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創作物語 ThunderForce forever

第18話 惑星エクセリーゼ - 古き良き時代 -

 レオ星系にある惑星エクセリーゼ。銀河連邦を構える惑星レダの破片。姿こそ銀河連邦であったが、GUARDIANSと呼称されていた。惑星空間には組織が内部へと蔓延り、それを囲うように護衛艦隊を並べる。物々しい雰囲気は誰にでも分かる。
 惑星レダは銀河暦元年、銀河連邦本部を構え、その後、オーン帝国に対抗するべく銀河連邦軍を設立した。銀河連邦所属諸惑星の中心地として、また、オーンとの戦いが激化する中、資源、環境ともに優れた惑星として注目を集めていた。しかし、銀河暦868年、オーン帝国超兵器戦闘要塞プレアレオースにより破壊され、破片のみが思い出を残すこととなる。
 人々はこの破片に、元凶を打ち破った勇姿「Exrize」にちなみ、惑星名を命名する。そして、そこに寄生するように生活をはじめた。生活の光は、宇宙にむき出しに点灯し、過去への執着と後悔が広がっている。
 銀河連邦軍を讃えるこの都市は、光と物質で埋め尽くされ、人を魅了しては貴族を誘った。エリート階級はこの惑星に一度は足を踏み入れ、その尽くされた待遇、教育を得ると言われた。
 だれもがここを目指す、そんな時代は、今も続いている。
 一般市民の居住空間もあった。もっとも、それらの人々が活躍する場である船の行き交い、その物質搬入と売買、また、観光といった経済の主な役割は衰え、S.O.Lとの緊張が高まるにつれ、軍事関係の物質運搬を除き、街は活気を見せなくなっていった。
 そんな街の裏に位置するガード下で、一人の髭面の男は、背を丸くして新聞を読んでいた。人も車も漂うように行き交い、どこからか鳴らし続けるファンファーレらしき音楽、騒音が入り交じる。男はいらだちを見せて、立ち上がった。

 「腹減ったぁ、じいーさん、そいつを4つくれ。」
 「わるいな最近不景気だ、やめてくれな。」

 もう一度新聞を広げて、目の前の屋台に掲げられた古びたのれんをくぐると、腰をおろす。新聞の記事は薄っぺらだ。内容とも真実を語ってはいない。S.O.LとGUARDIANS、開戦のコピーも少なく、軍事行動は特に記載されていない。どこに目を通しても、くだらない記事だらけだ。口をへの字にまげ、のびた無精髭に手を寄せると、男は、食事にかぶりついた。
 棚にある瓶のふたをキュッと抜き、アルコールの入った水を、食べた皿に勢い良く注ぐ。

 「不景気なわけねぇよ、しこたま政府は金貯めてるぜぇ、じいさんも、こんなとこさっさと出ちまうんだなぁ。」
 「戦争始まっとるんじゃろ?景気に便乗じゃだめかね。」
 「なるほどねぇ…、じゃぁその長いハシのかわりに、銃がいるなぁ。」

 男の目は、酒を飲んでいる目ではなかったが、冗談に付き合うように、箸を見せる主人だった。

 「いらっしゃ……!。」

 笑顔は消え、急に食器を洗いはじめる。奥には、銀河連邦の制服をまとった二人の男がいた。
 主人の仕草から、男もその視線へ体を向ける。への字はさらに曲がり、あきれながら酒を飲み続ける。

 「世話を焼かさないでいただきたい。バーンズ・アシュフォード大尉。」
 「なんでぇ、もうだめかい…。」

 空は人工的に作り出される。だが、その惑星限りある空は、それでも高く白くある。
 黒い高層ビル、建設途中の錆び付いた鉄骨、崩れ落ちた白い建物、そんな歴史を語る建造物と入り乱れるネオンの光。体を思いっきりのばして、空を見上げる。
 バーンズは、再び背を曲げると、だらしなくジャケットのポケットに手を入れる。そして、制服の男の指す方へ、歩きはじめた。彼等の示すところは分かりやすかった。そこには磨かれた一台の車と、それを避けて歩く人々が見えた。

