TF

創作物語 ThunderForce forever

第19話 傍観者 - もう一つの白い機体 -

 青白い機体を数機のL.E.Oが追尾する。

 「1、2、3、…3機か。いいだろう、丁度いい…。」

 カインらを襲った青白い機体は、右旋回する。それを、数えられるL.E.Oが追尾する。
 追尾するL.E.Oは左へ、右へと球状の戦闘展開図をつくり、謎の機体を捉えようとする。しかし、徐々に直線の軌跡を描きはじめる。部隊はこのことに気付きながらも、敵機に対し威嚇射撃のみに留まっていた。

 「速いな…。」

 部隊の一人がスロットを戻し、天球上のスコープに敵機座標を映す。

 「焦るらないで、アベルにも見えてるでしょ。」
 「あのL.E.O…か細いくせに、なめやがって。…L.E.O、…カレン撃たせろ!。」

 しびれを切らしたのか、アベルと言う男は、さらに狙いを定める。スコープに移る機体は、確かにアベルの乗るL.E.Oとは正反対の細い流線型を見せていた。
 動きを捉えたかと思うと、すぐにロストし索敵に戻される。U.P-Sがすぐに追い直すが、やはり、座標が移り、ロックする寸前で振り出しに戻るだけだ。

 「やめとけ、あなたの武器では追えない。」

 別の女性が、アベルにささやく。細く静かな声だ、スコープを睨む目に力が入り、額にみえる模様が歪む。

 「レナ、てめぇ黙ってろ…。」

 体格の大きな男アベルは、好んでペインティングを体のあちこちにしている。頭は髪が無く、額ににじみ出た汗が目立つ。3機のうち、アベルの乗るL.E.Oだけが、自分の体に合わせてか、大型の武装兵器が多数見える。ただし、それらすべてがL.E.Oに食い込むように張り付いているため、巨大な弾丸ようにも見えた。
 狙いを定めるために用いたタイムロスが失速につながり、仲間は笑って茶化す。

 「レナ、生きていたらプランを変える、いいね。」

 カレンの通信を最後に、2機が左右にふわりと消えた。残りの1機がその間を貫き、謎の機体を追う。
 その機体に乗るパイロットは目を細め、口を開く。

 「なめられたな……。」

 少し失念した顔を見せ、速度を落としていった。銀色の髪がコックピット内でふわりと揺れる。

 「いや、………4機か。」

 気付いたのが遅かった。
 真後ろに憑かれたL.E.OからSEVERが放たれる。パイロットの表情が変貌する。攻撃を避けると、そのまま下方に流れ、見えない4機目の動きを予測しようとした。しかし、上下左右と、立て続けに攻撃が交差する。機体は旋回しながら、すべて擦ることなく躱すが、進路が限定された。
 パイロットの思考は、全ての敵を理解したが、罠にかかってからでは空間が閉鎖されていく。
 目前の巨大な武器が、激しく光りはじめた。

 「ちっ!。」

 謎の機体は、アフターファイヤーを見せ、耐えるGを変える。それに向けて放たれる大量のFREE-WAYは、機体めがけて囲うように追いつめた。球状の戦闘展開図、全ての死角をついては、攻撃を仕掛けてくる数機のL.E.O。機体は、残された脱出の糸口から追尾する弾丸を躱し、これをぎりぎりで消滅させていく。爆発が爆発を誘発し、巨大な燃える炎が広がる。
 からくも炎の中から黒点が飛び出した。だが、無情にも4機目がその機体を捉えていた。
 4機目は、カインだった。
 部隊が展開する瞬間、L.E.O内部CLAWを同調させ、エネルギーレベルを可能な限り落としていた。
 CLAWを必要とする機体には、すべてその流れを捉える装置があり、また、その変化をU.P-S索敵データにまわすこともある。機体は、光を吸収する配色をし、ボディ曲線は細く描かれている。これらをうまく利用し、カインは姿を消したのだ。
 再びカインは、CLAWを吸収する。
 謎の機体正面に出現し、突進していく。L.E.O正面に展開されたCLAWが輝き、彼と謎の機体がぶつかる瞬間、まばゆい閃光とも雷撃とも言えない青白い空間が、カインのCLAWを弾いた。機体同士は接触したようだったが、傷付いたのはカインだった。

