TF

創作物語 ThunderForce forever

第20話 英雄とは - 今を生きる -

 激しい炎をちらつかせるL.E.Oと違い、青と白の澄んだ小型戦闘機。ロイの乗るRynexと共にその機体は着艦した。
 洗礼された曲線を描く機体シルエット。その静けさを形作る小型戦闘機は、艦内クルー達を圧巻させた。
 間もなくして、Syrinxが固定される音がした。各連結シャフトが軋んでは、低い音を立てていた。その機械音がマサヤと彼の機体を出迎える。
 Syrinxには、焦げた粒子が結晶となり付着し、先ほどL.E.Oとは対照的だった。

 「マサヤ!やったな!!。」

 フランクは、コックピットから出るマサヤを担いだ。彼に続いて、メンテナンススタッフが彼を励ました。

 「これで、お前はこの艦を4回も救ったことになるぜ。もっとうれしそうな顔しろよ。」

 マサヤは浮かれてはいなかった。無意味な攻撃と戦意のない敵への発砲が頭をよぎる。

 「…4回も、でしたっけ…。」
 「撃たなきゃこっちがやられてたかもしれないんだ。素直に誇れよ。」

 彼の言葉に軽く返事をすると、パイロットスーツのジッパーをゆるめ、その場を去っていく。そんな彼を視線で追うエレンも、Syrinxはスタッフとともに、メンテナンス作業へと移行していく。

 「元気そうだね、うれしいよ。」

 澄んだ目をした見知らぬ女性が、エレンに声をかけてきた。

 「やっぱり、セネスさんでしたか!お久しぶりです。」

 その女性は、淡い色をした布を羽織るように身にまとい、彼女の前に現れた。その容姿は、全く異なった形状の服であるため異質を放っている。だがエレンは驚くことなく彼女を出迎えていた。彼女を知っているようだった。
 名は『セネス・CTN・クロフォード』。ダイダロス・コーポレーションの創設当初より身を寄せている人物であり、亡霊戦争をエレンと共に経験している。エレンは、当時より特に親しいわけではなかったが、容姿からは想像できない的確な言葉と経験に引き付けられていた。ただ、一般的には、冷たく流す仕草が人を寄せつけず、社内で彼女に声をかけるものは少なかった。
 セネスは、オイルまみれなエレンを見下ろすと微笑み、小さなクリスタル・キューブを取り出して渡した。

 「そうね、あなたにこれを渡しにきたの、世話になった私とヴォルフからの礼よ。ありがとう。」

 エレンは、両腕に抱えた作業工具と資料を降ろすと、手の汚れを服で拭い、少し不思議そうに受け取る。そして、一礼すると、Syrinxへと流れて行った。
 ゆっくりと隣接しているSyrinxにセネスは目を向ける。機体撫でると、少し笑ったように見えた。

 Syrinxを後にしたマサヤは、通路の窓辺に頬杖をついていた。どこまでも広がる宇宙と星星は、どことなく落ち着けた。
 戦闘の緊張感がほぐれ、宇宙での酔いと疲れが彼を襲う。マサヤは夢を見た。
 遠い戦争の中、父が旅立ち、母を残して自分も旅立つその時間の旅。白いL.E.Oが世界を救うその夢の旅。

 「ジーン大佐。自分は、大佐の所属する部隊に入隊でき光栄です。」
 「…未来を担う兵士として、君らを受け入れる。しかし…残念だが、同じでなはい。」

 白いL.E.Oに乗り、世界を暗黒の淵から救った英雄。

 厳しい訓練、宇宙空間での酔いが、マサヤの部隊意識を遠ざける。
 模擬飛行用Styxが3機対になり、試験官の乗るL.E.Oを追いつめる。
 その光景で、1機、隊を乱す。

 「マサヤ、俺達を見殺しにする気か!?。」
 「俺は大佐を落とす!。」

 編隊軌道を完全にやぶり、Styxは、目に飛び込む星とGを共にする。
 しかし、無駄の無い敵の動きが、マサヤを捕らえた。

 「まだだ!。」

 敵の弾道を素早く揺らして躱すと、急制動をかけ、敵機後方に出る。その強烈な逆Gが意識を遠ざける。だが、スティックは正確に操舵され、形勢は逆転する。
 身体がほてり、心臓の鼓動が耳元まで込み上げて来た時、

