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創作物語 ThunderForce forever

第27話 心の支え - 生きる力 -

 惑星エリス。
 オーン恒星系で、最も遠い位置にある惑星。そのため、恒星、オーン帝星の光もあまり届かず、極寒の地として、オーン帝国軍ですら近寄らなかった。だが、わずかな期間、プラズマラインに最も接近するため、その期間、オーン帝国軍は攻略する拠点として利用し、レオ恒星系に侵攻するのだった。
 銀河連邦はこれを阻止すべく、プラズマラインに2つの巨大な要塞を建設を計画した。レオ恒星側に「ハラルビン要塞A」、オーン恒星系側には、同要塞「ハラルビン要塞B」である。だが、オーン帝国軍の抵抗も厚く、要塞建設は難航した。そこで銀河連邦は計画を変更し、まずは惑星エリス攻略を考えた。これは、惑星がプラズマラインに最も接近する間、銀河連邦が逆に惑星エリスを拠点とし、要塞建設の盾代わりにすることにあった。
 この計画で多くの犠牲者が出たものの成功を納め、ハラルビン要塞はオーン帝国軍に対し大きなアドバンテージとなった。
 その後、不要になるはずだった惑星エリスの拠点は、もう一つの要として再利用されることとなった。大規模な基地を視野に入れたテラフォーミングが行われ、オーン恒星系では一番始めに民間人が足を踏み入れる惑星として、華やかに生まれ変わるはずだった。
 時が過ぎ、現在。少ない太陽光を増幅させるドームが街を覆い、生活の場は限られ、小さな宇宙港は他惑星との行き来を不便にした。あまりにも寂しい姿であった。オーン恒星系の勢力図が変わるとともに銀河連邦の居住範囲も拡大し、人々は、限られた光と厳しい寒さ、これといった資源・特産のない惑星にとどまることはなかったのだ。今となっては、フラームという果実を主とした農産業、わずかに取れる希少鉱山以外、魅力ある惑星とはかけ離れていた。

 少し年老いた男性が、近くの木になる小さな赤い実を見つめていた。
 それは静かなの惑星エリスの朝だった。暖かい空と静かな日差しが差し込む中、鳥達の声は聞こえなかった。青い空は、雲一つなくどこまでも深かった。小さく光る光の筋が、たまに瞬くと、深みは一層増していった。

 「今年のフラームは、どうかね?。」

 男性は、視線の先でそれを摘む女性に話しかけた。

 「あら、フェリオさん。お久しぶりです。」

 女性は振り返り手を休め、声をかけてきた男性に笑顔を返す。
 フェリオという男性が目元と口元に沢山のしわを作って答えると、その女性は土ほこりを払い、作業の中断を急いだ。そして、小さな実のなる木をゆっくりと避けながらフェリオの前に行くのだった。二人は、簡単な挨拶を交わすと、女性の家と見られる建物の中に入って行った。
 真っ暗な部屋の壁にあるスイッチが押され、家の管理システムは動きだした。明かりと暖かな空気が循環し始める。男が扉をくぐったとき、女性は髪を束ね直し、作業着のような前掛けを外すところだった。そして、彼女はお湯を沸かすためか、水を機械に注ぎ始めた。
 フェリオは、そっと近くにある椅子に腰を下ろした。
 甘い香りと、暖かな湯気がカップに注がれる。フェリオは優しくそれを見つめると、香りを楽しみゆっくり口にした。

 「んん、いい香りだ。ティアナの入れたフラーム茶が一番だよ。」

 女性は、笑顔を絶やさず自分も、フラーム茶を口にする。
 それをしばし見つめるフェリオ。コップの前に両手を組み、少し肩の力を抜くように体重をかける。そして、目をつぶると、彼は口を開いた。

