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創作物語 ThunderForce forever

第8話 Song Of Life - 目覚め -

 星の海を飲み込んむほどの巨大な影がこの宇宙にはあった。ケルベロスと呼ばれるシステム。数年前、この影は闇となり、人々に降り注いだ。ヴィオス大戦以来、科学の発展は、武力発展ではなく平和的エネルギーの開発へと方向を変えて進化しはじめていた。その一端で生み出されてものである。
 広大な宇宙をまとめる銀河連邦は、ケルベロスが人々のネットワークリンクとなるよう期待した。亜空間が人と人を繋ぎ、情報と心を解き放つ。しかし、ケルベロス・システムはこの平和を願う銀河連邦によって凍結される。それが何を意味するものなのか、人々にはわからない。
 そして、忘れていた戦いを思い出す。
 再び繰り広げられた血は大地に吸収されていく。人が人を忌わしめるために流される血となって…。
 一つの思想に、「誰かに管理されてこそ人間とは生きていける」とある。独裁的な考え方である。
 人とはもっと自由な物であり、何ものにもとらわれることなく生きていける。それこそが人である。しかし、それは、何もできない、何も存在しない物に似ている。
 独裁思考をもった権力者の意志に、無意識に賛同する人々が存在することも理解できる。それには訳が有る。人は生を受け、そして、同時に死を受け入れなければならないという宿命を背負っているからだ。自由を与えられた生き物の宿命である。
 人はこの宿命に何時も悩み、苦難する。この苦難が、楽を求める欲を生み、光と影が世界を満たしはじめる。
 だが、そこから生まれるもう一つの顔を忘れてはいけない。その顔は不思議と人々に生きる希望を与える。それはどういった形なのかは、人それぞれだ。わからない。愛もその一つであろう。
 なにものとも分かりあい、解け合おうとするその力が、自由をもっと不変の自由へと変えていく。
 そこに産み落とされた影を忘れるかのように。

 「ごくろう、中尉」
 「やあ。艦長、ありがとう。」

 多くの人が船の格納庫に集まっていた。S.O.Lの実行部隊であるロイの帰還である。「Song of Life(ソング・オブ・ライフ)」。亡霊戦争より大きくなった組織。通称「S.O.L」。
 銀河連邦軍「GUARDIANS」に反対する人々によって結成され、反銀河連邦を唱える。そういった組織の中でも最も大きなものでもある。今回の事件により、事実上、S.O.LはGUARDIANSに対し、宣戦布告を行ったことになる。
 この組織が表面化した理由にはいろいろとあるが、中でも銀河連邦との癒着が最も原因であろう。銀河連邦のだれもがGUARDIANSに賛同しているわけではないのだ。また、軍事背景には、ダイダロス・コーポレーションとの結託がある。もともと、ダイダロス・コーポレーションという組織自体は銀河連邦の軍事企業であったが、戦争の引き金を行うS.O.Lの動きにあわせて、戦争景気に便乗したといっても差し当たり無い。そして、これらの糸を引いたのは、ロイ自身であった。
 彼等にとって、S.O.Lへの協力は当たり前かのように行われた。
 これらの背景にあわせて、彼等は軍隊へと成長した。彼等の拠点は、銀河連邦の管理下に有る惑星の中では偏狭の位置に存在するエリスにあった。その地を隠すかのように、彼等はGUARDIANSにも劣らない巨大な根城をつくった。それが「バフラヴィッシュ」と名付けられた戦艦、船であった。
 バフラヴィッシュはGUARDIANSの偵察空域ギリギリを航行しており、いつ発見されてもおかしく無い状態だった。乗り組み員達は戦闘態勢を取りつつ、ロイ達を出迎えていた。
 ロイは作戦成功の歓喜に溢れる格納庫を避け、人気のない通路に艦長と共に出た。

 「成功、おめでとう。」

 艦長は握手を求めた。ロイは素直に彼の意志に答える。

 「いや…。しかし、これからが大事だ、キャプテン。」

 ロイは艦長を見ることなく、そういうと、サングラスの中の目線が、静かに艦長を捕らえる。

 「…そうだな。」
 「GUARDIANSはまだ不馴れな軍隊だ。…だが、すぐにでも追っては来る。戦闘配備だ。」
 「わかっている。では、、私はブリッジに…、そう、後で艦長室に来てくれ。」
 「承知した。」