 「っ!、何だ!?今のは!。」

 カインは、予想外の出来事にL.E.Oをふらつかせたが、すぐに機器と部隊を整える。

 「情報通り、理解できないものがある。だが、もう少し相手をしないといけないな。」
 「わかってます。もう一度いきましょう。」

 カインとカレンは部隊の流れをリセットし、攻撃を仕掛けようとした。
 謎の機体は、そのまま直線的に飛び続ける。パイロットは大きく息を吐くと、髪を両腕でかきあげ、頭の後ろで手を組む。

 「むかついた。…ヴォルフ、合流しろ。1機くらい落とす。ハンサムボーイへの手土産だ。」

 寄り添うように、どこからか黒い機体が、青白い機体の後ろについた。

 「なにかしら?。」

 資材強化のため、エレン、作業員を含め外に出ていた。宇宙空間である。バフラヴィッシュは作戦外の行動を行っているため、資材がすべてにおいて不足していた。
 幾度の戦闘を行った銀河連邦とオーン、各恒星系…その空間にはあらゆる残骸が放置されている。使えるものは、その場で用意することもできた。

 「圧縮酸素が低く設定されている。各自、時間を忘れないよう気をつけること!。」

 もちろん、不足は資材だけではない、空気も食料もである。
 グループ別に艦の周りを、人やハンドアームの取り付けられた作業機器が展開し、資材を集めはじめる。各自バフラヴィッシュからの命綱を巻き付け、めぼしい素材を見つけては飛びついて確認していた。
 そんな中、エレンは後方の空間に光を見つけた。星の光とは違う、素早く点灯する不安の光だった。まだ誰も気付いていない。
 慌てて班を割って出るエレン。手に取った資材を手放した。近くにいた班隊長は、彼女の行動に気付き手を伸ばすが、掴んだのは空しくも資材だった。彼女は艦外服に取り付けられた小型推進機に火をつけ、命綱の元をたどりながら隔壁開閉口に向かって動いた。

 「ブリッジに!、早く。」
 「おい!。」

 隔壁を今にも開けようとする彼女を、周りの人間が止め、班隊長自身が連絡用無線回線を開く。
 まどろっこしさを感じた彼女は、彼の持つ端末を、無理矢理引き寄せ、声を上げる。

 「戦闘の光が見えました。索敵をポイントY0333Bに合わせてみて下さい!。」

 彼女の言葉には真実みが少なかったためか、索敵班は計器を数点チェックするだけに終わった。
 彼等は光を見落としていた。そして、何事もなかったかのように、資材回収が続行された。 ハミエルがブリッジにあがったのその後だった。

 「どうした?」
 「外の一人が、何か見えたそうです。…索敵は続けていますが、どうもそれらしき反応は見当たらないですね。」
 「…うむ、まさかな…。戦闘態勢を第2種に移行してくれ。艦外要員も待避だ。」
 「しかし…。」

 ハミエルは少しでも危険の可能性があった場合、緊張感を高めることに趣をおいた。艦の空気は、前の戦闘より張りつめた感覚を失いつつあったからだ。生きてアクエリアに到達できる達成感、そして、緊張感の疲れが、そうさせたのかもしれない。宇宙空間のCLAW粒子は荒れることなく澄んでいた。そのこともあり、安心感も大きかった。
 自分達の後を消すように、光と熱エネルギーを抑え、CLAW粒子の流れを妨げないよう静かに航行するバフラヴィッシュは、敵に補足されずらいが、こちらも敵を発見しにくいのだ。