 「キューベリックが帰らなくなってから、ここまで一人でやってきて…辛かろう。」

 ティアナは彼の言う事をわかっていたのか、何も動じず答えた。

 「あの人のことは理解しているし、エリスにいるほとんどの女性は、未亡人よ。あなたこそ、私をかまってばかりいないで第二の人生を送るべきじゃないのかしら?。」

 二人は、少し笑ってみせた。そして、フラーム茶を見つめる。男は黙ってもう一度口にした。ティアナは続けた。

 「この家は、夫が愛してた場所。そして、マサヤが戻ってくる場所…二人が戻ってくる時、場所がなかったから寂しいでしょ。」

 彼女もフラームの香りを楽しみながら、もう一度口にする。

 「そうだったな…、私もまだまだエリスでがんばるとするか、君のためにも、キューベリックのためにも。そして、マサヤ坊やのためにも。」

 家にある大きなガラス窓からは、フラームの木々がよく見えた。収穫時期は、炎が灯ったように真っ赤に実を実らせ、寒さを忘れさせてくれる。そして、この時期、惑星エリスがもっともプラズマラインに近づくときだった。
 これと何かを重ねたのだろうか、深い思いが二人を覆った。時折、窓からの木々の眺め、時間の流れを忘れていた。
 突然、フェリオの胸ポケットから何かを知らせる音が鳴った。慌てて彼はポケットに手を入れ、無線機らしき機器を取り出した。ゆっくりとスイッチを切ると、机の上に置いた。
 無線機にはGUARDIANSのマークが刻印されていた。

 「…あの子が自分で決めた道です。私は見守るだけですよ。」
 「……そうじゃな。だが、あの子の取った道は、険しいぞ。」

 二人は、ゆっくりと立ち上がった。
 もう一度無線が鳴ったとき、その部屋には、湯気をなくしたカップが二つ、寄り添うだけだった。

 惑星エリスから数千キロ離れた宇宙。「ハラルビン要塞B」は今、混戦状態にあった。惑星アクエリアに集結しつつあるS.O.Lに呼応するよう同調したS.O.Lが集結し、落城を合作していた。
 S.O.L戦力本体は、惑星アクエリアに集結を終了していたため、ここに集まった艦隊は、戦力に欠けておりGUARDIANSにとってそれほど手のかかる相手ではないはずだった。だが、戦闘は膠着し、時間だけがむなしく過ぎていくのだった。
 この背景には、ダイダロス・コーポレーションがあった。

 「ジーンの言う通りということか…。」

 シェリーはS.O.Lの艦隊展開図を眺めながら苛立っていた。
 要塞の総司令官も肩の力が抜けかけていた。彼も苛立からか、胸からタバコを取り出すと口にくわえる。それをきつい目で追ったのは、カレンだった。司令官は、半開きした口から溜息を漏らし、煙草を元に戻した。

 「ダイダロス・コーポレーションは、良い製品を作っていた。だが、彼らだけが我々すべての供給口じゃなかった。…なのにあれだ。」

 脱力感のある声で、カレンに煙草ねだりをしたつもりだった。彼女は何のそぶりもせず、敵勢力図を見つめ直す。

 「敵の目的が、この要塞にあり、その後、ハラルビン要塞Aを攻撃占拠となった場合、我々はアクエリア戦どこではなくなるな。」

 カレンは敵の動きから、数点論じてみせた。空想論が何度か繰り返される。
 要塞は、自分を中心にCLAWを操作する機能を備えていた。この効果は、ケルベロス・システムには及ばず、プラズマライン領域をわずかに遮るものでしかなかったが、機動要塞でもあるため、艦隊戦においては大きく作用した。敵の猛攻撃があった際は、これにより、敵を攪乱、防御を低下させ叩くのである。
 また、CLAW制御を除いても、最大の防衛機能を誇っていた。このため、S.O.Lもうっかり飛び込むわけにはいかないのだ。

 「S.O.Lがこの状況を打破するには、L.E.O戦に必ず引きずり出すはずだ。こちらとしては、防衛ラインの中央から戦闘を開始し、敵の一極集中を回避するべく、左右の艦隊から、徐々に防御に回す。その戦闘の最中、防衛ラインを徐々に下げる。もっとも、第二防衛ラインは、さらに要塞寄りに配置し、CLAWにより防御を上げる。その後、要塞を使った攻めの展開をしなければならないだろう。」

