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創作物語 ThunderForce forever

第21話 アクエリア攻略戦前夜(前編) - 理想と現実 -

 惑星エクセリーゼ。銀河連邦本部の置かれるこの地において、GUARDIANSは、アクエリアに集結しつつあるS.O.Lに対し、徹底交戦を迎える準備を進めていた。その中心と思われる人物は、声を高々と上げ、強く自分達を主張していた。

 「ケルベロス・システムは、CLAW粒子をエネルギー源とする主な機器を、完全に停止させることができる。エネルギー革命の歴史をなぞっても理解できると思うが、現状では、ほとんどの兵曹、宇宙移動機関に、この機構が取り入れられており、CLAW粒子なき今日の繁栄はなかった。一方、このエネルギーを抑制することで、絶対防御を確立させることもできる。かのオーン帝国は、その制御法を特定範囲のみに限定したため、小型戦闘機による突破が可能であったが、今日、我々の技術により、全ての攻撃兵曹を無力化することが可能となっている。このシステムは今回の悲劇的人類同士の戦争に終止符を打つ最適な手段と考えられる!。」

 明らかな自己中心論に、一人の男がため息をついた。
 声の主は、続けている。

 「無血開城に向けて、ケルベロス制御パネルを我々は全て押さえなければならない。もちろん、S.O.Lもこのことを考えている。ケルベロスを手中におさめることで、我々の戦闘能力を無力化し、降伏させるつもりなのだろう。それは断じてならない。我々銀河の繁栄は、我々銀河連邦軍の存在があってこそだ。過酷なオーンとの戦争も、我々努力によって終わりを告げることができたのだ。ここにきて、我々を力で排除し、権力を奪おうという行為が、どれだけ愚かなことなのか、だれもが理解できよう。」

 先ほど、ため息をついた男は、ぶつぶつと、小声で反論を説いていた。

 「なぜ、そこまで言い切れる?、オーンを淘汰したのは銀河連邦であり、ジーン大佐だ。銀河連邦軍はむしろ、失態じゃないか。馬鹿げている。」

 しかし、主張は途切れない。

 「我々は誓ったのだ!。オーンとの戦争を終え、オーンにより焼かれた大地を蘇生し、全ての連邦国民に対し、全ての秩序を取り戻すと。ここにきて、我々同士が争うのは間違っている。我々は断固と彼等の武力を反対する。そして、我々の彼等に対するこれ以上の武力制圧も、これに付け加えておく。それには、ケルベロスがかかせない。なんとしても、最低2つの制御パネルを、我々の手中に納めるのだ。」

 声は、高々と掲げられ、集まった士官に視線を降ろしては、賛同を求めはじめた。
 眉をひそめた男は、もう一度ため息をつき、手元の資料を覗きこむ。そこには、作戦内容がこと細かく書かれ、必要不可欠と叫ばれたケルベロスについても、当然記載されていた。
 過去、オーン帝国が造り出したケルベロスは、オリジナル・ケルベロスと呼称され、その位置は、レオ恒星系、オーン恒星系、ライト恒星系の中心、各恒星系を結ぶ航路に配備されていた。このため、戦略上重要な役割を担っているといっても過言ではなかった。さらに、システム制御をオーン帝国独自の物から受け継ぎ、複数のコントロールパネルを必要とした。過去において、これは、5つのコントロールパネルであったが、現在、3つに搾られ、うち2つの過半数が同じ制御することで、初めて機能するよう改変されていた。これに対し、銀河連邦が複製した、小型(小型といっても、それ相応に巨大である)のクローン・ケルベロスシステムは、辺境惑星に配備されており、各惑星自治体権限に委ねられている。各パネルは、各恒星系に分配されていたため、オーン恒星系から派生しているS.O.Lは、すでにうち1つを手にしている。また、レオ恒星系に本部を持つGUARDIANSも、1つ所持していることは言うまでもない。
 残るは、ライト恒星系、惑星アクエリアにあるもののみであり、これが、どちらの勢力に下るかで、戦局は大きく左右されることになる。まして、この主張で問われる無血開城を考えるならば、なおさらである。