 「…わずかながら、CLAW上昇する方位があります、先ほどの奴です…。」

 エレンの発見からかなり遅れて、各種第一種戦闘態勢に移行しはじめた。ロイもその場に居合わせ、艦長、ハミエルと言葉を交わした。

 「大尉…。私は、追っ手なのは間違いないと思うが…、その…、戦闘を開始したわけが、分からん。」
 「まだ、味方という訳でもないですね…、おそらく、例の傍観者…、彼女かと。」

 艦長は、なるほどと少し不思議な顔をしながら、あごの少し伸びた髭をさすった。

 『傍観者』。以前よりバフラヴィッシュの周囲を一定距離を保ちつつ浮遊している謎のL.E.Oのことであった。このことは艦内部では暗黙の了解があり、誰も触れることは無かった。ロイが彼女と呼んだのは、ダイダロス・コーポレーションで知り合っていたからだ。ハミエルは、無表情のロイに苦笑しながらも、話をそらした。
 艦内は、戦闘態勢に各整備員の顔が曇っていた。当たり前である。やっと使える程度に戻ったL.E.Oを、もう一度バラバラにされるかもしれないからだ。ため息だけが交わされていた。
  エレンもSyrinxの下に潜り込んでいたが、男達のあまりの喪失感に、思わず声を上げるのだった。

 「フランクさん!、そこのバーテックスメータを取って下さい!。」

 コックピットのマサヤは、計器をチェックしていた。U.P-Sの感覚が気持ち悪いと、エレンと喧嘩したからだ。自分で調整しろということになったらしい。しかし、いざはじめると、ケーブルと測定装置に悩まされるのだった。それを見兼ねた彼女は、ハッチの間から顔出し、ケーブルを引っ張った。そのまま、ケーブルの根元に身体を乗り出して引き抜いた。

 「やっぱり、私がやります。退いてくださいん。」

 その時だった。エレンの左手にあった資料が、マサヤにこぼれた。資料にはダイダロス・コーポレーション社員の文字と、『キャロル先生のメモ』と書かれたものが見えた。彼は、その赤文字がエレンの見知らぬ感触よりとても印象に残った。

 バフラヴィッシュで各自発進が開始される。
 ロイに続きマサヤも出撃した。動けるL.E.Oはわずかだったが、艦の防衛部隊、戦闘区域へまわる部隊と2部隊発進することになった。ロイとマサヤは、戦闘区域部隊に任命された。

 「クズハ中、、いえ、大尉、昇進おめでとうございます。」
 「…はは、この組織にはそう言った制度は無い。今までのままでいい。マサヤ。」
 「しかし、大尉は『大尉』です。」

 組織と部隊の規律を持たせるために、艦長は、主な戦闘部員に位をつけていた。
 マサヤは、素直にそれがかっこよかったのだ。

 「大尉、少しよろしいですか?。」
 「ああ、どうした?。」
 「…戦いの中で、価値あるものを守り抜け、…僕はハーデスでそう教わりました。その人は、ロイという人の約束を守ると言ってました。」

 ロイは沈黙したが、マサヤは続けた。

 「父も白い勇士がこの世界を救ってくれるって言って、最後の戦場へ行きました。ロイという人物と白い機体、父の影響もありますが…この方が生きているとしたら、この戦争も止められるような、そんな気がするんです。」

 ロイは、自分に突き付けられた命題を再認識させられたのか、苦笑した。

 「…マサヤ、そのロイという人は、決して自分の命を犠牲に世界を救ったのではない。生きていくための理由は、人それぞれだ。彼は、あの戦いの中でしか生きられなかった。そういう男だ…。だが、」

 マサヤには、今までとは違う声に聴こえた。その声は続いた。

 「…だが、同乗したキャロルという女性は違った。何かを守り抜こうと必死だった…。……そう聞く。」
 「同乗したキャロル…?。…当時のL.E.Oはコパイロット性だったのですか!?。」
 「ああ…。」