 シェリーは、司令官の無能さに嫌気が指し、敵の出方と動きについて説教じみてみた。

 「言ってくれる…。少佐、いかに才気と実績があろうと、ここの作戦とその執行権は、私にあるのだよ。」
 「ならば、今から任命してくれてもかまわないが。」

 二人のいがみ合いに割って出たのは、カレンだった。
 シェリーは司令官を横目で睨むと、もう一度艦隊展開図を見上げた。

 「司令!。敵、一部艦隊が突出してきました!。」

 単横陣に隊列を組んでいたS.O.L艦隊から一部の艦隊がハラルビン要塞第一防衛ラインに接触しようとしていた。
 あまりにも無謀な行為なため、誰もが目を疑った。司令官は、シェリーの先ほどの助言が頭から離れなかったのか、不幸を呼んだ。

 「第一防衛ラインにて、S.O.L艦艇を囲い込み、叩け!、L.E.Oを出される前にな!!。」

 司令の命令通り展開するGUARDIANS防衛ライン。しかし、突出したS.O.L艦隊は、迫り来るGUARDIANS艦隊に対し、素早くL.E.Oを放出し、一気に攻め落とした。司令が怒りたくなるのも当然だった。敵艦隊は、たった数隻でしかなく、L.E.O戦では、GUARDIANSは全く歯が立たなかったのだ。
 崩れかかった第一防衛ラインが、突き進むS.O.L艦隊とL.E.Oを追った時だった。全く動かなかったS.O.L全艦隊が動き出し、態勢を立て直す隙を与えず、それらをなぎ払ったのだ。
 グラフィカルに描かれている司令室のモニタは、ぼろぼろと崩れていく食パンのように消えていく姿を見る事しかできなかった。
 そこに一つの着信音が鳴り響いた。

 「先攻する敵艦艇より入電!。」
 「なに!?、繋げ!。」

 スクリーンに現れた一人の男は、敬礼し、短い言葉を綴った。乱れた画像は途切れ、自席から乗り出すように立ち上がる司令官。

 「第773独立部隊だと!?」

 それは、何かを思い出したかのような弱気姿だった。

 要塞の戦力が当てにならないとわかったシェリーとカレンは、自ら出撃すべく、L.E.O搭乗口へ急いだ。敵の伝令が司令官に何をもたらしたのか、二人は理解できなかったが、その伝令よりももっと別の言葉を思い出していた。
 シェリーはカレンにジーンの行動と言葉を話し始め、その意味を説き始めた。
 この要塞に来たのもジーンからの要請であったが、彼女に取って、カインとのチーム編成、カウンターフォースが嫌だったからだ。カレンは、チームを離脱する事に反対したが、シェリーとの縁を切りたくはなかったのか、シェリーの後を追ったのだった。

 「この状況…、やはりジーンはこれが言いたかったことなのだろうか。S.O.Lの武力による増長から生まれる脅威、連邦国民の脅威。まるで、オーンだ。」

 カレンは、パイロットスーツの留め金を確認していたが、シェリーのオーンという言葉が動きを止めた。そして、シェリーと目を合わせた。

 「ジーン大佐は、戦いの中でオーン殲滅の布石はおいてあるとおっしゃっていたわけですね。ということは、これらを食い止めることが、大佐の成そうとしていることではないでしょうか。」
 「やはり、そう考えるか、私達がここに配備された意味を考えるとな。私もそう思えてくる。」

 先ほどの司令官とのやり取りとは裏腹に、足取りが軽くなっていたシェリーは、Styx-C1の飛び移った。Styx-C1のコックピットが開かれ、機器が起動する。開いたハッチに右手を差し出し、浮き上がった身体の反動を止めると、左足先から座席に入り込んだ。シェリーは、U.P-S等の機動状況と確認していると、カレンから通信が入る。

