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創作物語 ThunderForce forever

第17話 灼熱の光 - 熱い想いを -

 Syrinxは、着艦した。
 すぐさま整備班が飛びつき、機体を細部に潜り込む。コックピットハッチは整備班により開かれ、マサヤは各整備班の指示に従い、Syrinxのデータを転送する。全ての安全装置が体より外され、彼はふわりと宙に浮きあがる。堅く閉ざした口元を見せると、勢いのある雰囲気でコックピット座席を蹴った。
 更衣室。パイロットスーツに初めて着替えたマサヤは、鏡に映る自分を見て我に返る。S.O.Lのパイロットスーツは、大人のものだけだったが、ピッタリ着こなされたスーツが、マサヤを祝福していた。そして、少し視線を下にずらすと、なにかつぶやいたようだった。でも、誰にも聞こえることは無かった。
 通路を進みながら、スーツの感触をもう一度確かめる。

 「クズハ中尉は、前方の敵を叩きに出た。」

 自分の発進までの間、守りに専念してくれる中尉に感謝をし、中尉の言葉を思い出した。

 『…君に、期待ではない伝えたい意志がある。』

 深い意識がこの戦いにあることを感じ始めた。拳に熱い何かが込み上げるようだった。もう一度スーツを確認し、

 「急がないと。」

 格納庫へのハッチは開かれた。
 緊張はあったが、期待もあった。騒音が鳴り響く格納庫のタラップを蹴り、格納庫を舞うマサヤ。

 「マサヤさん、これを!。」

 水の入ったパックが胸元に当たる。無重力の中、彼の流れる方向と逆に、エレンが流れていく。

 「エレン!ここの説明がわからん、すまん!!。」

 流れる下方から、彼女を呼ぶ声がした。

 「はい!、今行きます!!。」

 いつのもの声がし、すぐにタラップを蹴ってターンをする。マサヤが声を出した時には、彼女はSyrinxの前に降り立っていた。
 Syrinxは、惑星ハーデスでのメンテナンスを受け、マニュアルが書き換えられていた。

 「マサヤは、戻るよ。」

 ロイが2度目のカタパルトを出た後、フランクは、部屋で沈むエレンに声をかけた。この艦艇にSyrinxを知る技術者は、製造から携わったエレンしかいないことを知っていたからだ。真剣な彼の言葉は、エレンを動かした。そして、なによりエレン自身、何かをぶつける場所を得たかったのだ。しかし、笑顔は少し寂しげだった。
 その後、フランクは、彼女の感性に驚かされる。彼女はSyrinxのマニュアルに目を通すと、的確に意味を理解し、作業員と話を始めた。
 フランクは、口元を緩め、

 「制作者の癖は、感性の持ち主でしか、見抜けないからな。」

 持論を口にして納得し、技術者の胸が躍った。

 「あ、すみません、ですぎたこと…。」
 「いいから続けてくれ、俺らにはこいつの分からないことが多すぎるんだ…時間がない。」

 そんな彼女の経緯は知らないマサヤだったが、彼女を見て、うれしく感じた。そして、視線を彼女に合わせながら、水を口に含む。少し口からこぼれた水滴は宙を舞い、体が欲しった水が、口いっぱいに含まれた。のどに痛みがあるくらい溶けこんでは、飲み干されていく。
 マサヤはコックピット座席に手を伸ばすと、周りの整備員も彼の体を引っ張る。フランクも彼を強く引き込むと、マサヤは操縦桿を握り、自分を一気に機体に引き寄せる。
 座席に座るやら、操縦桿の遊び、先ほどと違った感覚を確かめ、メインモニタをのぞいた。
 フランクは、オペレーションの変化した部分をレクチャーした。そしてお節介に、自分の趣味をメインモニタ横に貼付けて後にした。マサヤは、正面に貼付けられた顔の写っていない裸体後ろ姿を戸惑いながら剥がし、操縦桿の握り確かめる。機体と自分のフィット感に胸が高まった。
 口にくわえたままの水は、パックごと離れていく。もう一度含んだときは少し、レモンの香りが広がったようだった。
 その香りが、ただの水を別の感情へ変え、マサヤはふと辺りを見回した。

 「えっと…。」

 周りの声が聞こえなくなった。Syrinxの火がいっそう激しく揺れる。コックピットハッチが下りはじめた。それを手でとめるようにエレンが首を出す。マサヤは彼女の声に振り向くが、そこには、スクリーンに映る格納庫だけだった。
 彼は、ヘルメットのエアロックを少しだけ叩いた。

 「行くぜ、…Syrinx。各部異常なし、CLAW値は正常です。」

 プロセスをしっかりと踏んだ、高まった荒い息づかいを自ら落ち着かせるためかもしれない。
 各部のスイッチが押され、テンポ良く機械は反応していく。プロセスの呼応は、艦の管制塔と確実に交わされ、すべてがマサヤとSyrinxを送り出そうとしていた。
 最後に艦長の声が入る。