 マサヤはふと不思議に思った。あの当時、技術とL.E.Oの発展は最高潮だった。現行システムは、ほとんどあの当時開発されたものの発展であり、U.P-Sも『ANONYMA(アノニマ)』という、コパイロット性廃止を決定付けたテクノロジの上に成り立っている。訓練生時代に嫌というほど教わった史実を、彼は思い出していた。

 「もうすぐ空域に到達する。艦の位置を悟られぬように敵を引き離す。空間のCLAW波に注意しろ、おそらく、ここ以外にも敵が潜んでいる。」
 「…!了解。」

 我に返るように頭を上げ、スロットを握る手に力を入れたが、彼は、キャロルという言葉を思い出そうとしていた。

 戦闘区域では、数機の小競り合いが行われていた。見知らぬ、まるでSyrinxを思わせる青と白のカラーをした機体。それに寄り添う黒い機体。その2機を囲うように、数機のL.E.Oが展開している。マサヤは、状況を把握しようとCLAW計と座標を読み取りはじめた。U.P-Sは機敏に反応し、全てのL.E.Oを捉えはじめる。エレンに感謝しつつ、彼はロイに続いた。

 「来たかぁ…。」

 バーンズは、コックピットでひっそりつぶやいた。彼は、その戦闘より遥か彼方に位置していた。動く光の粒が運良くスコープで確認できるくらいだ。
 彼の乗るL.E.Oは、長距離狙撃用の銃身を装備していた。機体中央にむき出しになっている銃身は、ほのかに暖まりを見せている。コックピット内に別に取り付けられたCLAWチャージゲージは、安定した数値を維持している。少しだけ上昇、下降するエネルギーの鼓動にバーンズは興奮する。
 これにはキャロル案によるThunderSwordが搭載されていた。
 ThunderSwordと呼ばれるモノの解釈は、研究者それぞれに渡りまちまちであったが、バーンズの構えるものは、キャロルによりRynex-Projectから引用した延長上の開発がなされていた。
 無限に存在するCLAW粒子を一点に集め、増殖と高密度の圧縮を繰り返す。この膨れ上がったエネルギー体を高速で放つ兵器である。L.E.O機体中央に加速装置である銃身を構え、先端部分は二つに割れている。この割れた隙間に、CLAW粒子を吸収増殖し、圧縮させているようだ。バーンズのCLAWチャージゲージが上がると、そこからエネルギー体の発光現象が確認できる。
 エネルギー体は、限定された固有周波数を持つCLAW粒子で構成されるため、放たれる瞬間、外部に存在する亜種のCLAW粒子と衝突し、一部が結晶化して飛び散る現象が起る。この結晶体は「Arcadia(アルカディア)」と呼ばれており、ThunderSwordの残骸として宇宙を漂うことになる。Arcadiaの存在が少なければ少ないほど、エネルギー体は純粋CLAWになり亜種のCLAW粒子中も影響(減衰、結晶化等)されることなく直進し、ある一定期間を過ぎて陽子崩壊する。
 現在の破壊規模は、ヴィオス攻略戦使用時の数倍と計測されているらしい。
 過去のThunderSwordは、CLAW粒子増殖炉であるユニットとそこに含まれる高密度圧縮、及び、その加速器に使われる材質開発の遅れにより、純粋CLAWを作り出すことができなかった。また機器も複雑に渡り連結され、Rynexでは、ドッキングベイが用いられたため不純物混入は必然であった。これらはすべて途中で結晶化し、飛距離および柔軟でかつ強力な兵器とはなり得なかった要因となった。Sword(剣)と呼ばれる由縁である。