 「敵は一人じゃないんだ、マサヤ。」

 不意に入る通信。コックピットはアラートを鳴らし、赤に染まる。
 後方の別動隊が、彼をロックオンしていた。

 ロッカー室。うつむき座り込むマサヤ。

 「マサヤ、お前は、ジーン大佐と対等のつもりか?。」
 「…、放っといてくれ。」

 部隊講義もまともに受けようとしなくなり、さぼっては外で空を眺めている時間が増える。
 ジーンに認めてもらいたい自分と、それを拒否する自分が交差する。自分で焦りをつくり、不安をつくり、でも、逃げ出す口実もつくっていた。あの時、

 「さわらないで!。」

 同じ歳くらいの女の子に、銃口を突き付けられる。そして…。
 引かれることのなかった引き金が、引かれる。

 息が詰まるような勢いで夢から覚めた。何か大きな声を出したかった。そんな感触。
 気付くと誰もいなかった。壁に寄りかかり、地べたにぺたりと座り込む。

 「…俺だって一人じゃない…。」

 吐いたため息からクシャミが出た。汗で冷えたアンダーウエアのせいだった。

 「ジーン!。」

 シェリーは通路ですれ違う彼を呼び止めた。きつい表情が彼を捉える。ジーンの手に持ったショルダーケースが、彼女とすれ違い様に通路に落ち、中身のクリスタル・キューブが散らばる。
 彼は、ゆっくりと手を伸ばして丁寧に取り寄せた。

 「撤退するって、どういうことだ!?私は納得いかない!。」

 ケースに片付ける動きは止まらぬまま、彼は聞き入った。そして、ひと呼吸おいて答えた。

 「大きな作戦が動いている。今、ここでこれ以上の消耗戦をするわけにはいかないんだ。」
 「消耗戦?馬鹿か!、これは追撃戦だ、彼等の解体が目的じゃないのか?。」
 「確かにそうだ。いや、そうだった…本体はそれではない。一部の派閥に過ぎない。」

 ジーンは自分に嘘をついているようにごまかした。シェリーもまた、嘘をついていた。艦の向きも既に逆をいっていた。すべてが納得いかない彼女は、その場を後にする。
 ジーンは、ただ、散らばった荷物をまとめあげていた。時々その動きが止まり、目を閉じては、眉をひそめる。

 「ジーン大佐、あんたが苦戦するわけが分かった。私達もそれにやられたよ。」

 ジーンの片付ける仕草をあざ笑うように、一人の男が、通路の壁にもたれ、声をかけてきた。
 男はカイン。ロイ達の追撃線を先ほど行った別部隊『カウンターフォース』隊長である。彼は、ロイの部隊のことをそしらぬ顔をして、話し続けた。
 ケースを片付け終えたジーンは、彼を見ること無く、その場を去ろうとしたその時、

 「…だが、私達は負けない、血で飛ぶ大佐とは違うんでね。」

 カインの言葉に一瞬硬直するジーン。

 「何が言いたい…。」
 「そうだな、FireL.E.Oが私にもあればな、奴らを苦労せずに淘汰できるということだ。大佐。まぁせいぜい、老人達のお守をしていてくれないか。」

 そう言うと、ジーンの肩を軽く手を置き、去って行く。
 ジーンは黙って頭を上げ、通路を歩きはじめた。手に持った資料は、多くの難民リストだった。
 彼はブリッジに戻ると艦長と会話をした。ものの数分の会話だった。軽く礼を言い、後にする。シェリーが来たときは、彼はもういなかった。