 「よし、Syrinxは艦の前方の敵を落としつつ、クズハ中尉と合流しろ。艦の弾幕用意!。」

 会話に入り交じるように、各員への指示が無線に流れる。そんな雑音を振払うようにマサヤは続けて大声で話す。

 「でかいのがいます。それを落とすべきです。それと、みんなが戻れる場所は確保しておいて下さい!。」

 守れるのか…、自分の宣言は正しいかのか…、胸が熱くなった。

 「いうようになったな、熱くなりすぎだ。我々の座標軸を忘れなければいい!。」

 図星の言葉は、緊張の熱さを違うエネルギーへ変貌させた。余裕のある表情が見える。そんな彼は、体の汗と全身で呼吸をした。
 発進へのカウントダウンが終わり、滑走路に点灯するけん引ビームが、オレンジと白の発光体で機体を包み込む。それらの光が飛び込んでは消え、瞬く間に閃光の宇宙へ。

 「さっき、エレン…なんて言ったんだ?。」

 Syrinxを動かす体は板に付いていた。艦の前方から左へ、CLAW値の高い空間へ機体は自然に運ばれる。
 戦場の光は数を増し、Syrinxをかすめはじめる。
 次の瞬間、光線が、Syrinxを直撃する。だが、機体を覆うCLAWが、きれいにそれを弾いてくれる。コックピットに映し出される光の演出は、闘争本能を掻立てた。広がる光の筋と宇宙の星星、決してかっこ良くはない戦争と、はがれ落ちていく自分。むちゃくちゃな戦闘かもしれないが、彼は必死に敵を落とし始めた。

 「なんだあれは!?。」
 「次!、上!!。」

 Syrinxの動きは機敏に展開した。戦い方のマニュアルは消え、Syrinx本来の動きとなっていた。変形は瞬時に行われ、火力とスピードを分けた。機体は回転し、うねりながら宙を舞う。
 一つの座標軸から敵の動きが平行に消えていく。

 「…!。」

 バフラヴィッシュは見える。でも、肉眼では見えていない。体が見ている。
 後方に敵を見送ることが減っていく。敵の閃光は、Syrinxを何度もかすめ、ヒットしていったが、その度に、大きく強く羽ばたく機体となっていった。
 弾かれるCLAWの閃光は、敵の視覚に残像を作り出した。敵は、存在しないSyrinxへ幾度と照準を重ねている。自分の前方に現れる青白い機体と変化する光の流れを捉えたとき、すべては消え去っていった。

 「く,来るな!!。」

 敵機は恐怖を感じて声を上げていた。あらゆる弾が弾かれ、右に左に、そして、直線的に動いては、目の前をかすめる。敵の断末魔はそこまでだ。
 鬼が出現したようだった。Syrinxより後方へ出られる敵は、完全にいなくなったいた。

 「まだ!!まだ来る!、あのでかいのはどこだ!!、クズハ中尉!。」

 気迫は、恐怖ではない勇気と変わり、さらに奥へと機体の鼓動を高める。
 SyrinxのCLAWは残りわずかの残量を示した。

『君が生きる道を見出し、価値のあるものを守り抜くのであれば、この瞬間の命、そして、この先にある命を救えるかも知れない!!。命を守り抜いてみせろ!!、自分の生き様を歴史に刻んでいけ!!!』

 彼の心を過った。

 「みんなが生きているから、僕も生きていられるんだ。」

 目の前にある閃光が大きくなる、質量が大きい、CLAWはあっという間に弾き飛んだ。それでもなお、彼は前へ出た。敵の動きがゆっくりと見えていく。しかし、以前出会った死への入り口とは違う。もっと針の穴のように小さく、それでいて眩しい。穴は、時には暗黒に時には優しく誘う。無理と叫ぶ声が、どこからかこだまする。そして、激しく光を放ちはじめる。

 「行くんだよ!!」

 見ていないもの、知らないこと、ここにある世界のすべてがわからないのなら、解き放つしか無い。拒んでも先は見えない。
 一筋の光がのびては何かを貫いた。

 また一つGUARDIANSの戦艦が沈んだ。戦力の低下と士気の低下。戦場に光るその筋は大きくのびていく。
 CLAW粒子は、その光のもとに勢いよく流れ、ロイのRynexもそのエネルギーの流れに流される。彼は、厳しく光の先端を見つめると、その空域を離脱する。

 「ジーン、見ているかい?。人の可能性を忘れちゃいけない…そうだろ?。」

 「まだだ、ここで邪魔をされるわけにはいかない!、GUARDIANSは、すべては!。」
 「引くわ!。私達は、生きてやり通さなければならないことがある、この戦闘が全てではないはずよ、絶対!。」

