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創作物語 ThunderForce forever

第24話 傷跡 - 心と身体の示すもの -

 「敵を逃した。そして、敵はアクエリアのパネルを手中に収めようとしている。」
 「追撃戦では、後始末もできなかったようだな。」

 「申し訳ございません。」

 「まあよい。次の指名を与える。君は戦場に出ながら、オーンを追ってもらいたい。」
 「そうだ、歴史から判断できるやつはたくさんいる。だが、物事の解釈には、必ず理由があり、それを知るためには、身をもって体験していかなければならない。」
 「具体的にどうしろとは言わない、君は戦場に出て、いつも通りにしていればいいだけだ。それが活路を導く最短の方法だ。」

 「…わかりました。」

 「そう、Syrinx、謎の銀河連邦外生物との接触、CLAW粒子の効率化。これらの営みが、かみ合い動き始めて、初めて我々は次の世界を知ることができる。」
 「ジーン大佐。君は、戦場に出て、Syrinxを追え。」
 「追え。」
 「そうだ、追え。」
 「追うんだ。」

 呼応される言葉が、ホールに響き渡る。

 「…以上だ。」

 銀河連邦の評議会は、これらの言葉を残して、ジーンを下がらせた。
 ジーンは久しぶりの惑星エクセリーゼ帰還ということもあり、次の指令をあまり重く考えないよう心がけた。だた、いつもより多くの資料を両手に抱え、自室に戻ると、自席でシェリーより授かったワインを手のひらで転がした。
 ワインに反射する柔らかな日差しを横目に、彼は、席に設けられた端末を操作に集中し始める。先ほどの資料は、各惑星間で移動開始した難民船、未登録戦闘員、非合法クローン治療者リストと題目され、きれいに整理されている。
 キーを叩く音が、数ステップ、聞こえ続けるのだった。
 日差しが陰り、窓からは木の葉の影が揺れた。
 ジーンは、ため息をつき窓の外を眺める。先ほどまでのステップはもう聴こえない。かわりに、扉をノックする音が響いた。

 「失礼します。フォン少尉であります。」

 一人の青年がジーンを訪ねてきた。
 ジーンは頬を緩め、組んだ足を地に着ける。フォンが部屋に入った。

 「久しぶりだな。フォン、元気か?。」
 「大佐こそ。」

 二人は、力強く握手を交わした。ジーンは彼を接客用の部屋に案内し、自らも腰を下ろした。
 彼が座ると同時に、フォンは両膝に手をおき挨拶をする。

 「お休みのところ、申し訳ございません。」

 そう詫びると、持ってきた資料をジーンの前に出した。その資料には亡霊戦争について、詳細がちりばめられていた。ジーンは、彼の意図に少し気落ちしたが、古くからの戦友を想い、静かに足を組んだ。

 「ご存じですね…、この戦争は仕組まれたものです…そう感じ取れます。しかし、私の範疇でそれを断言することはできません。大佐ならば、何かご存じかと思いまして、伺った次第です。」
 「…フォン…。残念ながら、全てを知っているわけではないんだよ。当時、オーンが活動を活発化し、それを押さえることが精一杯だったと聞く。」
 「それでは、マスコミに報じられているのと同じです。大佐…。」

 フォンの応答は早かった。
 話の内容がより核心を突いていた。そのためか、ジーンはただ目を閉じ、うつむいた。フォンの真剣な眼差しを直視できなかったのかもしれない。
 しばらく沈黙が続いた。フォンはじっと彼を見つめている。

 「すまない…私はあの時、軍隊再編成を目的とした命令により、エクセリーゼにいた。作戦には全く関与していないのだ。君が言うように、もし、仕組まれたのならば、何者によるものなのか、その目的は、どういうものなのだ?。」
 「はい…目的は、2つあります。」

 ジーンは席を立った。

 「お茶にしよう。フォンは、紅茶が好きだったな。」

 自席に設けられたインターフォンに注文を述べると、背を向け、棚に閉まってあったブランデーを取り出そうとした。

 「大佐…。銀河連邦の解散と反乱分子への圧力ですよ。」

 棚のガラスに映り込んだフォンは、厳しい目つきで彼を見ていた。
 棚はジーンの姿が歪みながら映し、静かに閉じた。そのまま、彼は語り始める。自分の立場の変化、戦いで敗れている現状。フォンは黙ってそれを聞いていた。やがて、彼は資料を片付け、自分も話を始める。そして、次の作戦と目的について討論が交わされ始めた。
 部屋に降り注いでいた暖かい日差しは、消え、紅茶が入ったティーカップが空になろうとしてた。

