、閃光。
 エンジンスロットを最大にすると、逆噴射をかける。急ブレーキが胃を圧迫し、素早く機体は転回した。
 敵味方識別信号を頼りに、数少ない敵機に照準を合わせる。
 よくやる…たった数機で敵地に乗り込んでくるとは、常識では考えられない。この少しの余裕が、マサヤにそうささやいた。
 次の瞬間、異音と共に衝撃が走る。視点ぐらつき、頭に強い痛みが走る。先刻の余裕が、全身を寒気に全力で変えた。心臓の音が高鳴り、汗がにじみ出る。息が詰まり、目の前が真っ白な閃光が輝く。貧血??、息ができない。
 頭に血が回らず、マサヤの機体は失速して隊列を崩しはじめた。周りの機体から声が飛び交うが、彼の耳には届いてないようだ。彼の目には大地しか見えない…

 「Rynex…??。後ろ?。」

 操縦桿を握っていた手は彼の喉元にいく。重力の勢いが襲う。回り始める風景が、マサヤの苦手な感覚へ変える。平衡感覚が狂いはじめた。
 自分が何をすればいいのか全く思いつかない。火事場の馬鹿力など、死を覚悟しなければならないそのとき、簡単にでるわけがない。後悔と発狂とも似ているどうしようもない絶望感に、襲われるだけだ。

 「なぜ、俺なんだ…。」

 座席の狭い空間に、ところかまわず鳴り響く警報。対処法が出るわけでもなく、ただパイロットを混乱させているだけだった。意識が薄れる中、マサヤは、パイロットとして安心感を求めたのか、いつのまにか、自分の手が操縦桿を握っていることに気づいた。その握力の無くなった乏しい拳は、落ちていく重力の方向と、逆に引き上げる。
 操縦するなどのいう気はなく、この方が落ち着くからやっただけだ。マサヤはそう思い、死を素直に受け入れた。

 「…最近、ついてないよ。」

 「敵機は速い! 応戦を頼む!!。」

 もはや雑音のように飛び交う言葉は、明らかに戦争の幕開けに相応しかった。しかし、ここはそうではない。路地でたまに見かける猫の喧嘩を見るかように、キャロルは冷め切っ表情で立っていた。彼女は、その雑音をうるさく感じている。彼女のいるこの場所より、数百メール上空にて行なわれている戦闘など、彼女には興味はないのだ。
 目の間には、ジーンがいる。

 「お約束の物は以上です。試してみますか?。」
 「上からの命令でね、私の出る幕はない。」

 キャロルはいつものため息を横に吐き捨てると、手元の資料と書類を彼に渡した。ジーンもそれを受け取ると、不思議そうにキャロルを見つめた。ジーンは、キャロルをキャロルと気づいていないようだ。
 彼女の勤めるこの「ダイダロス・コーポレーション」第5倉庫には、GUARDIANSに依頼された次世代汎用超高性能小型戦闘機L.E.Oのプロトタイプが置かれている。そして、周りに流れる穏やかな空気は無く、作業員達は、静かにこのL.E.Oの最終チェックを行なっていた。
 ジーンの部下2人は銅像のように立ち、硬直している。いい格好だ。キャロルは唇を引きつらせ、笑うように、ジーンを見る。新型の引き渡しをジーン直々が行なう光景、彼女には、その徹底ぶりがおかしかったのだ。
 ジーンは、受け取った資料に軽く目をやり、さらりとサインをする。そのしなやかな動きに目を奪われたのは、キャロルの横にいる少女、エレンである。

 「私の助手、彼女『エレン』がテストパイロットとして実験をしてきました。そちらの導入プロセスにおいて、彼女を使ってください。…それと、量産化へのプロセス。そちらの了解が出次第、移ります。」
 「了解した。エレン、さっそくだが、ルート3を教えるので、そのルートで母艦と合流してほしい。」
 「…は、はい。」
 「我々についてこれる腕はありますか?。」

 エレンの少し遅れた返事に、ジーンのしゃれた言葉が返された。彼の雰囲気が彼女を捉えたのか、失言は否定されなかった。
 エレンは、操縦席に乗り込み、周りの作業員と共に起動プロセスに入る。ジーンは軽くキャロルに礼をすると、その場を離れ部下を従え、話を始めた。

 「…これでいいのね?。」

 頭上に見える、微かな光に向かって流れた台詞は、キャロル自身の言葉だった。

 白く素早い機体は、Rynexに似ていた。誰もがその機体に恐怖を感じたが、言葉では表現しなかった。生きるために必死だった。

 「まだ、実戦慣れしていない部隊か。」

 ロイは、2人の部下に戦闘を任せ、ひとり地上に向かった。
 操縦席のモニターにダイダロス・コーポレーションが映し出される。拡大投影はしているものの、倉庫のハッチが開き、なにかしらの動きがあることがわかった。

 「…頃合いだな。」

 彼の乗る機体は加速し、目標に近づいていく。もう一つの戦力を得るために。

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