 「景気のいい人間は、戦争ごっこしてる奴だけかねぇ。」

 人の足をかき分けながら、歩いていく。すると、車に寄りかかる女性の足が見えた。

 「そんなことはないわよ。」

 車のドアの前に、白い制服の女性がいる。足下からすくうように見上げると、バーンズは笑い始めた。
 車は、静かに走り出した。先ほどの女性も一緒だ。制服の男は、前の座席にいる。ひとりは堅く運転し、ひとりは何やら機械を操作している。バーンズは、また髭をなでながら、ちらりと女性の方に視線をやる。

 「で、あんたぁ、何で戻った…?」
 「………あなたと同じ。」

 もう一度だけ目を向ける。

 「……そうかい。」

 男は車窓を眺める。移り変わる景色と光、反射する自分が交互に流れていった。
 街の光の中には、ところどころ燃え上がる炎が見える。惑星の断片にあたるこの星は、地表のあらゆるところからガスが吹き出ており、これを燃焼させる必要があった。また、これは有り余るエネルギーの象徴ともなっていた。
 男のため息も、そのゆらめく炎に呼応していた。
 やがて、車は、都市の中心部に所在する一際輝く建物に近付いていく。都市のあちこちから吹き上がる炎と管も、街に広がる見栄えだけの良い店も、ビルの谷間にあるゴミも、その色を薄くしていく。左右対称に平べったく居座るその建物は、中央から白くかすんだ空に向かって、管のようなものが伸びている。時折、光が管を登っては降りてくる。
 中心に向かうように、車は走り、物々しい警護と、幾度と無く通過するセキュリティーブロック。建物の奥へといくにつれ、惑星の破片を思い出させる景色が広がって行く。
 車を降りてから、しばらく歩いた。制服の男は、彼等の後からついてくる。バーンズは、時折後ろを振り向いては、頭をかいた。中央のエレベータで、男達からセキュリティーカードを受け取ると、そこで彼等と別れた。
  一緒の女性は、エレベータの壁にもたれ、本を読んでいる。小さな古い本だ。タイトルが分からないくらい表紙と裏表紙がかなり日に焼け、ほころびている。もちろんページの裾も汚れが目立つ。しおりの先端はよれよれだった。
  反対側の壁から見下ろすように、バーンズは彼女を見つめていた。

 「あんたぁ、もう十分だろ。…十分なくらい、殺したはずだ…。まだたんねぇのか…」

 問いかけると、全面ガラス張りのエレベータに光が差し込み、彼女の髪は茶色く揺れる。

 「あなたも…ね。」

 エレベーターに制動がかかり、耳がつんとする。

 「ちげぇねぇ…。」

 視線をずらし、適当に結んでいたよれよれのネクタイに左手をかけると、直すフリをした。
 白くかすんだ頂上から見渡せる世界は、銀河連邦の全てだった。経済力、政治力、軍事力。それを慕う人々。街の光は華やかに輝き、濁った空気は、遠くに見える惑星の果てを見せない。
 二人は、さらに奥に進んだ。

 暗い通路を、マサヤはニヤケながら流れて行く。ポケットから溢れんばかりのチョコバーが、見えては落ちそうになる。艦全体は静かだった。あらかたの修復作業をおえ、待機メンバーと主力メンバーは交代し、外に出て艦の修理、航行経路の索敵を行っていた。
 マサヤは、自然とL.E.O格納庫に足を向けていた。Syrinxパイロットとして皆と参戦できることに興奮した。タラップを蹴るとクズハ達の作戦会議を思い出した。

 「我々の当初の目的は全て達成された。…プロトタイプの奪取、主力L.E.Oの開発、GUARDIANSの攻撃目標を我々に向けさせたこと、そしてなにより、生きてアクエリアへ向かえることだ。」

