TF

創作物語 ThunderForce forever

第14話 ハーデスの風 - 過去の自分が対峙するとき、何を思う -

 「ここでおとなしくしていろ!。」

 マサヤは少しの抵抗をしてみたものの、両手を後ろにまわされ、そのうえ手錠をかけられた。監査局の人間は、物を放り投げようにる彼を監獄に押し出した。右肩から右の頬へと地面に叩き付けられ、悔しさだけが残った。

 「頭を冷やすんだな。身柄が確認できるまでここにいろ!。」
 「さっきも言ったけど、俺はS.O.Lの、クズハって人の、クズハ中尉の…!。」

 扉は閉められた。冷たい音が部屋の中に響きわたる。マサヤは、押した人間が少し笑ったように思えた。ただ卑屈に考えているだけだと、気づいていない。
 うつむいたまましばらくの時間が立った。とぼとぼと両足で体を起こすと、壁にもたれるように体を引きずる。今になって、右頬が熱くなりはじめた。久しぶりの静かな空間だった。周りに人がいる時は、一人になりたくなる瞬間を感じ他人を避けるが、今となっては、バフラヴィッシュの活気が心に沁みる。GUARDIANSの起立と制度、そして、機械的な監査局と中立地帯、これらと比べると、忘れていた何かが、あそこにはあったように思えた。

 「おまえもここだ!。」
 「なんでですか!、ちゃんと条約通りに…。」
 「うるさい!入っていろ!!。」

 マサヤが暗闇の中に人陰を見た時は、扉の重く閉まる音が、響いていた。
 押し倒された彼も、マサヤと同様に両足で起き上がると、マサヤと反対の壁にもたれかかった。二人は顔を上げず、じっとしていた。先に声を出したのは、後に押し込まれた人物だった。

 「…あんた、S.O.Lか?。」

 若い声だった。低くない声には、震えがあった。その脅えた声に、マサヤは先刻戦ったパイロットを思い出した。そして、その彼は、目の前で泣きっ面をし、とれない手錠を引っ張ってはだらりと肩を落とす行為をくり返している。
 マサヤは、死を直面した過去の自分に重ねはじめた。目の前の人間に殺される感覚が頭を駆け巡る。だが、右の頬が熱く身体に訴えた。

 「…関係ないね…、先に仕掛けただろあんた…。なんで関係ない奴も殺した…殺すなよ、…そんなに簡単に。」

 トゲのある言葉で、静かに答えた。

 「さ、作戦…、だ、だから、は、はた、働かないと、みんな死んじゃうんだ。…死にたくない!殺さないでくれ!お願いだ!。」

 彼は抱え込むように小さくなった。
 二人の沈黙は続いたが、マサヤの方が先に牢獄を出ることになる。二人はかつて同部隊にいたこともわからず、最後の瞬間を迎えた。

 「マサヤ君。君の身柄は確認できた。君はGUARDIANSに所属していたからね、大変だったよ。クズハ中尉からの命とはいえ、確認の必要はあったからな。」
 「………。」

 マサヤは、目を伏せていた、暗闇に目がなれ過ぎていたからだ。白い閃光が、Syrinxのフレームを包み、機体を少しぼかしていた。
 大きな背中を持つ中高年くらいの男は、マサヤについてくるよう話し、護衛のガードマンを外させた。Syrinxのある部屋を後にすると、物々しい警備がなされている一つの扉の前に出た。
 背中だけでなく腹も大きな男は、後ろで腕を組みなおし、マサヤに自分の使命を告げた。

 「さきほどの機体、Syrinxの量産化が我々の指名だ。」
 「…!。」

 あまりの唐突なことに、マサヤは、息が詰まり目を丸くした。

 「どうやら、話せる口はあるようだね。」

 見透かされていた。マサヤは軍事的動きを知らない。たかが軍隊の中の一兵士である限り、それは当たり前である。だが、その戦う意志は薄く、それこそがGUARDIANSの進む方向に疑問を作った要因そのものだった彼の意識は、男のもつ真実に反応していた。