 艦長とちょっとした会話を交わすと、再び格納庫に向うロイだったが、通路の脇にもたれるように彼を見つめる女性がサングラスに映った。彼女は、組まれた腕を解き、静かに地面を蹴った。重力の少ない艦内では、歩くことは少ない。

 「艦外用スーツも着ないで、なにをする。キャロル。」
 「作戦成功おめでとう。」

 いつもながら、とげのある台詞であった。

 「ああ…。」

 ロイはもうキャロルを見てはいない。自分のやらなければならないことをしない彼女があまり好きになれなかった。その態度に呼応したのか、キャロルは少しにらみ、彼に言葉を投げかける。

 「Syrinxとエレン。クズハ中尉、あなたの責任です。」
 「…わかっている。」
 「生きているからよいものを、あなたと言う人は…。」

 キャロルはもう一言なにかいいたげだったが、その言葉を飲み込む。
 ロイは、タラップにつかまり、体を固定した。キャロルはゆっくりと流れている。彼は、無重力で流れていくキャロルの姿を見上げ、キャロルの目は一瞬ロイを求めた。

 「悪いとは思っている。しかし、彼女にそうしむけたのは、君の責任だ。…これは、作戦だ。任務を優先とする。」
 「彼女は軍人ではないわ。」
 「答えは彼女に聞くんだな。…君は、生きることを考えろ。」

 ロイはそう言うとタラップを蹴った。キャロルの横をぶつかるように通り抜けると、姿を消した。複雑な気持ちがキャロルを襲う。彼女は、彼を捕らえたかったと強く感じたが、これを願う自分が嫌だった。無意識に、ロイの姿を追うように体をねじらせ、手が彼を求めている。頭を横にふる。
 そんな彼女に落ち着きの有る声がかかる。

 「今の彼に何を言っても、無駄だな、始まった戦いに引き寄せられている。」

 すらりとした銀色髪をした女性がキャロルに声をかけた。第4格納庫にいた彼女だ。

 「…そうね、ロイらしいわ。」
 「彼の言っていることも正しいと言えば正しい。」

 さらに、ぐっと何かを堪えて、キャロルは肩でため息をする。
 そのとき、銀色の女性は鋭く目を細めた。先ほどの声とはまるで違う、鋭く突き刺さる。

 「迷惑をかけたな、失礼する。」

 キャロルには何が起きたか理解できなかった。突然の彼女の変化についていけないでいる。

 「状況が変わった。彼の言っていることは正しい。生きることが大切だ。」
 「…そのための犠牲は正しいの!?」

 ついに吐き出されたキャロルの言葉は、空を切る。
 女性の側近らしき男がいつの間にか彼女の前にあらわれる。キャロルはこれ以上の会話は無駄だと感じ、その男を睨むと壁を蹴った。

 「この空域でこの大きさ、間違いない、S.O.Lの巡洋艦、戦艦と思われます。」

 Styx-Rev2の機体カラーに合わせたスーツに身を舞ったGUARDIANSの士官が答えた。船の艦長らしき人物とその部隊長らしき人物が、一つのレーダーを覗き込む。
 地上とは別働隊として、宇宙に配備されているGUARDIANS部隊である。そして、そこには懐かしい人物がいた。

 「そうかもれない。しかけてみるか。」
 「地上からの情報では、部隊の追撃を振り切ってこの空域で消息を絶ったのことだ。間違いないだろう。」
 「まったく、ジーンは何をやっているんだ。」
 「そういうな、彼の責任ではない。」

 ため息を漏らしながら髪をかきあげ、気質の高い雰囲気を持つ女性が顔を見せる。

 「シェリー、様子を伺ってこい。」
 「わかっている。そんなに戦闘好きに見えますか?」

 彼女は、微笑みながら、艦長に釘を刺した。ブリッチのハッチのあけると姿を消した。

 「Syrinxの調整、中尉に合わせておきますね?」
 「いや、私は、あれでいい。それに、Syrinxはエレンが慣れているようだ。」
 「そんな、むちゃくちゃな!、無理ですよ。」

 新型のSyrinxの整備を楽しげに行っている整備員が悲し気にロイに答えた。

 「そうかな…。」
 「クズハ中尉、上がってきてくれ、話がある。艦長室だ。」

 艦内放送で流れた声は、格納庫にも鳴り響いた。

 「そうか…、目を覚ましたか、マサヤくん…。」

 ロイはおびえる戸惑うマサヤの姿を、昔の自分と重ねていた。

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