 「ライト恒星系にあるパネルを我々の管理下におかなければならない。しかし、残念なことに、現在ライト恒星系は我々と良き関係にない。幾度の交渉も無駄に終わっているのだ。我々が平和的解決に、これほど努力を惜しまぬというのに、この間、S.O.Lは、ライト恒星系にある制御パネルを、武力で奪おうとしている。何たる事態だ。主な戦力をアクエリアに集結しつつあるではないか。これを許すわけにはいかない!。我々は、なんとしてでも、彼等の武力解除を行い、全ての銀河に対し、再び秩序を取り戻すのだ!!。」
 「ですから…。」

 男は声を出そうとしたが、席からの多くの視線に、言葉を留めた。
 作戦会議は終了した。
 彼は、飲みかけの紅茶を口にすると、ちらばった自分の資料に目を落とした。大きなため息をつかれ、これをきれいに揃えると、部屋を後にした。
 ドアをくぐり、少し日差しの強い外へ足を運んだ。曇った会議室より、ずっと頭が冴えていく。足取りも軽くなるものだ。人工太陽に、気象コントロール、この気持ちの落ち着きに、何一つ自然要因は含まれていないが、そうわかっていても、彼の体は正直に適応していく。そして、自らが滑稽に見えたのか、彼は静かに微笑むだった。
 彼の友人らしき人物が声をかけてきた。

 「フォン。待てよ。」

 フォンと呼ばれたこの男は、立ち止まり、顔を向ける。

 「お前の分析は、いつもおもしろい。」
 「ニックス、ありがとう。」

 フォンという男は少し痩せており、背も高かった。しかし、周りの軍服を着ている男達と比べると、表情の気迫や体格が抜けていた。ニックスというフォンに声をかけた男の方が、ずっと勇ましかった。

 「…でも、私の権限に、決定権はないからね…、仕方ないよ。ましてや、攻撃目標があまりにも掛け離れている。」
 「詳しく話せよ。」

 ニックスは、フォンの肩を2、3回叩き、二人はゆっくり歩き出した。
 緑は中央の施設を囲むように、きれいに配置され、それを2つに裂くように、施設から出入り口まで大きな道が延びている。道沿いには、所々緑地へ続く小道があり、ここを訪れた人は、好きな小道を通って散歩を楽しめるようになっていた。立ち止まり空を見上げると、銀河連邦軍のシンボルマークがうっすらと映し出されている。
 彼らは立ち止まることなく、目的のベンチへ向かっていた。
 フォンは、手持ちの昼食と飲み物を取り出すと、サンドイッチらしきものをかじった。ニックスは、そんな彼にしびれを切らし、話しかけた。

 「…敵は事実、戦力をアクエリアに集結させているわけで、パネル奪取を目論んでいるはずだよ。彼の言う通り、これは阻止しなければ…。」

 口にしたものをよく噛み砕き、飲み込むと、やっとフォンは答えた。

 「それでは、敵に踊らされてしまうよ。確かに、彼の言う武力制圧と私の言う暴力が違っていなければ、彼の言うことはある意味もっともだ。しかし、敵は我々と違って、パネル奪取に執着はしていない。我々に対し、武力攻勢をかけることに重点を置いているんだ。GUARDIANS結成とそれにまつわる様々な事件、亡霊戦争…、彼等をここまで動かした理由はハッキリしている。」

 食べかけのサンドイッチを口に放り込み、飲み込んだ。

 「そこで、敵が取る作戦は2つ。1つは、我々を誘い出しパネル争奪戦での勝利。2つ目は、アクエリアはすでにS.O.Lと手を組んでおり、パネル権はS.O.Lに譲渡されている。我々が来るの待って、システムによる王手さ。」

 何か言いたげなニックスの眼差しが、フォンを見つめる。フォンは続けて話した。

 「戦力を集結させるといった現在の行動は、単純明快すぎる。作戦は最終段階といったところか。パネルに執着するのであれば、その方法自体は、もっと内密にするはずだろう?。」
 「しかし、絶対的な戦力、数の差で我々は勝っている。これをどうやって覆すんだ?。」
 「そこが落とし穴さ。我々は過去、圧倒的な数の差を持ったオーンとの戦いに、幾度と勝利を収めているじゃないか、ニックス。」