 「我々S.O.Lは、GUARDIANSという巨大な軍事圧力に屈服しないよう戦い始めただけではない。戦いが起る時、それには意味がある。」
 「…じゃあ、なんだっていうんですか?。」

 マサヤ自身は、素直な言葉を隠した。自分を牢獄に突き倒した態度に対して腹をたてていたのだ。話し掛けている穏やかな声は、途切れることなく、話を続ける。

 「乱暴に扱ったことは、お詫びするよ、マサヤ君。監視下にいる兵は、全て同じ扱いと言うのが我々の規則なものでね。」
 「規則…ですか…。」

 扉はスライドし、再び白い通路が奥に続いている。優しく発光する光は、通路の先をかすめさせ、距離感を喪失させている。そして、同じく彼の自意識も、一歩歩くごとに崩れて行くように感じられた。
 目が慣れてきたマサヤは、自分自身に一歩近づくのだった。

 「歩きながらですまんが、時間がないので話させてもらうよ。…我々は、アクエリアを中心とする中立惑星連合として、S.O.Lに肩入れすることは、あまり良くない状況を作り出してしまう。わかるね。我々は我々の生きる鉄則がある。しかし、あのSyrinxを造った技術者とのコンタクト、その流れを知り、すべてが変わったよ。我々もやらなければならないことがあるとね。」

 「…それが、殺しあう意味ですか…SyrinxとS.O.L。戦い、意味があるなら教えて下さい…。」
 「手厳しいな。確かに、殺し合いに意味はないな。ただの残虐行為だ。それに、我々の決意もまた、正しい保証はないな。」

 男は少し苦笑ぎみに口をやわらげると、話は続いた。

 「だがな、この戦いは、我々の生きている証を証明する、やり遂げなければならない大切な意味がある。……前大戦の時以来だな、死は恐くはない。」
 「…戦って、死んで、殺して…何になるんですか、僕らは今生きています。それでいいじゃないですか…。その道具にあの機体が使われるというなら、あんなものがあるから…!。」

 マサヤは、歩くのをやめ、ただ、下唇を噛んむだけだった。

 「するべきことがあり、それを力が妨げるのならば、力に打ち勝ってまでやり通す価値があるのだよ。」

 自分の価値と他人の価値観を受け入れられないでいるマサヤは、幼少の証でもあった。しかし、この男の『守らなければならない』ものは理解できた。男の背中姿は、大きな力を発していた。

 「前大戦、ロイと言う死んでいった部下に約束したことでもある。」
 「ロイ…、あの世界を救った…、」

 マサヤは、自分が感じていること、自分がしてきたことを、まるで見ていたかのように発する彼の言葉に包まれ、心のどこかで安らぎを感じていた。それは、幼少時に感じるとても懐かしい気持ちだった。
 自分の足下を見つめていた顔を上げ、再び歩き出す。永遠に続くような通路に終端は、さらにまばゆく光り輝き、広いドーム状に空間が広がる。そして、そこには、メインフレームと各部機器が接続されたL.E.Oが吊るされていた。

 「僕には、守るものも約束も何もない、ただ、殺し合うことしかできない。あなた方の道具にしかなれない。そんなのは嫌だ…。」

 マサヤの言葉は空を切り、男は厳しい口調が続く。

 「この世界は、これから君たちのような若い世代に受け継がれる。そのためにすることは一つだ。」

 広い空間にひとり、女性がいた。
 その女性は、白いボードに寄り掛かるようにもたれ、腕を組み、男に視線を合わせると、静かに口を開いた。

 「…今一つの戦闘が起きている。あなたの良く知っているところでだ。やはり、彼等はこの作戦を遂行しようとしている。だが、そうすることで多くの人々が助かり、態勢が逆転する。それだけだ。」