 「相変わらず、マメだな感心する。…私はこれから、総司令の護衛に出るのだ。すまんが、時間のようだ。」
 「…わかりました。」

 二人の議論は、結論を見ぬまま終わりを迎えた。
 部屋の扉の前に立ったフォンは、ジーンに頭を下げ、最後に真意を伝える。

 「お願いがあります。ジーン大佐。」
 「わかった…、ただし、条件がある。」

 ジーンは、フォンの肩をしっかりとつかみ、彼の目を見て強く応えた。

 「大尉、だめです。まだ怪我が治ったわけじゃないんですよ。」

 ベットの上で、バーベルを上げている無精髭をやたらと生やした男がいた。汗がシーツを濡らし、ギシギシときしむ音さえしている。

 「身体の一部がなくなったっていってもなぁ、もう十分だぁってぇの。」
 「だめです。今の身体が完全に馴染んだというわけではありません。ちゃんとした精密検査を受けてからにしてください!」

 真っ白の個室に、看護婦の声が響いた。
 男は、片方の耳に指を突っ込み、大げさなジェスチャーをすると、バーベルを床に放り投げた。バーベルが重い音を上げて転がる。看護婦は肩をすくめ、カルテを締め付けたが、男が笑い始めたので、そのカルテで、彼の頭を叩くのだった。

 「わあったわぁった。」

 そう、男は言うと、彼女の持ってきた新聞紙を取り上げて、片方の手で髭を撫でる。看護婦は、ようやく検査器具の設定と検査を許された。
 新聞は相も変わらず、つまらない娯楽と濁った情報で埋め尽くされている。彼はそれから目をそらし、看護婦の身体を追い始めた。無論、また彼女に怒鳴られるわけだが、彼は笑いながら、机におかれた花束へと目線を移していく。そして、小さくつぶやいた。

 「…キャロル…。」

 静かに動き始める検査器具。看護婦は、帰り間際に、花を花瓶に添えていった。
 再び部屋は静まり返り、花は一枚の花びらを地面に落とす。男は、落ちた花びらを優しく見つめ、再び落ち始めた花びらに気づき、目線を上げる。
 独り言を言い、個室に移される前のことを思い出し始めた。

 男は身体の痛みを抑えながら、キャロルの住居を訪れた。セキュリティをごまかし、彼女の部屋までは来たものの、目の前の扉を叩かき、声を出してキャロルの名を叫んだ。密閉されたこれらの住居は防音設備が整っており、彼は声が届かないことはわかっていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。
 だが、返事は無かった。
 半ばあきらめ、彼は扉のパネルに手を伸ばす。すると、統合住宅によくある空気が抜けるような音が聞こえ、扉が動いた。
 部屋の中は暗く、奥から水の音だけが聞こえてくる。目を凝らし、右足を少し引きずながらそこを目指した。小さなスポットが曇りガラスを照らし、ガラス越しの人影が淡く映っている。
 彼はガラスを叩くように拳をおく。

 「作戦書は見せてもらったぁ!どういうつもりなんだ!!?。」

 彼の耳には、水の降り注ぐ雑音が一層響き渡る。

 「お見舞いのつもり…。」

 何食わないキャロルの声が返ってきた。

 「降下部隊は、俺がいく。お前の出る幕じゃぁあねぇ!!。」
 「関係ないわ…、私は…そう思う。志願は自由よ…そう。自由。」

 傷の痛みが身体から消え、ただガラス越しにいる女性の姿に制御できない声で否定し続けた。しかし、右足は自然に傾き、崩れるように動かなくなっていく。体は自然と力つき、地面が近づく。

 「…そう…。ありがとう…バーンズ…優しいのね…。でもね、私はね、ThunderSwordを完成させているのよ。」

 男のすべての想いは消え去った。

 「……わかったぁ…、俺のL.E.Oに乗れ。俺は、U.P-Sが嫌いでね。」

 彼はそう告げると、額の脂汗を拭い、強く握りしめた拳をさらに力を込めた。ゆっくりと立ち上がり、右足を腕で抱くように引きづりながら部屋を後にした。
 キャロルは、一度も彼の顔を見なかった。降り注ぐシャワーの勢いを強め、自分のわき上がる感情を洗い流していた。

 バーンズはきしむ身体をよそ目に、放り投げたバーベルを拾い上げる。力強く引き寄せると、先端に額を付けてうつむくのだった。

 バフラヴィッシュは、先に旅立ったハミエル准将、ロイ達の小型艇と反対方向に進路を取っていた。密会が行われている方向が単に艦と逆だったのだが、それだけではなかった。アクエリア艦隊集結を目の前にして、ようやく補給と修理が受けられることになったのだ。そのための補給艦と合流が目的だった。
 母艦ウィップラッシュは、バフラヴィッシュにクロスするように接した。お互いのハッチが開き、2つの艦に架け橋がもたれる。重い扉の開閉音とともにエアロックが解除された。