 ロイの言葉の後、ハミエルは、両腕の肘をひざの上に立て手を組み口を開いた。

 「そうだ、だが、早速で悪いが、次の作戦が反銀河連合より決定された。我々は、艦隊集結予定ポイントより前方の第1防衛ライン側へ周る。予想されるGUARDIANSの攻撃の初期防衛となる。部隊は2つに分かれる。1つは応戦および艦の防衛に、そして、1つはそのままアクエリアスへ降下。ケルベルス制御装置を死守してほしい。」

 マサヤは反応するようにすぐに声を上げる。

 「…我々の戦力だけで、…そんな、連合は我々に自滅しろと言っているのですか?!…今の。」

 ロイがマサヤの方へ顔を向け、言葉をさえぎった。

 「我々が生き抜いてしまったことで、GUARDIANSによる我々への集中砲火は続く。そのことで連合艦隊の戦力を消耗させてはいけない。それに、すべての艦隊が後退するわけではない。我々と共に、この防衛ラインを維持する艦隊もある。」
 「マサヤ君の言いたいことも分かるが、戦いは長い、戦力は温存しなければならない。」

 まだまだ、マサヤは自己分析で戦況を把握しきれないようだった。だが、そのことに固執することなく、大人たちの議論に耳を傾ける。

 「…分かりました。じゃあ、次の作戦は、メンバーとして艦の防衛にまわりたいです!。」

 ハミエル、ロイは少し微笑んだ。

 「当然だ、君はSyrinxのパイロットだからね。」
 「ここには階級や制度は特にない、自らの意志による戦いだ。君の意志は、前の戦いで判断して良いと思ったからだ。ちがうかね?」
 「は、はい!」

 サングラスを取り、マサヤに目を向ける。

 「期待している、マサヤ君。」

 格納庫も格別静かだった。フランクを含め整備員達は休憩に入っていたのだ。宙を浮きながら機体に近付いていく。すると、Syrinxだけに光があることに目が強ばる。

  「だれだ?」

 近付くにつれ、誰かが座って、スロットや計器をいじっているのが見えた。笑い顔が消え、胃が締まる。こっそり自分の機体に挨拶するはずだったが、コックピットハッチに首を入れて怒鳴りつけた。
 そこには驚くエレンがいた。

 「!!…マサヤ……さん。」
 「!!…エレン…………さ、ん。」

 締まった内臓がさらに痛みはじめる。
 見ると、L.E.Oのマニュアル、作戦マニュアル、機体整備マニュアル、チェック工具とメモ、ケーブルが入り交じり、彼女をどかすには一苦労の絵が浮かぶ。メインモニタはU.P-Sのシュミレーションモードがセットされ、先の戦いを映像で再現されている。再現された映像は、3つに開かれたフルスクリーン・コックピットに映し出されている。
 マサヤは顔が曇る。怒りやくやしさからではなく、なぜだか、やるせない思いが込み上げてきたのだ。
 エレンは、マサヤに誤りの言葉をかけてきた。
 か細いその声に反応し、彼は顔を上げると、薄茶色をした彼女の髪の毛が、映し出される戦場の光に反射して、ふわりと揺らいでいた。彼女の横顔は、そんな髪の間から見え隠れする。
 片付けられるケーブル類にまぎれて、不意に一枚の写真が足下に落ちた。
 エレンはそれを手にすると、急に手元の資料をまとめ、座席から飛び出した。マサヤは我に返るように、慌てて手を伸ばして紙切れを丸めると、それをポケットに押し込む。

 「な、何!やってたんだよ…ここで。」

 もう一度、彼の顔を見るエレンは、はずかしそうに荷物をシートに投げた。

 「なんだっていいでしょ!、あなたには関係ないわ。」
 「関係ないわけないだろ!、これは僕のL.E.Oだ!!」

 エレンは言葉をつまらせ、何かを飲み込むようにしわを作っり、コックピットを蹴った。行動に予想がつかない彼女に困惑し、マサヤも後を追う。

 「あなたって、ほんとに勝手ね!」

 エアロックを過ぎた時、マサヤはエレンの肩を掴み振り向かせた。
 しかし、しまったとばかりに、マサヤは、手を離す。

 「…ごめん……。」
 「…もういいん…ほっといて…。」

 その時だった、交代のタイミングで姿を見せたフランクは、二人を見るなり怒鳴りつけた。主なパイロット要員は作戦待機中だったからだ。
 そのまま一つの部屋に押し込まれる。自修室だった。
 エレンは近くに座り込み、壁に寄りかかった。マサヤも不満そうにポケットに手を入れると、チョコバーがあることに気付く。
 数本取り出すと、彼女に差し出た。

