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創作物語 ThunderForce forever

第28話 人々の決意 - 求めるもの -

 それは静かに始まろうとしていた。
 眼下に広がる惑星アクエリア、これを背にしたS.O.L艦隊の灯火は、とてもわずかであり、それぞれの艦の戦力も乏しく、黒く沈んだ宇宙空間に見える炎の力も小さく見えた。それでも、各々の艦は自分達の役目を理解し、光の流れを作り出し始めた。
 S.O.Lを取りまとめる首脳陣は、自分達の戦力ではGUARDIANSに太刀打ちできないと想定していたため、ハミエルは、ロイらの提案する作戦に賛同し、共に自らが囮となったのだ。だが、新たな時代の流れが命を守ることを主張し、多くの人々が絶命の道からの生還という希望が生まれた。少なくとも戦士達の士気を高め、刻々と近づくその瞬間を、確実にしようとしていた。
 彼は、人望が厚く、支持を多く得ている。戦いをできるだけ回避し、自ら、命を危険にさらして、道を開いてきた。この後ろ姿が、目に焼き付くのだろうか、人々は勇気づけられ、彼に力を貸すのだった。そうでなければ、生命が一丸となって組織した銀河連邦軍組織に立ち向かう力は、生まれなかっただろう。
 しかし、そんな彼も、GUARDIANS総帥に地位を持つオンと密接な関係を持つ評議会「GUARDIAN」に身を寄せていた者だった。
 この会を発足するにあたり、彼は意欲的に行動していたのだ。
 当時、オーンの戦いに溶け込み、人と人の生き方を決めていた銀河連邦に違和感を感じたハミエルは、その根本的存在価値を評価するべく、評議会を開いたのだ。
 始まりは大げさなものではなかった。数人の息の合う人々が、銀河連邦中央にある公園に集まり、芝生の上に腰を降ろしては団を組み、空を見上げ将来について語っていたにすぎなかった。
 それから間もなくだった。オンが数人の仲間をつれて、参加を求めたのだ。
 ハミエルは、当時オンが成し遂げたことや軍部を離れたことを理解しており、英雄ライド・A・ジュピターにはない真の英雄として、彼の意見を尊重した。ハミエルの隣にはオンが並び、交流も深く存在したのだ。
 だが、いつしかこれは組織として機能し始めた。
 オンがそうさせたのか、ハミエルがそうさせたのか、それとも別の誰かが始めたのかはわからない。組織化が進むにつれて、二人は別の道を歩み始めたのだった。

 「オンの求めるもの。私がこの世界に求めるもの…あのとき我々が求めたすべては、そう…幻だったんだよ。」

 ロイは、ハミエルの言葉を聞き、自分の中にある理解ある世界を評価した。

 「人はいつか死ぬ。私は、死を考えて、生きている訳でも、死の恐怖に困惑している訳でもない。だが、進んで戦って死んで行く事が正しいこととは思えない。新しい世界はそこにこそあり、オンと評議会が成すところでは、断じてない。」
 「我々が戦い続ける理由が、すべてを掻立てるのでしょうか…。」

 ロイも、ふと感傷的になったのか、普段なら決して口にしない歪みが漏れた。ハミエルは目を閉じ、答えた。

 「…君の言うことが間違っていなければ、そうなのかもしれないな…。作戦が変更され、アクエリアの指示に従わねばならぬ状況…、これの示すところに、我々の答えがある。」
 「ええ。すべてを拭い取らなければ成りません。」

 二人はバフラヴィッシュを離れ、S.O.L艦隊司令塔となる司令艦セヴァッツァに乗船していた。
 目の前は、広大な宇宙空間で無数に瞬く艦艇が浮き、目指す潮流の流れがあった。このすべてが見渡せるブリッジは、バフラヴィッシュに比べ、前方に突出し、各部艦隊配置や状況を知らせるパネルが、複数映し出されている。男達の影は、状況の確認と伝令を行うため、目紛しく動いていた。
 各艦隊編成や作戦伝達に混乱している部分も見受けられた。これは、バフラヴィッシュの生還という予定外の事だけでなく、同じ人類が殺し合うという恐怖に、脅えているようにも感じられた。そして、心の奥底に伝染していっているのだ。これだけ大規模な同人類の戦いは、歴史的にないのである。
 バフラヴィッシュの生還と共に作戦変更がなされ、司令塔も変更された。これに合わせて力をあまり持たない艦隊からは強い後退要請もあった。艦隊編成が変更となったため、各艦隊が固定するまで、ゲリラ戦の攻防を、バフラヴィッシュが担っていた。この状況下で、下船しなければならない二人だったが、彼らへの信頼が、セヴァッツァでの仕事を冷静にさせていた。
 ハミエルは、ロイの言葉一つ一つ漏らすことなく聞き入り理解していた。そして、各方面が落ち着きを見せ始めたとき、一息ついた。