 「しかし、オーン殲滅。興味ある話です。オーンの脅威は我々にとって、血に刻まれたもの。S.O.Lを殲滅させたところで、果たして、なし得られる物なのでしょうか?。」

 シェリーは、少し笑った。

 「カレン、それは考え過ぎだ。」

 そして、カレンの言葉を受け止める前に、通信が入った。

 「シェリー少佐、カレン中尉でありますか。ジーン大佐より伝令がありました。」

 正面モニタに伝令を伝える兵士の姿が映し出され、シェリーに対して直接言付けがある事を伝えた。シェリーは、直接回線を使って内容を求めた。L.E.Oの発進に集中したかったのだ。だが、彼は直接会って話す事を強く望んだ。
 シェリーは渋々とL.E.Oを降り、敬礼をして待つ兵士の前に出た。

 「…なんだ、かまわんから、さっさと読め。」

 不機嫌に怒鳴り、苛立ちをみせたが、兵士は敬礼をしたままだ。兵士は、徐に伝令書を広げると読み上げる。

 「は!。至急、惑星エクセリーゼに戻り、本体と合流せよ。とのことです。」
 「なんだって!?。」

 発進前のL.E.Oを側にして、シェリーはもたらされた伝令書を奪い取り、目を強ばった。あまりにも一変する内容に彼女は取り乱した。それを静止させるカレン。
 シェリーの伝令書を持つ手は震えていた。

 「ジーン、私はあなたの布石じゃないのか…。」

 吐かれた言葉は、カレンにも届く事はなかった。シェリーは、目を閉じ歯を食いしばると、ため息をついた。そして、伝令書のしわを冷静にのばし折り畳むと、もう一度目を閉じた。

 「わかった…命令は絶対だ。我々は本体と合流を急ぐ。あなた達はここを死守。司令官にも伝えておくようお願いする。」
 「イェッサー!。」

 兵士は伝令書を返されると、敬礼しその場を離れた。
 再びL.E.Oに乗り込む二人。
 二機のL.E.Oは動き出し、要塞のハッチの開くサイレンが鳴り出した。

 シェリー達の向かう先、惑星エクセリーゼ。GUARDIANSの本拠地であり、銀河連邦の発祥の地。その中心に存在するGUARDIANS本部の一つの扉が、静かに開いた。
 部屋は、四方を囲むモニタがあり、各地の戦況が映し出されている。木目調に作られた柱が囲い、中心には大きな趣のある机が置かれていた。机の上には、GUARDIANSのシンボルマークが刻まれたクロスが敷かれいる。
 部屋に入った男は、扉より一歩踏み入れ、敬礼をする。

 「お呼びですか。」

 机にある大きな椅子にもたれかかった男は、目の前のモニタを消し、入ってきた男の方ヘ顔を向ける。彼は、GUARDIANS総帥オンであった。ジーンは、彼の方へゆっくりと歩き出した。
 扉はゆっくりと閉まり、ジーンがオンの前まで来た時、オンは、話し始めた。

 「他でもない、今の我々の状況について、君は、どう思うか聞いておきたくてな。」
 「GUARDIANS軍部については、問題があるかと思われます。」

 ジーンはオンの質問にすぐに答えた。
 彼は皺一つないGUARDIANSの制服をまとい、足先まで鋭く起立し、動くことは無かった。
 そんな彼を横目に、オンはゆっくりと立ち上がり、もたれ掛かった椅子から離れると、壁に大きく描かれた絵画の前で立ち止まった。ジーンもそれに合わせ静かに、向きを変える。
 絵画は恒星レオを中心に、銀河を描いていた。そこに暖かく彩られた惑星エクセリーゼが見える。オンは、そっとエクセリーゼの部分のホコリを手で払うと、後ろで手を組んだ。

