TF

創作物語 ThunderForce forever

第13話 それぞれの想い - 空間と時間の狭間に立って -

 Syrinxは惑星ハーデスへ進路を固定した。
 マサヤの体からため息をつくように熱が発散されていき、彼はひとときの休息を得た。誰もいない空間。2度目の実戦に緊張は隠せなかったが、彼は機体各部の確認をし、しばらくの間、頭を座席に戻すのであった。

 「…なんとか生きている、次は大丈夫かな…。クズハ中尉も戻ったし、大丈夫だろう…お腹すいたな。」

 静かで空虚なコックピットは、彼の独り言を誘発した。

 「死にたいなんて、これっぽちも考えたことが無いぜ。戦争に出るってことは、死ににいくようなもんだしな。なんで 、あいつはあんなに出たがるんだ?なんでもかんでも、自分が解決すればいいみたいな発想は止めてほしいよ…ったく。」

 シートにもたれながら体と小さくした。
 室内の気圧、気温、すべてが地上と同じ環境を作り出しているこのコックピット内でも、少し寒いのだ。常に点灯するモニタの文字がうっすらとぼやけ、マサヤは遠くに流れる小惑星帯に目をやった。

 「どうせ、俺は志なんて物は無いよ。かっこつけすぎだよ、闘って死んで、かっこいいかよ?死んじまったらおしまいじゃ無いか…。」

 俺は、自分を守ることで精一杯だ。だけど、それは自分を閉じ込めていくだけなんだ。
 こんな自分が嫌だ。
 この世界で、自分を受け入れてくれる場所、幸せになれる場所。わからない。だけど、なんで生きているの? なんて質問は、馬鹿げている。答えは簡単さ、死にたく無いからさ。
 生きて、幸せを感じられないなら、死んでもいい…?本当に?誰もがもがくんじゃ無いのかな…、あっさり死んじゃう奴もいるけどね。
 悟りなんてものを開くつもりは無いけど、笑顔で死んでいく…、苦しいから、逃げるように死んでいく。馬鹿げてる。死ぬことが美しいって言い出したのは誰だ?…最後の瞬間、笑顔だった人間は、自分の役目を終わったと勘違いしているのさ。自分の役目。
 なにがなんでも失いたく無いもの、守るもの。自分じゃない何か…『守るものが欲しい』。
 守られて残った人はどうなるんだろう?…その後、だれかにまた守られるのかな…。仮にそんな生き様は、辛いかな…。
 周りからみんながいなくなって、また違う世界に迷い込んだ。また…。

 「…ちょっと寒いな。気分も悪いや、全面モニタがいけないんだよきっと。怖いな…この感覚。」

 死にたくないから、戦う。でも、相手もきっとそう思っている。その相手を、自分のために殺してしまう。それがいいなんてやっぱり思えない。

 「クズハ中尉の勘は当たったな、敵は、ここで仕掛けてくるだろう。艦長。」
 「敵は我々の流れ通りに動いてくれているようだ。ちょっとばかり、予定より早いだけさ。」
 「クズハ中尉帰艦!。」

 ロイはRynexのハッチを開けることなく、艦内へモニタを繋いだ。艦長と連絡を返すとハッチをあけ、フランクに緊急整備を頼むと、ブライ、ストール達とレクチャーを始めた。
 バフラヴィッシュの誰もが艦外スーツを着用し、戦闘準備へ移項する。

 「…っ痛!」
 「なにやってんの!、第一種戦闘配備だぞ、邪魔しないでくれ!」
 「す、すみません。」

 人の流れに逆らって動いていたのは、エレンである。彼女は、自分の役目を捜していた。
 もともと Syrinxの受け渡しパイロットとしてその命を受け、師キャロルよりこの艦へ配属となった彼女だが、今では マサヤにその役を取られていた。
 エレンはブリッチに立ち、いつもの声とは違った少しトゲのある声で、みんなを驚かせた。しかし、艦長の耳には最後の部分しか届かなかった。

 「艦長!ハーデスへのSyrinx受け渡しは、私の任務だったはずです!、どうして、マサヤにやらせたんですか!?。」
 「…ん?、今は作戦実行中だ、状況からそれがベストだったからだ。クズハ中尉もそう言っている。それに君は非戦闘員だ。安心して艦の中央にいてくれ。」
 「そんなことは、どうでもいいんです、私が…なんで私じゃ無いんですか!」

 自分の意見を必死で訴えるエレン。今まで、マサヤの動きをじっと耐えてきただけあって、彼女の言葉は不満を吐き出していた。理屈とわがまま、状況をわける大人にとって、彼女は邪魔となった。
 艦長は自分の作戦を否定されたように感じ、少女に怒鳴り返した。

 「そんなこととはどんなことだ!?、君のわがままを聞いている場合じゃ無い!。」
 「で、でも…。」

 彼女は言葉につまった。自分の歳以上の男性に怒鳴られることは久しかったからだ。

 「でもじゃない!、誰かつまみ出せ!、邪魔だ!。」
 「艦長、作戦中だぞ。エレン君、君は待機していてくれ、頼む。マサヤ君のことは、私や艦長、それに、クズハ中尉の案でもある。」

 涙声の返事がかすかに聞こえ、ハッチは閉じた。

『力をください』

 生きる力が欲しい。充実感でも、爽快感でも無い。私は、私の力で生きていたい。
 守られているだけで何もできない自分が嫌い。自分のセンスで、今を生きている人がうらやましい。くやしい…私は何もできない、ただ、時が過ぎるのを待つだけ。やりたい、でも、周りが先へ先へ進んでいく…私だって…。
 そんな私は、生きている意味を見失う。なんでそんな私をみんな生かしておくの?。生かされなきゃならないの?
 だったら私にも、力をください!!

