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創作物語 ThunderForce forever

第7話 Syrinx奪取作戦(後編)  -奇跡と願い -

 ロイは、エレンの必要以上の言葉が気になった。
 彼とエレンは、以前出会っていた。それは戦いの中の一シーンでしかなかったが、彼女の正直すぎる生真面目に、不安を覚えていた。戦いの中で生き残るには、本人の意思力が問われる。ロイは、そう理解しはじめており、なぜこの作戦に、彼女が抜擢されのか少し疑問を感じた。
 キャロルからの説明は、簡素だった。技術的にも、経験的にもSyrinxの開発者としても関わってきたのは、彼女だけだからと告げ、続いて静かに、彼女からの強い要望でもあったと、言うのだった。

 「キャロルの奴め…。」

 ブースターの取り付けが3機体とも完了した。カウントダウンは継続されている。

 青空の中、一機のL.E.Oが空を切っていた。斬新なフォルムを輝かせている機体は、今までにない推進力を見せつけていた。
 コックピットで捕虜となってるマサヤは、エレンの行動に、無謀さを感じていたが、それを忘れさせるだけの力がこの機体から伝わってきていた。
 彼は、すでに敵、味方の区別を忘れ、Syrinxの推進力に胸をときめかす。

 「すごい、この速度で飛行しても、すべてが安定している。なんて機体だ。」
 「見えた!」

 レーダーの反応に気づき、エレンは、直視用カメラを最大望遠にする。まだ、影でしかない。

 「まだ敵の索敵範囲じゃないはず…やってみる。」

 マサヤは、背筋が凍った。彼女が、Syrinxは速度を緩め、わざと相手と直線に並ぶ飛行経路をとったからだ。そして、エレンは救助信号を発している。

 「作戦?!…やめろ!。」

 マサヤの感覚に戦いが戻った。

 「あなたは黙っていて、殺らなきゃ、殺られるのよ。それだけよ!。」
 「そんな…、敵を撹乱させるだけでいいじゃないか!。」
 「やってるわよ!。」

 これから遭遇する部隊は自分のいた部隊、知る人もいるかも知れなかい。そして、ジーンさえも。だが、マサヤは、それを感じることはなかった。彼は、GUARDIANSという組織に執着はしていなかった。ただ、捕虜になったことで敵の中にいることだけは、いたく心に残っている。
 生きる道を見つけ、信念を持ってその道を切り開こうとしている人々は、こんなにも簡単に生き方を変えることはできない。通常、なにかしらの精神的ショックや後悔、別なつながりを求める力がないと無理である。彼は、あの白い機体RynexとSyrinxのもつ開放感がとても心に響いている。もともと彼はGUARDIANSに不信感を抱いていたこともこれを助けていた。
 マサヤのGUARDIANSでの思い出はあまり良いものがなかった。
 ジーンの部隊に所属していたとは言え、パイロットとしてはまだ新米兵。なにかと問題を作っては、上がるのは彼の名だった。それになりより、Styx-Rev2の飛行感覚に不満を感じており、Rynexに憧れていた。
 かつての神聖な象徴となっていた白く優美な機体は変更され、攻撃に重点を置いた重苦しいイメージが、彼の心を痛めつけた。そして、今では、そのやり場のない気持ちを、あのロイの乗る機体とこのSyrinxによりかき消されたのであろう。

 「あなたも殺されていたかも知れないのよ、私は死にたくないん。」

 突き刺さるような言葉に、彼は、心に残った言葉が浮上する。

 「…だ、だけど、戦争、戦争って、そんなに人殺しをしたいんかよ。」
 「生きていくためには仕方ないでしょ、なにをいうん!、あなただって、敵よ!。」

 浮かれていた自分に嫌悪した。

 「しかし…君も死んじゃダメだ。」
 「あたりまえでしょ、」

 子供のようにふるまうマサヤの言葉は、エレンにとってうるさいだけだった。彼女のいら立ちと緊張は、操縦桿にある引き金を思ったより早く引く結果となった。
 機体の周りに激しい衝撃波が生まれ、真空化した空間にプラズマが走リ抜ける。機体中央に集められたエネルギーが一気に放出されたのだ。Syrinxから放たれたこの光の筋は、空を一直線に貫き、轟音とともに敵機を粉砕した。
 二人とも息を飲んだ。次の瞬間には、薄れていく機体残像だけがモニタに映し出されている。Styx部隊は散乱した。
 エレンは、自分の想定していた以上のエネルギー量に混乱した。