 「そうだな。素直な意見だ。私もそう思う。」

 その言葉には、皮肉めいた感情はなく、威厳に満ちていた。
 オンは銀河連邦軍時代より、賢い男だった。連邦軍士官学校卒業後、すぐに銀河連邦軍に入隊する。入隊後間もなく、FireLeoを小型化するプロジェクトが成功すると、誰よりも早く、彼はこれによる実験的作戦に参加した。そして、次々に戦果を収めていったのだ。もともとパイロット肌の彼であったこともあり、戦果は評価され、瞬く間に銀河連邦軍の階級を駆け上がることになる。だが、上層部に近づくにつれ、オンは軍を制止させる思いに掻立てられるのだった。
 その後、自分の信念に従い「プレアレオース攻略戦」を最後に軍部を離れる。そして、惑星ネピュラ奪還と、旧惑星レダ、現惑星エクセリーゼ復刻への足掛けを築いた。しかし、プレアレオース攻略戦英雄「ライド・A・ジュピター」の影に隠れ、英雄になる事は無かった。
 銀河連邦軍が解散になると、オンは級友を集め、「守るべき銀河の会」と評して「GUARDIAN」を結成し、再起を担ったのだ。
 彼は、絵画を彩る額の左下に備えられたスイッチを押すと、壁が上方に動き出した。エクセリーゼの大地が眼下に広がり、強い夕日が差し込んできた。エクセリーゼは、間もなく日が陰る時間に来ていたのだ。人工の空とはいえ、部屋に入り込んだ光には暖かさがあった。
 オンは、夕日を全身で受け止め、目を少し堪える。外の光は、オンの髪を白く染めながらジーンの目にも入っていった。

 「GUARDIANSが積極的に展開しているこの戦争は、我々を武装勢力として増長しかねない。まさに、あっては成らない事態だ。…武力で民を率いる事はできん。」

 オンの言葉をじっと聞くジーンに、彼は続けた。

 「評議会の老人達…。つい先ほど、彼等の世話したばかりなのだが、彼等は銀河をあるべき姿に変える事を望んでおられる。もちろん理解できる話だが、ジーン、その前に、やらねば成らぬ事がある。わかるな。」
 「承知しております。」

 オンの言葉に、すぐ反応すると、ジーンはそう答えた。
 オンは、ジーンの方へと振り向き、彼を見据える。

 「L.E.Oの開発を極秘に行わさせ、戦争に対しての防衛策を築きながら、表向きには軍縮を計ってきた。銀河連邦の解散も軍本部に取っては皮肉な復讐劇と世論は受け止めたようだが、それも大規模な戦争を避けようとした結果からだ。」
 「すべては、順調でした。」

 ジーンも理解しているのか、相づちを打つ。
 オンは大きく深呼吸し、ジーンを睨みつけるように顔をこわばった。少し前屈みになると、口を大きく開け、怒鳴るように語った。

 「そう、すべてはな。だが、…あの異文明のL.E.Oが迷い込んでくるまでは、だ。あの異文明の力がハミエルに力を与え、戦争を拡大侵攻させている。」

 ジーンの目にも力が入る。

 「アクエリアのパネルをこちらが掌握し、大規模な戦闘を避けるべく内密な動きも行ったが、またしても、あれのおかげで旨く実の成らなかった。老人共が、銀河の秩序を厳守し始め、我々は銀河の民と秩序の狭間で、もがかねばならぬ事となった。すべては、あれから狂い始めている。」

 「理解しております。すべては、銀河のために。」

 ジーンの言葉に、オンは冷静さを取り戻り、彼の前まで来ると、右手を差し出した。ジーンもそれに応えるよう、右手を出す。二人は強く握手を交わした。

 「君には、もっと早く接触したかった。何分、組織も生まれて間もないまま、戦争が始まってしまったわけだからな。許してくれ。君はGUARDIANSを正しき道へと導く私の手足と成って欲しい。」
 「もったいないお言葉です。」

 ジーンは、オンの言葉を静かに受け入れ、自分のすべき事を再認識するのだった。

 「早速ですが、アクエリアでの大きな戦いに、オン総帥もご同行願いたく思います。この避けては通れぬ戦いを征しなければ、我々にも、この銀河にも、おそらく未来はないでしょう。」