 悔しさと苦しさが入り交じり、ジーンとシェリー、GUARDIANSの先鋭部隊は、残りわずかの艦隊となっていった。そして、撤退命令を出さざる得なかった。

 「長くなる…もっと、敵の意志は大きい…。」

 シェリーの言葉は、戦場に流れた。
 この宇宙全体を見ては、とても小さな光だった。だが、その意味は、覆う闇を照らしているに違いはなかった。光の筋はどの銀河からも見えたに違いない。誰も信じたくない、世界とその未来。それは、絶対の現実であり、貫き受け入れなければならない次の世代のがあるのだ。
 空間に漂うロイの機体は、予備スロットの出力をあげても、戻る気力しか残っていないようだった。各計器をいじり、座標軸をバフラヴィッシュにあわせる。

 「Rynex、またやってしまったな…。」

 苦笑するロイは、少し満足げだった。

 「中尉、ご無事で!。」

 ブライの機体はそれほど損傷が激しくはなかった。しかし、あちこちから火花が飛び散っているのが確認できた。

 「皆、無事か?。」
 「無事のようです。ただ、…何名かは…。自分に力が無かったからです…、確認、急ぎます。」
 「すまん、頼む。」

 ブライの声は、少し強張っていた。ロイは何も言わなかった。雑音まじりの彼の機体は、ロイと共に、その空間を後にした。
 絶対に不利な条件、しかし、その戦闘を終え、生きて戻れる者もいたのだ。
 疲れを見せないロイだったが、着艦は辛いものがあった。機体を固定してくれるアームは、形を変えたRynexを抱きかかえきれず、途中でもぎれる。カタパルトに左翼を激しく擦り付け、火花を散らす。奥に用意された3枚のネットを突き抜けて、ようやく止まった。
 ハッチが激しく開かれる。ロイはヘルメットをとると、出迎えた整備班に礼を言った。
 これだけの被害が出ても、また次の戦闘は避けられない。すぐに修復作業が始まるようだった。
 赤いランプが点灯し、警告灯をふりかざして次の機体が担ぎ込まれた。フランクがそれを見上げた時、機体は静かに着艦をし、アームに固定される。

 「エレンちゃん、よかったな。」

 慌ただしさは、永遠と続くようだった。
 マサヤは、気が付くとベットの上だった。白いシーツがひやりと心地よい。誰もいない部屋だったが、腕に通された針を抜き、自分からよたよたとふらつく足で歩きはじめた。
 通路を歩くと裸足に金属の冷たさが伝わる。痛いくらいだった。
 声が聞こえた。

 「この艦には、女性は少ないのよ、あなたは、もっと大人しくしなさい。」
 「でも…、私の役目は。」
 「まだそんなこと…、それも分かるけど、戦いは何も武器を手に取って戦場に行くだけじゃないの。」
 「…なんか、だまされてるような。」

 笑いが響いた。冷たい空間は、暖かった。
 マサヤは自分の生きている心地よさに浮かれたように、自分も笑うと、胸に手を当てた。そのままブリーフィングルームに足を運んだ。しかし、重い空気と笑いの混じった空気が、彼を出迎えた。
 後ろの扉が開いき、 立ち尽くすマサヤの肩が叩かれる。

 「今生きているその生を祝うんだ。君のせいじゃない。…私の責任だ。」

 ロイは、優しくマサヤに語りかける。だが、マサヤは声に出せなかった。
 しばらくして、マサヤは顔に笑みを浮かべ、ロイをからかうように話す。

 「…クズハ中尉、伝えたい意志って…何ですか?。」
 「ん、…いずれ、わかる時がくる。」

 ロイは少し微笑み、はぐらかした。

 「なんか…乗せられてちゃってるな、俺。」

 マサヤは手前にあるソファーに手を回し、飛び移る。目をつぶって頭に両手を回すと、笑いながらそう答えるのだった。ほんのわずか、空間が安らいだ。
 戦闘は、これからも続くことが艦内で話される。
 マサヤも中尉の言葉を借りて、自分の信じる道を歩もうと作戦を飲み込む。

 「アクエリアに到達できれば、これは、その後の作戦になる。到達まではハミエル准将の元、各自生き抜いてくれ。私も全力を尽くす。皆も力を貸してくれ。」

 無謀さは、さらにむき出しになっていった。
 彼らを乗せたバフラヴィッシュは大きく航路を変えた。ここから先は、作戦予定外だった。惑星ハーデスの重力を使い、さらに強く進路を定める。
 マサヤは星を眺めながら、ポケットにしわくちゃになったガムを取り出した。それを見つめると、広げて強く噛み砕いた。

 「マサヤ!、ここにいたか、探したぞ。」
 「チョコバーを賭けてカード、付き合えよ?。」

 何もかもが自然に溶けていった。
 苦しさも悲しさも…、小さな前進がまた次の前進を生んでいくのだった。

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