 「やっこさん、出てきてくれたおかげで、デートに間に合いそうだぁな。」

 バーンズはスコープを覗いて、口走った。
 ロイとマサヤの来た方向から、バフラヴィッシュの存在する方位を索敵し始めた。U.P-Sを嫌うバーンズは、L.E.Oの操作以外これを使うことは無かった。索敵の算出は、オリジナルチップを持ち込み、その操作パネルを外付けしていた。そして、いつも自分の感を頼っていた。U.P-Sを使わないため、かなり索敵時間がかかる。彼は、何度もスロットを握り直しては目をしかめている。広大な宇宙に潜む一点を、肉眼と感覚で探していた。
 静かすぎる空間に耳鳴りが響き、彼の頭に、キャロルの声がこだましはじめた。

 実験所で白い新しい機体が鼓動する。実験用の計測器へつなぐケーブルが何本も束なり、あちこちから突き刺さっている。コックピットは無人。計器には濁った液体がこびり付いている。赤いのも混じっているようだ。人気は無く、整然としている。ただ、計測器が時を刻んでいた。
 白いシーツをよごしながら、男が叫ぶ。だが、管の入った口と鼻では蒸せるだけだ。目が充血しやせこけている。手にも管が通され、痛々しい姿が焼き付く。目は飛び出るように見開き、一人の女性を見つめては、また叫んだ。

 「これでいいのかぁ!?…この実験は、ANONYMAの…。俺は…お前の…。」

 女性は泣きながら椅子に座り、うつむいている。涙が手のひらから零れ、膝を濡らす。

 「ごめんなさい…、ごめんなさい…。」
 「謝るなぁ…、ちくしょうっ!。」

 男は呼吸を整え、手を開いては閉じ、何度も空を握り返す。彼の生死を分ける計測器は、淡々と音を出している。

 「生きるってことはすごい。生きるってことはすごい…すごいんだよ、バーンズ。」
 「…だからっ、だから…て、お前があいつを守る理由はねぇ。…くそ。」
 「…。」

 「懐かしい思い出だなぁ、…が、馬鹿げている…。」

 バーンズは静かに笑った。

 Syrinxはロイと二手に分かれ、多彩に動く頭を抑えることにした。

 「マサヤ、蛇の頭を仕留める。青白い機体は見えるか?。あれは無視していい。」

 自分の空蝉を連想させる機体は、数機のGUARDIANSに追われていた。だが、ロイの言葉は、それの防衛ではなく、破棄だった。攻撃展開を要請され、マサヤはロイの下を行った。

 「はっ!出たな、新型!!。」

 アベルは歓喜に満ちた。体の筋肉が躍動し、L.E.Oも鼓動した。すぐさまSyrinxの後ろにまわり、今までの欲求を解き放った。マサヤは、アベルの攻撃を理解していた。すぐに縦となり、減速しつつ変形した。目の前から消えたSyrinxに次々とアベルの欲求が爆発していく。
 意表をつかれたアベルは、慌ててスクリーンを見渡す、体を座席の外に乗り出しマサヤを捕らえようとするが、自分の放った爆風にまぎれ、部隊隊列すら乱した。
 仲間機は、そのことを告げる通信を投げると、白状にも彼を見捨てた。光と乱れるCLAW粒子によって焦るアベルに、後ろから大きな衝撃が襲う。シートに固定されていない彼は、そのまま正面の計器に頭を激突し、気絶した。マサヤは彼を撃ち落としはせず、機能を停止させたようだった。しかし、アベルの機体に取り付けられた武器に誘爆し、機体は半壊するのだった。

 「アベルが落ちた、レナ、拾ってやれ。」
 「カイン、バーンズの照射まで、時間を稼がないと。各自個々に展開要請をお願い。」

 カレンは、カインとの通信を最後に声が途絶えた。
 黒い見知らぬ機体が、その横を駆け抜ける。カインは歯を食いしばりスロットを握りしめる。彼のL.E.Oが加速すると、すぐ後ろをロイがついた。