 オンは、しばらく考えると答えを出した。

 「…そうだな、君の言う通りだ。同行するとしよう。」

 そう言って、自席に戻り、深々と椅子にもたれかかった。そして、宙を見つめながら、言葉を吐いた。

 「…自らの決着をつけねばならぬようだな。私も、戦う事で伸し上がった人間。戦いを完全に否定する事はできん。」

 ジーンが頭を下げたとき、彼の胸にある無線機が鳴りだした。彼はそれを取り出すと、耳に当てた。

 惑星アクエリア軌道上に集結したS.O.L艦隊は、クライン航路上に展開を開始した。
 クライン航路はレオ恒星系と惑星アクエリアを含むライト恒星系を結ぶ航路であったが、ライト恒星系を司る惑星達の不規則な軌道から、レオ恒星を司る惑星と複雑で巨大な重力の流れを造り出していた。これは丁度隣り合う恒星系を横切るように流れ、往来を難しくしていた。万が一、この流れに飲まれた場合、その行き着く先はCLAWも存在しない座礁空間が広がっており、生存率は極めて低かった。そのため、航路突破には、それに伴う高出力な船が必要となっていた。そしてこれは、L.E.O単独での突破が無理である事を裏付けていた。
 S.O.Lは、これを利用し、潮流手前に艦隊の陣を構えたのだ。
 マサヤの乗るバフラヴィッシュは最前線に組み込まれようとしていた。これに合わせて、予定通り前線に配備されていた艦隊は後退した。作戦とはいえマサヤ達には、過酷な条件だった。

 「第一次艦隊、全艦配置につきました。」

 オペレータの声がブリッジに響く。索敵班は、警戒を強めた。各人からは、緊張とため息が見えた。
 マサヤ達の防衛ラインには、クラウン航路上に配備されたGUARDIANS艦隊が、時折奇襲を仕掛けてきており、S.O.Lの艦隊展開に影響を与えていた。このためのバフラヴィッシュの配置ではあったが、彼等の役目はむしろ、本来到着をする事のない艦への捨て駒的意味合いの方が大きかった。

 「ふんっ、気に入らんな。」

 ブリッジ全体に張り巡らされた大きな窓に映る惑星アクエリアを一人眺めながら、オルグはつぶやいた。
 彼は、このS.O.L全体のバフラヴィッシュへの態度に対して怒りではなかった。オルグ本人もまた、バフラヴィッシュの取った行動を否定し、作戦を尊重する者だった。だが、ここまでの戦果とロイの実力は理解しており、対立するS.O.L内部を和解させているのも事実だった。

 「この配置ではアクエリアを守っているだけではないか。これでは彼等に利用されているだけだ。」

 この愚痴に気づいたのは、ロイだった。
 艦隊の配置は、確かにS.O.Lを有利にしていたが、攻める姿勢というよりは、アクエリアを背後に守りに重んじているようだった。

 「しかし、彼等の協力無しに、この作戦はあり得ません。むしろ、地の利を得てこその作戦であり、我々に必要な…、」
 「ふんっ、もっともなことを言う。」

 オルグはわかっていたのか、話を遮った。ロイは言葉を止め、オルグの見つめる先へ目を移した。
 作戦の本筋には、ケルベロス・システムをS.O.Lが握り、GUARDIANSの戦力を無力化する事がある。そのためには、アクエリアに存在する制御システム、コントロールパネルが必要であり、これは、アクエリアとの駆け引きの中にいる。

 「ハミエル准将がお待ちだ、急ぎたまえ。」

 オルグはそう言うと、ロイを背に歩き出したが、惑星アクエリアをもう一度にらみつけ、ブリッジを後にした。
 それと入れ違いにマサヤがブリッジの扉をくぐった。オルグと擦れ違った時、彼の不機嫌な横顔が目に入ったのか、マサヤはオルグの後を目で追いながら、ロイの前で立ち止まると素直な疑問を投げた。