 「我々は、母艦ウィップラッシュだ。君らがこうして生きてここにいることを我々は歓迎する。」

 バフラヴィッシュ艦内は、これまでに無い大きな歓声で包まれた。

 「こうしてお互い顔を合わせることになるとは…。だが、ありがとう、艦を代表してお礼を申し上げる。」
 「何を言う、キャプテン。よくやった。」

 水に食料、新鮮な空気。そして、新型のL.E.O。着々と搬入は続いた。
 医務室では、マサヤが傷の検査をしていた。
 現在の医療は、クローン再生技術に依存している。大半の連邦国民は、この世に生を受けたとき、その細胞及びDNAを銀河連邦遺伝子管理局に記録保管する。命に関わる奇病や事故などがあった場合、そこから身体の失った器官を再生し、移植するのだ。
 銀河連邦の歴史は戦争の歴史であり、飛躍的にこの分野の成長を遂げた。だが、死に関しては、未だ解明の糸口は見つかっていない。0からの再生も、肉体は的には可能であったが、記憶、人格形成は不可能だった。

 「傷は塞がっているけど、無理はしちゃだめよ。」
 「はい、わかっています。」

 この恩恵を一般人が受けるには、かなりの審査を必要とした。だが、軍関係者は別だった。戦いが日常的に起きていたため、軍隊に所属する戦闘員に対してのみ特別処置を出していたのだ。これらすべての医学的根底には、道徳的自主規制、理念が働いてもいた。もちろん、政治的色合いも存在した。
 マサヤは、検査の結果、問題が無いことを伝えられる。すると、すぐに医務室を飛び出した。母艦との接触が気になって仕方がなかったのだ。
 格納庫に向かい、人と物で溢れたその空間に、胸をときめかせた。

 「搬入したL.E.Oって、どれですか?」

 L.E.O格納場所では、見慣れないL.E.Oが数機、アームで移動を初めていた。その指揮をしているフランクに、マサヤは声をかけた。量産段階でGOサインがでたものだけ、この艦に補充されてきたようだった。
 フランクが、移動中の機体に視線を送る。

 「まっ、悪く言えば、実戦テストしろってことさ。」
 「そんな…でも、補給ができたと考えれば、よかったじゃないですか。」
 「そういわれれば、そうなんだがな…って、おい!、そいつはバラし用だろ!?。」

 怒鳴り声をあげ、作業員に向かって体を浮かせるフランクをマサヤは引き止め、奥にあるもう一機の見慣れない機体を指差した。フランクは片目をつぶって笑い、背中を後押しする。彼は、マサヤを足で押し込み、蹴り出すと共に、自分の踏み台にした。
 彼の言った意味が分からず、マサヤは不思議そうに押された背中をさすると、頭部を見慣れない機体にぶつけた。

 「痛ったあ…。」
 「もう大丈夫なんですか?マサヤさん。」

 コックピット中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
 マサヤが覗き込むと、エレンがシートの後ろにうずくもりながら、手元の装置をいじっているのが見えた。彼女は顔を上げ、マサヤの大丈夫そうな身体をみてにっこり笑った。
 マサヤは、コクピットから一歩離れてその見慣れない外見を眺め始めた。

 「フェイズ1………っていうかな。」

 少し苦笑いをしながら、エレンはL.E.Oの名前を告げた。

 「亡霊戦争以前に使われた機体のモックアップ、と言ったところかな。中身は、まるまる今のVMといってもおかしくないけど、ジェネレーターを2つ積んでてね、変形させることでどのくらい速度が得られるかって、実験したものなの。これがうまくいったから、後々、マサヤさんの乗るSyrinxができたん、感謝しなきゃ。」

 彼女は満面の笑みを浮かべ、彼にそう話した。マサヤは感心しながら再び、座席下に潜り込んだ彼女を呼んだ。

 「じゃあ、Syrinxの製作過程で作られたものなんだ…。でも、いまさら、こんなのどうするんさ?。」

 彼の言葉に敏感に反応し、少し彼女は怒って応えた。

 「こんなのって言わないでください。これ、私のですからね。次の作戦で使うん。私…正式にパイロット志願しましたし……。」

 マサヤは、以前の死を急ぐ彼女の戦いぶりが、頭をよぎった。
 戦いの中で、各々の立場が固定され、なすがままに日常が過ぎていく。そのごく自然になりかけた日々は、彼女の言葉によってかき消されていった。そして最後に、彼は彼女に初めて会った場面が浮かぶ。
 間違っていた気持ちを落ち着かせながら、言葉を探った。まだ自分の中で解決していない気持ちに、マサヤは震えた。そして、自分の傷に手を当てて、彼女に問いかけた。