 マサヤからは女性が、この白い光と部屋のためか、霞んで見えた。彼女自身が光り輝き、そこから不安が彼を駆け抜けていった。

 「作戦…?!。戦闘??。」

 彼女の発した言葉には、妙な真実味があったのだ。男はそれに呼応するように、話しを始めた。

 「そうだ、作戦だ。我々の生き残りを賭けてな。…それにはこの少年に届けてもらったL.E.Oが鍵だ。君があれを届けてくれたこと、そして、今起きているGUARDIANSとの戦闘、すべて、ここまでは計算通りだった…が、君はどう思う?この賭けを。」

 マサヤは何も分からなかった。自分の考えなど、小さな意志でしかない嫌悪した。

 「賭けは成立している。軍事的にもうまくいくだろう、Reffiもそういっている。…この坊やはなんだい?。」
 「この少年は、あれのパイロットとしてここにきた。彼の言いたいことも分かる…、しかし、我々の道は間違ってはいない。ただ、辛いことだがな…。」
 「そうかい…。私は、あんたらの戦いに加わる気はないにほとんどない…、ただ、気になることがあってね…。」

 男女の会話は、マサヤの理解を超えていた。そんな中、わかる言葉を紡いで、精一杯気持ちを表した。

 「どこかで誰かが殺し合う、そんな世界…何が受け継ぐ世界だよ!、あんたらに守られて生まれた世界なんて俺はいらない!!俺はパイロットさ、世界を変えることはできなくても、命を守ることぐらいできる!!。」

 一瞬、目の前が白くなり、鈍い音が響いた。壁に体をぶつけ、何も見えなくなった。血相を変えた男の顔が、うっすらと過り、口の中に生温い感触を感じるのだった。

 「ならば、なぜ戦いに飲み込まれた!。君が生きる道を見出し、価値のあるものを守り抜くのであれば、この瞬間の命、そして、この先にある命を救えるかも知れない!!。命を守り抜いてみせろ!!、自分の生き様を歴史に刻んでいけ!!!。」
 「坊や…悪戯を見過ごすわけにはいかないんでね。過剰な進化の戦いが、私達を生んだというなら、戦いで進化を絶つことも救うこともできる。」

 いつのまにか、駆け出していた。あの場から逃げたかったわけではない。Syrinxの鼓動が欲しかったのだ。今の自分のすべてがあった。体中が悲鳴をあげていたが、気付くことはなかった。
 再び光り輝くドーム状の部屋に出る。Syrinxは静かに主を待っていた。コックピットシートに座り、慌ただしく計器をチェックした。

 「どこだ…、どこにいる、この近くに動くS.O.Lの艦艇なんて、そういるものじゃ…。それに、作戦!?。」

 モニタには付近を航行するいくつものS.O.L艦艇が計測できた。計測される予想到着地は、惑星アクエリア付近だった。これだけの生命が、戦争、いや戦いを始めようとしていた。それがどんな意味を持つのか、マサヤにはやはり理解はできなかった。ただ、モニタに点灯するその数に目を奪われ、探す艦を忘れた。

 「どうなっているんだ…??これ…。」

 Syrinxに通信モニタが点灯する。

 「マサヤ君、これだけは付け足しておく。バフラヴィッシュは、S.O.L揺動部隊として動いてくれている。君の見たモニタに映った艦艇を安全に集結させるためだ。そして、バフラヴィッシュが沈むことで、GUARDIANSはS.O.Lとの戦いを軽視するようになるだろう。だがな、ハミエル准将、クズハ中尉を含む全クルーは、あくまでアクエリアに到達、合流を諦めていない。」
 「坊や、ハンサムボーイに会えたら伝えてくれ、今度はゆっくり話せそうだ、とな。」

 やはり、見透かされていたと、マサヤの口元は緩んだ。緩んだ頬は、厳しく見つめた目元には届かず、視線は、一点を見つめている。

 「作戦は続行中だ。我々は我々のしなければならないことをする。君も、Syrinxパイロットとしてバフラヴィッシュに帰艦するのだ。」

 コックピット内に、Syrinxの最終チェックが終了するサインが出る。

 「マサヤ・キューベリック、Syrinx行きます!!。」

 カタパルトが動き始めた。

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