 機体は惑星ハーデス、中立区域境界に差し掛かる。マサヤは冷えた息を飲み込んだ。
 これから起こる試練を予期するかのようにSyrinxは沈黙していた。ふと、彼は空間の中に物体を感じた。ハーデスからの出迎えである中立区域監査局のL.E.Oだった。見慣れない機体は、赤とシルバーに染め上げられ、攻撃兵装の無いことを主張していた。それらはSyrinxへベーシック通信を使い、警告を促した。
 もちろん、これは中立地域ルールのようなものであり、マサヤは素直に受け止めると、クズハ中尉の命によりやってきただけであると答えた。しかし、返事は返ってこなかった。
 交信は途絶え、強烈な衝撃がSyrinxを襲う。
 監査局L.E.Oへ直撃の閃光が3回、半呼吸後に、その衝撃波がSyrinxを襲った、マサヤの体は激しく揺れ、頭部を座席左右の機器にぶつける。艦外スーツを装備していない彼はシートベルトのみのため、コックピットシートとの一体感がなかった。
 沈黙したシルバーの機体は、マサヤとベーシック通信を行うため、かなり接近していた。監査機の爆発は、Syrinxを吹き飛ばす。不意を憑かれた出来事に目はぼやけ、状況判断を鈍らせる。だが、考えるより先に、身体は反応していた。彼は、消え去ったパイロットの声に命の重さを感じていた。
 敵の攻撃は明らかにSyrinxを狙っており、監査機はその巻き沿いにあっただけだったのだ。

 「っなんだってんだよ!。」

 マサヤはの特攻は、ロイのそれに似ていた。閃光の火戦上に、すぐさま機体を上げると、加速し突進した。Syrinx矢のように鋭く変形し、敵を定める。敵の反撃を寸前で交わし、なお敵の腹にこするように擦れ違う。発生するCLAWの衝撃波は、敵を跳ね除け、ダメージと隙を与えた。
 その時だった、

 「う、うわぁぁぁ!。」

 敵の声が機体CLAWを通して触れ合い、マサヤの耳に届いた。感覚ではなく、肉声だった。

 「パ、パイロットの声!。」

 マサヤの鼓動は消え、全身の皮膚から血が引いた。振り向くように肉眼で敵機を見た。敵機は鉄の固まりではなくなっていた。
 Syrinxの動きが止まり、頭に上った血が引き、監査機の断末魔が過った。
 Styxに乗るフリッツは、新型L.E.Oにマサヤが乗っているとは想像もついていない。Syrinxの動きがわからくなった。すぐトドメを刺されると感じ、目をつぶり、人生を後悔し始めた。
 叫びたいだけ叫び、残りの弾薬を全て撃ち放ったが、四方に飛び散り、空しい爆音とお互いの荒い息だけが、耳で騒いだ。

 「コロ、殺す。………殺さないの?!。」

 マサヤの感覚の耳に恐怖とざわめきが襲ったとき、敵は、Syrinxに向けてTWIN SHOTを放ちながら突進してきた。マサヤは、座席から体が飛び出すように振り向き、スロットを後ろに引く、

 「なんで殺したんだ!、殺すことなんてないだろ!!。」

 マサヤのプレッシャーが敵機を襲う。CLAW粒子の少ないこの空間だったが、その波動はマサヤが掌握した。目の前で消えた命に憎しみが湧いていた。
 敵機の叫びをもはね除け、マサヤはSyrinxを変型させた。
 照準を敵機に定め、睨み付ける。コンソールに情報が飛び交い、距離が縮まり撃破率が上がっていく。彼が引き金が引かれようとしたとき、それは起こった。
 異様な音と主に、機内が共振しパイロットを混乱させた。

 「な、なんだ!、なんだよ、いったい何が起きたんだ…っおい!!。」

 目の前のモニタには、警告の文字と共に、機能の異常終了が始まっていた。計測機器系統は非常灯に変わり、不要のモニタは次々と消えていった。
 不安がマサヤを襲う。左右のスロットを激しく揺さぶるが、機敏に反応したその機体は沈黙した。
 赤く染まったコックピットで彼は、巨大な影を見るのだった。それは、星々を飲み込み迫ってきていた。

 「………なんだよ、あれ…。」

 光を発しないコックピットは、宇宙の光を満天に輝かせるはずだったが、巨大な物体が、暗黒ですべてを覆い始めた。そして、その闇の中に見えるはずの無い一筋の光が眩しく、こちらを捉えた。
 ひとつの無線がコックピットに入る。それは、惑星ハーデスからの休戦警告だった。中立区域での戦闘は厳禁であった。
 敵も機体の機能が停止しているようだった。マサヤは、当たりを見回し、自分の過ちを否定するように肩の力が抜け、だらりとうつむのだった。
 監査局に連行される途中、一つのことを思い出した。

 「…そうか、あれが、ケルベロスっていうやつか…あれが…。」

 すべてのCLAWエネルギーを無力化するケルベロス・システム。彼を包む闇は、静かに微笑むのだった。

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