 「なめるな!。」

 カインは、ロイと激しく衝突する。CLAW粒子が飛び散り、光の円が大きくゆっくりと広がっていく。
 Rynexは弾かれた。カインは旋回し、ロイを捉えようとする。

 「っっち!、このままでは!。」
 「大尉!。」

 マサヤは高速形態に変形し、ロイの救出に向かった。
 Rynexの整備は、徐々に悪化していた。無理な戦闘を重ねた結果だった。機体のバランサである各種バーニアからアフターバーナーが時折見えたが、機能してはいなかった。
 Syrinxがカインの後ろに回り、さらに加速して、カインの下を擦った。カインはSyrinxの機動性に驚き、方向を変えようとしたが、マサヤは、自分の機体にある防御SHIELDをカインにぶつけた。CLAWを集中させてはいなかったため、Syrinxも弾かれたが、ロイへのロックは外された。
 再びロイとマサヤは態勢を立て直す。だが、敵もまた、残った機体の立て直しを計った。

 彼方から戦場を見つめるバーンズ。索敵完了の音が、スクリーンと共に伝わる。彼は静かに笑い、CLAWチャージゲージを流して見た。徐々に上昇する数値。これが臨界に達した時、精密に計算されたバフラヴィッシュへの弾道計算と彼の感性が、成熟する時だ。

 「そういや、死んだロイは、生きてるんだってなぁ…ゴキブリ野郎がぁ。」

 ほのかに光っていた銃身が、さらに大きく光り輝きはじめる。バーンズのL.E.O周囲に広がるCLAW波が、一気に書き変わっていく。そのうねりは、予想より速く浸透していった。
 バーンズの右手の人さし指が跳ねた。眉を寄せ、目を細める。

 「やってくれるぜ…、キャロルの奴…。」

 大きく変化していくCLAW波形は、ロイ達の戦場にも届いた。ゲージが8割を超えた時だった。ロイは波形の異様さにRynexの向きを変えた。

 「この感覚…。」

 その隙をついてカインとレナの攻撃が降り注ぐ。しかし、Rynexの合間を縫うように、謎の機体と黒の機体が阻止する。この攻守の繰り返される。
 マサヤは謎の機体に気を取られながらも、ロイの言葉を忠実に守った。だが、彼も事の異様さに気付いた。

 「まさか…………、大尉!。」
 「分かっている。この感じ、やられたな…。狙いは…本艦か。」
 「お前ら、帰る場所を失いたくなったら、そのまま直進するんだな、まだ間に合うかもしれない。」

 謎の機体からの声だった。女性の声にマサヤは驚くが、そのまま答えを返した。そして、残像が残った。

 「間に合ってくれ!。…この感じはエレンの時と同じだ…、だけど…。」

 あの時と同様、マサヤはスロットを目一杯引いた。高速モードは乱れるCLAW粒子を取り込み、加速を増していく。
 バーンズのゲージは9割を指しはじめていた。

 「いい感覚だ、あの坊や。そうだろ…ロイ・マーキュリー中尉。」
 「………ああ…、残りは手伝ってくれ…。月のセネス・CTN・クロフォード。」

 レナがマサヤを追おうとしたが、ロイ達の攻防の前に閉ざされた。
 Syrinxが敵意に近付くつれ、過去の経験が着実に重なって行く。マサヤは体を乗り出しながら、機体と気持ちを前へ押しやった。

 「…だけど、今度は敵が狙っている…。撃たせるものか!!。」

 SyrinxのCLAW計は激しく変動し、警告が点灯しはじめる。
 その時だった。眩く揺らめく不安の中心に、機体は飛び込んだ。CLAW波は一点に向かって規則正しく流れだし、流れた先で拡散反応を繰り返す。
 バーンズのL.E.Oは、軋みはじめている。測定機器の全てのレンジは振り切れはじめる。額から汗を数滴流し、Syrinxの気配を感じながらもスコープの一点を見つめ続けた。