 ニックスを見るなり、フォンは苦笑いをしては片目をつぶってみせた。ニックスも、理解したのか、笑いと脱力感で肩を落とす。

 「連邦軍士官学校時代、さんざん勉強しただろう。直進する数の勢力に少ない戦力で勝利するには、力を分散させればいい。その上で、L.E.Oによる各個撃破が効率的な戦略となる。まず、アクエリアに集結した戦力で我々の中心を叩き、分断させる。そして、アクエリアに敵すべての戦力があると見せかけて、分断された1つの後ろに、第二勢力を発生させるんだ。これで、目的は達成できる。我々の指揮系統は混乱し、互角以上の戦いになることは想像できるだろう。最終的なL.E.O戦についても、過去の戦果から見て、敵の勝利率のがずっと高いしね。困ったものだ。」

 ニックスは、紅茶に注ぎ始めたブランデーを零しそうになる。

 「ちょっと強引だな。その第二勢力ってなんだ?。存在する根拠は?。」
 「プロトタイプ奪取にまつわる一連の行動を起こし、S.O.L反銀河連邦組織をアピールした彼等の行動そのものが、根拠さ。彼等の行動を『囮』とすると、話の辻妻があっていくんだ。報復作戦のとき、本陣と違った方角から攻撃があっただろ。あれは、奪取されたプロトタイプ。それに、数時間前に発令された各小隊、ゲリラ隊の記録を細かく読んでいくと、プロトタイプと接触があった小隊がいたんだ。その付近には、中立を唱える惑星ハーデスがあり、プロトタイプはハーデスの方角から戻ってきた。おかしいと思わないか?、彼らにとってプロトタイプが、数の上での戦力増強であるならば、それを搭載する艦を離れるわけがない。」

 悟るようなフォンの語りは、ニックスを不思議の国へと誘った。
 フォンは、ブランデーを自分の紅茶に注いだ。

 「…ハーデス。」
 「S.O.Lという存在は、銀河連邦解散以前に、このことを予期し、準備を進めていたんじゃないのかな。状況は、彼らの造り出した舞台であり、我々はそこで踊る踊り子。銀河連邦が解散へと追い込まれた亡霊戦争。戦力を出し切った反銀河連邦が、突如S.O.Lという組織を掲げ、Rynexと共に現れた。そして、プロトタイプを奪取し逃亡する。おそらく姿を消したダイダロス・コーポレーションと共に彼らは、ずっと前からこのシナリオを用意し、綴ってきているんだよ。」
 「確かプロトタイプが奪われたあの日は、GUARDIANS次期主力L.E.Oとして、お披露目の予定だったな…。そして、ジーン大佐が引き取りに行った。そうか、…なんてこった。」

 舌打ちをするニックスを横目に、紅茶の香りとブランデーの香りを楽しみながら、フォンはのどを潤す。

 「…敵は、あのジーン大佐を出し抜くことで、GUARDIANSの目をあの戦艦に注目させた。そして、我々の目をごまかし、時間を稼ぐ。最高の活劇だったんじゃないのかな。もちろんそのとき、S.O.Lは何かしらの理由で、プロトタイプを必要としており、輸送もかねていたんだろうね。おかげで、気付くことができたんだけどね。」

 彼等に注ぐ日差しは暖かく、木々の隙間からはそよ風を感じる。
 フォンの言葉には冗句と真実がこもっていた。
 彼に注がれた紅茶は程よく冷め、残りを飲み干す。ニックスも、つられてブランデーの強い紅茶を一気に飲む。

 「…2つ目の可能性だが、プロトタイプを奪取した戦艦が、アクエリアとの合流を急いでいる状況から見えてくる。集結している戦力もこれに呼応して、分散している。パネルを手にしているのなら、彼等を待たずに行われても問題ないわけで、おかしな行動さ。それともう一つ、過去の事件にさかのぼると、答えが見える。アクエリアは、先の大戦で銀河連邦への信頼を、完全に失っていたね。つまり、可能性は低いのさ。」
 「ああ、あの時は、連邦がオーンを根絶やしにしたことを歌った直後の開戦だからなあ。いくら敵本体がアクエリアに潜伏しているとはいえ、破壊作戦を展開することはない…ひどい話だ。」
 「…そう。この関係により、パネルは我々の手中にもないといえるし、S.O.Lにも言える。」
 「なぜだい?。」

 ニックスは、首を傾げ、フォンは、昼食の片付けをしながら続けた。

 「反銀河連邦とはいえ、元を辿れば銀河連邦S.O.L。そして、武力による戦争をしていることも否定できない。そうなれば、結局関係は我々と酷似している訳さ。アクエリアのP・Pという人物が、そう易々主義主張を変えるとは思えないしね。」
 