 「大尉。オルグさんは、…その、作戦会議のときもそうでしたが、…あの方はこの作戦に反対なのですか?。」

 ロイは、右手を腰にあて、肩の力を抜くように答えた。

 「…そうではない。彼はただ、アクエリアの言いなりになっている私が気に入らないだけさ。」

 マサヤは、思いもよらぬ答えに、振り向き、ロイの顔を見ると目を丸くした。
 ロイは、すぐに大人げない自分の言動を謝ったが、マサヤは反論した。

 「大尉。僕がこんなこと言える立場じゃないとわかってます、ですが…。大尉は、もっとご自分を大切にして下さい。」

 ロイは思わぬ言葉に驚きつつ、静かに彼の方へ向きを変えた。そして、マサヤの気持ちに答えるよう彼の肩に軽く手を載せ、微笑んだ。
 艦内に、ロイを呼ぶ放送が流れる。オルグを始め、ハミエル准将とロイはバフラヴィッシュを離れ、司令艦セヴァッツァに移る事になっていた。
 マサヤは直接できる最後の挨拶を交わし、ブリッジの出口へ向かった。途中、今度はエレンが扉をくぐり、マサヤと意識し合うと二人はその場を後にした。ロイは、そんな彼らを目で追いながら、自分に課せられた責務と気持ちの整理を、アクエリアを眼下にもう一度行うのだった。

 大きな工場の一角のようなところだ。
 全てのラインは止まっており、物音一つしない、とても静かな空間だった。工場のラインを思わせる左右に延びたトンネルと作業機器の計器類が遮っている。それを見下ろせる所に部屋があり、部屋に備えられた窓は、かつて熱気がそこにあったように、飛び散ったオイルで汚れている。
 機器は全く動いていない。この空虚な空間に非常灯の赤い色の光が、わずかに灯っていた。光が灯ると部屋とそこに立つキャロルをうっすらと色付けた。キャロルはこの巨大な空洞を見つめ、手に持った書類を机に戻すのだった。机には、多くの書類が山に成っており、それを処理する機械が静かに音を立てている。

 「失礼します。」

 部屋のノックが鳴り、キャロルが返事をすると、二人の男が入ってきた。一人はキャロルの前に足を運び、もう一人はキャロルの机にある椅子を引っぱりだし、半回転させるとどっかりと座り込んだ。

 「バーンズ、もういいの?。」

 ふてぶてと椅子に座る男に、キャロルはそう言った。バーンズには、窓から入る光のためか、彼女がぼやけて見えた。だが、うっすらと瞳が映る。それは予想もしなかった光に満ちており、まさに彼が彼女に求めていたものであったのだったが、バーンズは、すぐに椅子をもう半回転させると首を左右に振り軽く返事をするのだった。
 少しの沈黙の後、もう一人の男が口を開いた。

 「キャロル博士。ライン上の全てのL.E.O、実験終了いたしました。現在は、アクエリア戦に向け、搬入を行っているところです。」

 部屋は静まり返っていた。男が嬉しそうに読み上げる報告書を、ただキャロルは聞き流していた。男は、報告を終えるとひと呼吸置いてもう一度笑顔をみせた。

 「さすがは、ノーマン博士の意志を継いだ最後のお方です。あの性能とパフォーマンスは、我々には想像を絶します。」

 キャロルは、目を閉じ受け取った書類を机の上に置いた。
 ノーマン・バゼス。Rynex-Projectの主任技術者。THUNDER CLAWをキャロルと共に開発し、Rynexを造り上げた。だが、そのプロジェクト後、彼を知るのはいなかった。ただ一人、キャロル除いては。
 キャロルはノーマン博士のことは触れず、机に置いた書類を数枚取っては置き、近くにあるペンでサインをした。それを興奮気味の男に渡すと、バーンズに向けてキャロルは話を始めた。

 「スナイパー。調整できているわ。でも、降下部隊には無用の長物よ。どうするつもり?。」
 「そんな事気にするなぁって。俺の言った通りに調整されていれば、それで十分だぁ、なぁ。」

 椅子に深くもたれ足を組むと、バーンズは答えた。そして、言葉最後を、キャロルから無視され続けている不機嫌な男に、あえてふった。彼からの答えに何も期待はしていなかったが、今のバーンズには、それでよかった。
 キャロルはバーンズの態度に視線を和らげ、口元が緩ませた。
 部屋の空調が動き出したのか、冷たい空気が降り注ぐ。机の近くにある、広葉樹の葉が揺れた。
 彼女は、ゆっくりと目の前に立つ男に指示を与えると、男は嬉しそうに敬礼したようだった。キャロルはそのまま後ろの窓ガラスへと向きを変え、言葉を綴り始めた。