 「キャロル、…すげぇ、かわいいぜ。」

 ついにゲージは振り切った。
 バーンズの機体下方から放たれた巨大な渦は、Syrinxの右を大きくかすめていった。マサヤは弾かれ、CLAWの「波」と「うねり」が空間に乱反射していく。
 マサヤは叫んだ。警告灯が赤く点灯し、コックピット内各計器にノイズが走る。バランサとU.P-SがSyrinxを静止させようとするが、マサヤは激しい光に目を伏せ、間に合わなかった自分に対し怒りを投げ続けた。
 ThunderSwordの余波が、Syrinxを再び襲う。衝撃波の中、マサヤは辛い目を開き、敵の位置を感覚で探った。モニタは揺れ、何も見えない。手動で機体を立て直すと、空間に乱れるCLAWの渦を突き破るように突進する。そして、数発のBLADEを放った。
 スナイパーのバーンズは、動く機敏性を持たない。Syrinxの攻撃をそのまま受け入れた。

 「!!う、うそだろ!。」

 後方で光る爆破に目をやる。その光の筋は、明らかにバフラヴィッシュを狙うものではなかった。バーンズは、その方位にロイがいることを知っていたのだろうか。
 ロイからかすれた通信が入り、無事を確認すると、マサヤは直進した。計器を叩き付け、首を振りながら、バーンズへの攻撃意志を理解しようしていた。

 「バーンズが落ちたか…。作戦は失敗だ、全機撤退。」

 カインは、何の成果も上げられなかったことを悔やんだが、パイロット技術の違いにいらだちを覚えた。

 「…殺意はあったんだ……。それに、みんな死なずに済んだんだ。…でも、なんであんな…。」

 気持ち悪くなる。宇宙が回転し、酔いが増していった。
 Syrinxは帰還の座標中心を指していた。彼は、苦しさを振り切るように何度も頭を振りつづけた。ロイの機体が合流した時、辺りはいつもの見なれた残骸だけが目に残る。

 「中尉、…マサヤ、戻ります…。」
 「ああ、よくやった。」

 Syrinxはその場を後にする。ロイ達2機の白い機体も、残骸を見つめ、後に続いた。

 「…あの機のパイロット、…若すぎるのか。似ているな。」

 銀色の髪の女性セネスは、呟いき、少し自分を見つめていたようだった。
 ロイは、彼女の機体の近くにL.E.Oを寄せた。

 「君は、どうする…。このまま見ているだけか?。…私に責任はとれない。だから戦っている。」
 「気にするな。お前一人が死んだところで、歴史は変わらない。」
 「…そうだったな。」

 一人の女性がバフラヴィッシュに訪れるのだった。

 GUARDIANSを構える惑星エクセリーゼ。部隊を収容した船が一隻着陸した。
 数人の男が担架で病院に担ぎ焦がれる。それをキャロルは待っていた。そして、そのまますれ違う。その中にはバーンズも含まれていた。バーンズは、廊下の上を見つめながら、彼女に声をかける。急ぐ医者の足は止まり、彼は口を動かした。

 「…生きてるぜぇ。すげぇだろ、…っは、次はどうすればいい?。」

 キャロルは、バーンズの顔を見ることなく、うつむいている。しかし、すぐに彼に一歩体を寄せた。そして、見下すように顔あげ、目を見開く。口は閉ざしたままだった。

 「この前と同じ……だろ。今回の結果次第で次が出るはずだ、どうだ?…。乗るのは、ロイか??。…気にするなぁ、また乗ってやる。」

 笑いながらバーンズは彼女を見る。その眼差しに憎しみは無かった。
 キャロルは少し顔を崩しながら、後ろを振り向き歩きはじめた。彼女の抱えていた次期L.E.O設計プラン書が落ちる。それを横目で見るバーンズ。彼の担架は、奥へ進み、赤いランプが点灯した。

 「……ん、な、…さい。」

 小さく彼女の心が残った。

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