 「この傷さ、敵のパイロットに撃たれたんだ…、でもね、この傷のおかげでね、わかったことがあるんだ。もう、反対しない…今まで君にしてきたことは、ただ、自分に都合良いことをしていたただけで……、その、…ごめん…。」

 エレンは作業を少しやめ、彼の声を聞き入った。

 「ただ、一つだけ…。どうして?…。」

 彼の言葉の後、少しおいて彼女は、口を開いた。

 「……ずっと、守られてきたの。自分じゃ何もできない。ただ、守られてるだけだった。オーンが惑星をめちゃくちゃにしていったときね…みんな私を守って死んじゃった。」

 少し、目を赤くしてうつむいた。

 「…じゃあ、両親は…?」

 エレンは、静かに首を振った。

 「ん…、オーン大戦時じゃなくて、その後、移住した惑星セイレーンでね…。マサヤさんは、GUARDIANSに…銀河連邦軍に所属していたから、知っていると思うけど、オーンが再び活発化したため、銀河連邦からオーン殲滅作戦が実施されたでしょ?。そして、その作戦中に、オーンが惑星軌道上にケルベロス・システムを呼び寄せて、惑星セイレーンに対して、無差別攻撃…………。」

 戦いたかったと、エレンは視線をそらして、ぽつりとつぶやいた。
 言葉最後に、自分はそのとき、偶然所属していた民間企業ダイダロス・コーポレーションが、この戦いに参戦しており、作戦のためセイレーンを離れたことで、難を逃れられた、とを告げられた。だが、惑星軌道上から惑星崩壊の様を目の当たりにし、見ることしかできなかったという彼女の気持ちが、マサヤに残るのだった。

 「俺は知らなかった…あのときは、連邦軍士官学校にいたんだ。ニュースとして流れたけど…。」
 「…GUARDIANSと銀河連邦との間に、おかしな歪みができ始めた前兆なんだと思うん。あの作戦も、軍に直接加入しない、私達コーポレーションが参加することになったし…なんで、あそこまでやらなきゃいけなかったのか、私、未だにわからないん。」

 静まり返った空間に、マサヤは謝るのだった。彼が悪い訳ではないと、否定するエレンだったが、彼は同じ時代、ただ、そのときだけを考えて、生きていたことに後悔した。
 暗く落ち込んだ彼の顔を見るなり、エレンは、遠くを見つめて少し微笑んだ。

 「でもね、マサヤさん、軍にいたことは後悔しないでほしいな。だって、そうじゃなきゃ、あそこで私やクズハ大尉と会えなかったよ。…ごめんなさい…、あなたと出会ったとき、あのとき、私…、一人で戦えるって思ってた…戦うことで、みんなの敵が討てるんじゃないかって…。必死だったん。」

 彼女のあまりの優しさに、顔を赤らめてしまった彼は、少し動揺した。言われたことはマサヤ自身も感じていることだったのでなおさらだった。一人で生きていけると強がってたのは違いなかった。

 「一生懸命だと、何も見えないときってあるよね…、誰かに目を覚ましてもらわないとさ。わかんないんだ。僕は、軍に入ったり、今ここにいる理由は無いんだ。ただ、成り行きにのって、ここまできちゃった…、こんなこと、まじめに生きて、戦って、死んでいった人に、申し訳ないと思っている…。だけどね、やっとなんだよ、本当に自分のやりたいこと、やらなきゃいけなってこと…。」
 「うん…だから、今はこれでいいって思っているん。みんなの力になれるってわかったから…戦うって意味、私もわかってきたから…。」

 最後は力強く応えたが、少し寂しそうな目をして、自分の整備するL.E.Oを見つめていた。
 バフラヴィッシュの補充に、パイロットはなかった。現状の作戦に必要なL.E.Oとパイロット数が合わないためである。できる人間は、参加を呼びかけられた。エレンの参加も、事実上仕方の無いことであり、彼らの理解と現実は、悲しくもすれ違っていく。
 マサヤは、彼女を励ますことはできなかった。彼女の生きた世界と、自分の生きた世界があまりにも違っていたからだ。言葉で応えることも必要だと思ったが、それ以上に、彼は自分の成長を望んだ。

 「実験的にこれ動かしてみたいん。スラスターの制動、出力だけならSyrinxにだって負けないかも。」

 搬入された新しいL.E.Oの整備、Syrinxのマニュアルの解読、そして、次の作戦に向けての強い決意。やらなければならないことはたくさんある。
 山積みされた補給物資と自分達の課題。だが、エレンとマサヤは、現状を目の当たりにし、二人がこうして笑って話していられることに幸せを感じ始めるのだった。

 母艦ウィップラッシュが、大きな音とともにバフラヴィッシュから離れた。2隻は惑星アクエリアを再び目指し、ロイ達の後を追い始めるのだった。

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