 「…亡霊戦争、あのとき、ノーマンが最後に言ったわ。『私の目指していた物、今、君が目指している物。それは、人を根絶やすことしかできない…。』、そう、私が開発したTHUNDER SWORDがすべてを…、すべてを破壊に導いたのよ。そして、これからも。」
 「否定はしないぜぇ。でもなぁ、それでも……。」

 バーンズは、言葉をためらったが、ハッキリと言った。

 「それでも君は、それが終局に向かう唯一のカギだと、信じて止まないんだろぉ…キャロル。」

 今にも泣き崩れそうな、そんな彼女の小さくなった肩と背中が視界に入る。それが嫌で、バーンズは最後まで彼女を見ようとはしなかった。
 静かな工場に大きな機械音が走る。バーンズ用に開発されたL.E.Oがラインに現れたからだ。そして、実験開始を合図するブザーが、部屋に鳴り響いた。

 隣で寝てしまったマサヤを横目に、手に持った資料のページをめくるエレン。許可をもらったとはいえ、Syrinxの解明作業は、全ての作業が終わってからになる。この時も、消灯してからだった。しかし、この消灯も、いよいよ最後となっていた。
 吐息を立てるマサヤは、またしてもアンダーシャツ一枚だったため、エレンは、近くにあった毛布をかけ、そっとしておくのだった。
 部屋にコンソールを叩く音が静かに響いき、マサヤの寝息が静かにこだまする。
 彼女の横にそっと暖かいポットが置かれた。その音に、エレンは我に帰る。ポットの先には、フランクが片目をつぶって笑っていた。
 フランクは、エレンに作業をやめるよう告げた。その言葉に彼女も自分に課せられた作戦を思い出し、緊張が走る。すると、隣のマサヤが一層大きな寝息をたて、優しく身体をほぐしてくれる。

 「身体の方が大切だよ、エレン。」

 そういうと、フランクはフラーム茶をコップに入れ始めた。

 「そうですね、ここから先は補助システムのようですし、終わりにします。」

 すると、大きく深呼吸し、システムを落とすのだった。

 「…それにしても、良い香りですね。」

 エレンは、フランクが注ぐフラーム茶に目がいった。
 カップは全部で3つ。ひとつ目のカップに静かに注がれるお茶の香りが、エレンの疲れを和らげた。

 「あ、入れるのにコツがあるんですよ。」
 「ん?、そうなんだ、じゃ、ちょっとやってみてくれよ。」

 そういうと、フランクは、エレンに注ぐポットとフラームの実を渡した。
 ただ実を入れお湯を注ぐフランクに対し、何度か分けて優しく注ぐエレン。そこから生まれた新たな香りが、部屋に充満し始めた。

 「こりゃすごい。」

 フランクは、香り嗅ぎながら背伸びをし、部屋に並べられたメンテナンス用の機器のひとつひとつ覗いてみせた。不思議そうに頭を傾げ、エレンに訪ねる。

 「Syrinxは、どう変わったんだい?。」

 カップを見つめ、お茶を注ぐ横顔に、うっすらと湯気が横切る。

 「今までと同じです。メンテナンスも変わりませんよ。」

 3つ目のカップに注ぎながらそう話した。フランクは、そんな横顔を受け止め、安心した。そして、彼は少し笑ってマサヤとSyrinxを見つめるのだった。
 部屋に広まった優しい香りが、マサヤの目を覚ましたのか、マサヤは、寝ぼけた眼差しでエレンとフランクを見つめると、頭をかいた。エレンは、そんなマサヤに今しかた注いだカップ渡す。そこから広がる暖かい湯気と香りが、彼になつかしい故郷を思い出させた。

 「ありがとう。」

 マサヤは、一気にフラーム茶を飲み干すのだった。

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