 「彼は何を話しました?、艦長。」
 「…何でも無いよ、ただ、この艦に籍を置けて光栄だった、と言っていた。」
 「それだけ…?。」

 シェリーは、目をそらすと扉へと歩いた。艦長は、付け足すように言った。

 「ああ…それと、淘汰すべき布石を投げているに過ぎない。だから、今はこれでいい……と、も言っていたな。」

 彼女は足を少し止め、そして、扉の奥へと進んだ。
 艦長はシェリーの後ろ姿を見て、ため息をついた。そして、前方の星系図を眺めて、航路の指示を怒鳴った。

 ジーンに配備されたL.E.Oコックピットは、光で満ちていた。L.E.O格納庫を、ひっそりと明るく照らしている。
 コックピットシートには、少しの荷物と1本のワインが置かれていた。

 「まだやらなければならないことはたくさんある。私は、次に進む。君も何かに向かって進んでいてほしい。」
 「ジーン…、昔は良かったね。ただ、走り抜けるだけで良かった…。」
 「…私は、今も十分走っているつもりだがな。」

 軽い笑いが通り抜ける。

 「オーンを根絶させるべき道が見えてきたんだ。それもあってね、ここを離れるにはいい機会だ。このままでは、負け癖がついてしまう。」
 「またね。」

 一つのシルエットが隣り合わせの機体に陰る。そして、静かにアークエンジェルにL.E.Oがジョイントされ、ジーンは艦を離脱した。

 「准将、話があります。」

 ロイは司令室にセネスと共に足を運んだ。
 扉が開くと、ハミエルはじっとロイの顔を見た。そして、重い腰を曲げ、頬杖を組むようにうつむいた。

 「まさかな…本当に会えるとは…。」

 目を閉じたまま、彼はそう口を漏らすと、セネスはロイの前に出て、彼を見下ろした。

 「この間は早すぎたからな、お前らは生きてここにいる。だから来た。」
 「死んでほしかったようだな…すまぬがまだ死ぬわけにはいかんのでな。」
 「准将…。」

 ロイはサングラスを外す。
 ハミエルは、艦長を退室させ、語りはじめた。

 「…暴君を許してくれ、すまない。」

 少し間を置いてハミエルは大人げなさを改めた。

 「セネス君、君の気持ちも分かるが、我々は全てを解放したいと願っている。それでは足りないか?。」
 「それでいい。ただ…失敗するな。」

 ロイは、彼女の言葉の重みに少し目をそらしたようだった。そして、少し口を開くと再び彼女を見つめる。
 セネスは続けて言った。

 「私個人の気持ちだけでは、どうにもならないことだ。私達も多く血を流した。そして、多くのことを学んだつもりだった、が…、間違いは正せねばならない。それをあなた方がやると言うのなら、別にかまわない。私はあくまで私的に物事を動かしたく無いだけだ。時の流れに身を任せたい。…悔しいがな…それがReffiと私の結論の違いだ。ただ…成し遂げてほしい。散った命は戻らないのだからな。」
 「…そうか。」

 ハミエルは重く返事をし、目をつぶった。

 「ハンサムボーイ…いいや、もういいだろう、ロイ中尉…。」
 「悪いな、今は大尉でな。」

 ロイは彼女の話を茶化した。セネスも苦笑すると、

 「この戦いはお前が起こさなくても、私が起こしていた…悲しいが、そんなもんだ。気にするな。ただ、昔の悪い癖を、時々思い出すようだ。気をつけろ。」
 「…そうか…。キャロルにそういわれたのか?」
 「意外だな…。嫌いじゃないな、その感覚。」

 ロイは、ハミエルに目を向け、ひと呼吸おいて話した。

 「力で力に対抗することは、愚かなことであり、何も解決にはならない。だが、生きて成し得なければならないことがある。」

 Syrinx。それと形の似た小型戦闘機。ひっそりと寄り添っている。格納庫の中で、この2機は強く何かを語っていた。
 過去の大戦でその窮地を救ってきたのは、なによりFireの称号を与えられた白い獅子だった。そして、それを自在に操る銀河の英雄だった。機体は戦火と英雄を求めるのだろうか…。
 ひっそりとしたこの部屋に、一点だけ光輝いている。そこは、多くの資料が積まれ、操作されていない情報端末が見える。
 そして、小さな寝息も聞こえていた。

 アクエリアは、もうすぐだ。

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