 「……………さっきは、…ごめん。」

 アルミのような袋に包まれたそのお菓子を、静かに口に運ぶ。

 「…私こそ、ごめんなさい、…ただ、勉強したくて、…やりたかったん……。」

 サクッと食べる音が部屋に寂しく響く。

 「…それに…なんでもないん…。」

 エレンは口に含みながら、マサヤに聞こえないよう、言葉を濁していった。

 「…私、甘いのなんて、ひさしぶり…。」
 「…俺も…。」

 薄暗い部屋。甘い香りと口に広がるとろりとした食感が、満腹感を誘った。二人は眠気に襲われ、口数が減っていった。そして、いつのまにか寝ていた。
 艦に明かりが入り再び灯り、作業が再開する。マサヤは艦外補修に、エレンは引き続きL.E.Oの整備に、それぞれの仕事についていく。二人とも目を赤く腫らしながら、作業をこなし始めた。

 「これかい?こいつはすげぇぜ?、自分が恐くないのか?。」

 タバコをくわえながら、バーンズはガラス張りの部屋から下を眺める。

 「いいえ…自分だから…。」

 ポケットに入った手には、古い本も一緒だった。女性は、すっと手を出し、片腕をもたげる。
 目の前には、厳しく目を細め、背筋を伸ばした男がいる。すらっとのびた足、肩から胸にかけて針を見せるシャツ、男はズボンのポケットからライターを取り出すと火をつけた。
 後ろから照らす工場の明かりが、タバコの煙とガラスに反射して男をかすめさせる。
 バックフラッシュの中、タバコを灰皿に、右へ左へとゆっくりこすりつける仕草が見える。男の視線は、それを見つめている。
 ジュッと音とともに彼女を見た。

 「俺はオーンだろうが、人間だろうが、ためらわず殺す、…鬼……だぜ。」

 女性はうつむき、腕には力が入っていなかった。話す相手との距離はそれほど遠くないが、彼の言葉に、自分の真実を見つける。

 「私にも、鬼がいるわ。」

 彼女は、片腕を抱く手に力を入れる。白い制服は、しわを寄せ、光る前髪の隙間から外の眩しさを見つめる。目を拒めながらも、奥に鼓動する機体を、瞳に映した。

 「…そうかい。」

 男は堅く舌を滑らせる。
 ポケットから再びタバコを取り出しくわえた。表情の堅さをやわらげ、少し微笑んでるようにも見えた。
 火が灯り、

 「あんたぁ……。」

 男の呼吸と煙が入り乱れる。

 「………キャロル、お前は俺が殺すからなぁ。」

 「カイン・バートン大佐、奴らの空域に入ります。」
 「カレン、バーンズはどうだ?」
 「セオリーどおりついてきてます。」
 「そうか。」

 GUARDIANSは、ロイ達を叩くことを意識していた。
 CLAW計の数値が、変化しはじめる。カインと呼ばれる男は編隊をなすL.E.Oの真ん中に位置し、指揮を執っていた。しかし、CLAW粒子が大型戦艦の発するものと違うことに気付いた彼は、編隊を一つの生き物のように操り、形を作っては散り始めた。
 その間を縫うように、一つの青白い光が突き抜けていく。

 「敵機!?、展開が早すぎる、S.O.LからのL.E.Oでは無い。」
 「そうだな、…だが、まあよい、おそらく目的は同じだ。」

 寄り添い、また、一斉に展開するのが見えた。

 「………はじまったか。」

 遠く離れた場所でバーンズはつぶやき、スロットをゆっくりと動かし始めた。

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