 「……!、来る!。」

 ただならぬ殺気を感じたマサヤは、叫んだ。
 エレンの握る操縦桿は遊びを得て、動くことはなかった。

 「敵が来るんだよ!!、早く離脱するんだ!。」

 間に合わなかった。正面から攻撃を受けたSyrinxは失速し、大地に落ちていく。今度はロイが当てた空砲とは違う。確実にダメージを受け、墜落しているのだ。

 「落ちろ。」

 敵の言葉がマサヤに響く、マサヤは心の中で叫んだ。

 「落ちるかよ!。」

 しかし、手錠をされ身動きのできない彼は、もがくだけだ。

 「わたし、知らなかった、、あれが、あれが…。」
 「なんでもいいから早く立て直せ!、死ぬんじゃないんだろ!。」

 ありったけの力で操縦席へ乗り出そうとするが、体の自由がきかない。彼は叫んだ。そして、それはエレンをプッシュさせた。機体は地上すれすれで通常飛行形態に変型し、機体のバランサーバーニアが噴出する。墜落をもちこたえた。
 狭い崖の間だに落ちたSyrinxは、岩肌を逆噴射で吹き飛ばし、エレンはスロットを目一杯に解放する。

 「また来る…上!。」
 「きさまら!、許さん!!。」

 今度の言葉は、Syrinxにベーシック通信で直接流れた。

 「今度は空耳じゃない、今の声…ジーン大佐か!。」
 「落ちろ!!。」

 エレンは青ざめ、スロットの射撃ボタンを押し続ける。

 「いやぁぁぁぁ!!。」

 Syrinxは後方に位置したジーン機に対して、RAILGUNが乱射されるが、ジーンは瞬く間に避け、突進してくる。続いて、何機かの敵機が上空からジーン同様Syrinxを捕らえた。その瞬間FREE-WAYが各機から射出された。
 Syrinxをあやつりきれないエレンは、推進力にすべてをかけた。
 FREE-WAYの追尾、爆破から逃れながら、高速飛行形態へ変型する。上昇がかけられ、さらに加速していく。

 「なんて推進力だ!、くそっ!!。」

 ジーンは、自分の機体の貧弱さにいらだちを覚えた。
 むき出しの岩肌と芹あがった大地の裂け目から白く鮮やかな機体は飛び出した。しかし、待ち伏せをした部隊にSyrinxめがけてさらなる攻撃が降り注ぐ。

 「このままっ…!」

 声にならない声が、空高くSyrinxと共に伸びていった。

 「カウント3…2……。」

 ロイ達の機体に取り付かれたブースターに火が入った。ロイは目をつぶったままだ。

 「…ままよ。」

 今の今まで、敵が襲撃に来なかったことは、エレンが成功したのだと思いたかった。そして、無事であることも。それとは逆に、今、この瞬間に敵の弾に打ち抜かれるという不安も、彼を包んでいた。
 成層圏付近まで打ち上がれば、CLAWの力が得られる。これにより重力を振り切れた。だが、その後に控えているクローン・ケルベロス・システムの驚異もあった。必ずしもその空域をケルベロスに発見されず離脱できるとは限らないからだ。
 コックピットシールドが解除される警告音が、ロイの頭の中に響く。ブースターは切り離され、Rynexは己の力で、重力圏を離脱しはじめた。

 「合流地点に向かうぞ。」
 「了解であります。」

 三機の光の筋は、本来あるべき空間に道を作り、彼等の母艦バフラヴィッシュに向けて進路をとった。

 体の血が流れていないような錯角を得た。なんとも気持ち悪いものだ。酸素切れの警告がディスプレイに写し出されている。どうやら、予備の酸素が足りないようだ。エレンは宇宙服兼用のパイロットスーツとバイザーを身に付けていたため、酸素切れにはさほど反応していない。マサヤはうつろな目と体を、エレンの方へ漂うよう向けると、苦しさを表現した。
 エレンもやはり苦しいようである。彼の方に振り向くと目を細め、息苦しそうな顔が覗けた。目線があった時、彼等は、お互いの状況を理解しあった。そして、再び目を閉じるのだった。
 オートメーションで目的地まで彼等を導いくSyrinxは、ひっそりと広大な宇宙に浮かぶ。漂流船に似ている。
 このSyrinxに対し、何万トンもある、巨大タンカーと例えれば言えば良いだろうか、巨大な物体が迫っていた。均等に照らす太陽の光を遮り、その巨大な物体の影にSyrinxは入っていった。影は静かに海を揺らし、彼等の心を癒した。

 「これって……。」

 エレンは黒い海を見つめ呟いた。

 「息、が、…苦しい……。」

 マサヤは、身体や額に脂汗を出していた。エレンはバイザーを上げ、自分のスーツにあるボンベを解放した。
 空気の流れる音が静かになってくると、エレンは眠気を感じた。気持ち悪さと不意な眠気。
 身体の力が抜け、急なめまいに、前方のディスプレイに身体が倒れると、薄れる意識の中、合流ポイントの到着時間を横目で確かめた。
 涙が無重力空間に粒となって浮き、静かに目を閉じる。
 巨大な空間は、Syrinxを飲み込んでいた。その空間に、やわらかなショックが生まれる。それは、彼等を包み込み、広大な海に、青い軌跡を残していった。

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