 フォンは、鞄の中に散らかした昼食を全て片付け、ひざの上に置いた。
 彼の思い詰めた考えは、ニックスには少々難解だった。だが、最後の言葉には、深い悩みを感じていた。伝えられた人物については、認識がなかったが、信頼する彼の言う人物に、疑問はなかった。
 GUARDIANSとS.O.Lは、互いに武力による衝突を行っている。これは最終的手段であり、他恒星系、民間人にとってはうれしい話ではない。現在、亜空間航行による惑星間移動、移住は許可されず、不満の声は常に聞こえている。軍は、その声を、生活の流れを無視してでも、S.O.Lとの対決を望んでおり、このことに終始した会議は、フォンにとって大きな疲れとなっていた。

 「最後に付け加えるようだけど、1と2の考えをまとめてみると、もう一つの敵の戦略が見えてくる。アクエリア付近での混戦を理由に、アクエリアへの干渉をごまかし、パネルの奪取を試みる、というのはどうだろうか?、もちろん、これはこちらも実行できる作戦だがね。」
 「提案するのか?。」

 答えがわかっている質問を、ニックスは口にした。日差しがまぶしいのか、フォンは手影を作って空を見上げた。GUARDIANSのシンボルマークが、高々と空を舞っている。日差しが目に入り、眉をひそめた。

 「彼らの戦略上その作戦は難しい。だが、確実なことは、彼等からは決して手を出してこないということだ。時間稼ぎと言うのもあるだろうが、仮にパネル奪取のために、我々が先に攻撃したらどうなる?…軍が政治を動かしている時点で私はおかしいと思うがね。決して良い方向には向かないと考えるよ。」

 フォンは立ち上がり、尻の誇りを手で払う仕草をする。

 「これ以上の詮索は、複雑な糸をほぐすように、ひとつひとつ、調べては、まとめていくしかない。情報も少ないし、信憑性に欠けてしまうのも理解できる。そして、私の空論でしかない部分も認める。でもなぜか、こう考えずにはいられない。いろいろな因果関係を感じる。上層部では、これを知ってて、わざと踊っているようにも見える。敵の動きも、あまりにも、歯車のように進みすぎている。…どちらにしろ、私の思案はここまでだ。」

 ゆっくりと背伸びをする。風が彼の柔らかい髪をなびかせ、透き通る白い髪が日差しに反射して光って見える。気持ち良さが眠気を誘っている。

 「あくびをしている場合かよ、このままだと、こっちは負ける可能性も秘めてるんだぞ。」

 ニックスの言葉が聞こえなかったのか、フォンは続けた。

 「…馬鹿だよな、まったく。」

 武力を反対するフォンだったが、答えは、戦術にしか反映されていなかった。自分が軍人であること、GUARDIANSに所属していること、これらの関係から抜け出さない限り、真に求める解決策は出ないことは確かだ。

 「分からないのは、アクエリアさ。1つの可能性が大きい上に、戦火を浴びることには違いはない。それを指をくわえて見ているだけというのは、どうもおかしい。パネルを渡さない姿勢と戦争に反対することは理解できる、また、高貴な志があるのかもしれないが…。もっと平和的解決が彼等の手の中にいくらでもあったはずだ。銀河同士、人同士が争い、血を流すのが良いってことなのか、P・P…。」

 ニックスもほこりを払うと、立ち上がり彼を覗いた。フォンはもう一度背伸びをすると、

 「S.O.Lは、この長期に渡る作戦を完遂したいなら、先の戦闘であの艦は、わざとでも沈むべきだったんじゃないのかな。プロトタイプの接触がなければ、予測はより複雑に難しくなり、思案する前に、我々は、アクエリア遠征を行っていただろう。彼等の勝算は、ずっと上がったはずだ。」
 「お前は、敵の心配してどうする?。手始め、俺達はどうするかだろ?。会議に段階を持たせることで時間を稼いでるみたいだが、次はどうする?。俺も協力するぜ。」

 フォンは、肩を狭めて頭をかくと、その場を後にした。

 GUARDIANSの強みは、多くの人脈と民衆、そして、豊富な戦力にある。しかし、逆にこれは、多くの不確定要素を含むことになる。組織にとっての戦場も、彼等の戦場には変わりはしないのだ。

 公園は静かさを取り戻し、踏みならされた芝生は、日差しを取り戻すと、青々しく輝き始めた。

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