 「私は、軍上層部に操られ、分けもわからん戦闘理由のまま戦死していった人々のことを想うと、上層部が許せなかった。そして、大嫌いだった。」

 ふと、ハミエルは笑みをこぼすと、ロイの言葉待たずに続けた。

 「気づくと…その大嫌いな上層部に、仮にも総司令という責任者として、今ここにいるじゃあないか。」

 ロイもハニカンだ。ハミエルは、それを見るや否や、声を出して笑った。

 「准将…。」
 「ん、すまんな。だが、正直、辛い。バフラヴィッシュの危険な状況、私の一声に懸かる多くの命。そんな私は、一番安全なところにいる。」

 一度、ロイの目を見つめたが、すぐに目を閉じ前方へ身体を向ける。

 「ただ、後悔は無い…、バフラヴィッシュでの作戦はこれでよかった。誰もが、生き続けたいと改めて理解したのだからな。進んで死ぬことは愚かなことなのだよ…。」
 「GUARDIANSが降伏する。そう言う状況は、ありえないでしょうか?。」
 「それは困る。」

 ロイの問いに、口を挟んだのは、オルグだった。
 オルグは、ブリッジへ入る扉を開けると、そう叫んだ。

 「我々を支持するすべての人々に、再三言ってきているのだよ。銀河連邦、GUARDIANSを乗り超えなければ、次の世界など、決してないとね。」
 「ああ。オルグ、理解している。私も、ここに、こうしている事を決めたのだ、やらねばならん。大尉の言うこともわかる。そのために、どうしてもケルベロスが必要なのだよ。」

 ハミエルは手を後ろに組、笑みを浮かべる。S.O.Lを全貌できるブリッジに目をやると、彼は続けた。

 「大尉、ロイという男に伝えて欲しい。彼は十分変わった、生きるために戦っている。自分の役目を知ったのだよ。そしてそれは、まぎれも無く、自分で決めたのだ。」

 ロイも何も言わず前方の宇宙を眺めた。
 二人を包む宇宙の光は、ブリッジの奥まで届いていた。

 声を高々と上げ、GUARDIANS本陣は、レオ恒星系を超える所まで来ていた。
 この星系で最外郭にあたる惑星シュリンクスを超え、重力潮流を目指しクラウン航路へと進撃する。艦隊は三部編成されていた。これらが、それぞれ潮流超えを行い、数の少ないS.O.L艦隊を包囲する。彼らを封じた後、徐にアクエリアへ進むというのだろうか。数は有に3倍。第一、第二、第三艦隊の3編成から来る絶対的有利な立場が、すべての武将に慢心させていた。
 艦隊編成中央部を進む第一艦隊は、戦艦ファフニールを中心に備え、全体の指揮をとるGUARDIANS軍部最高指揮官ガルド・レヴァンズが、指揮を執っていた。彼はブリッジ中央、仁王立ちのように大きく構え立っている。
 このブリッジは、司令艦だけあり縦に長く広々として、情報を多く確認できるよう配備されていた。左右に操舵と情報を司る要員がひしめ、さらに、それらを囲い込むように見渡せる視界とスクリーンが確保されている。
 ガルドは、現在行われているGUARDIANS攻撃状況を時折耳にすると、右の口元を緩め、片方の足先をリズミカルに地面へ叩き付けた。本陣接触前に仕掛けられている攻撃は、ガルド自身が下したものだった。
 両腕を後ろに組、真直ぐ前を見ては、自分の艦より前進する艦隊の数を誇らしげ把握していた。
 彼らの艦隊が、クラウン航路に差し掛かると重力潮により艦全体が加速し始めた。すべての艦隊が一気にS.O.Lへ近づこうとしていた。

 「S.O.LはL.E.O戦において、かなりの戦績を収めているな…、だが、所詮は物資不足…数がすべてだ。」

 彼の言うことも最もだった。S.O.Lの補給物資は、GUARDIANSのそれと比べて、遥かに劣っているのだ。これは、無血を望んだ彼であったが、GUARDIANSによる軍事力を対抗勢力に見せつけるためであった。

 「オン総帥がお見えです。」

 彼に女性の声で伝令が入る。
 オンはジーン、フォンらと共にファフニールを含む艦隊より、ずっと後方に位置する母艦ヘルツに乗船し、数隻の艦隊にて本陣を静観するはずだったが、オン自身が本陣の指揮することを決め、彼らとともに、この司令艦に乗り継いできたのだ。
 そんな事情を知ったガルドは、顔を歪め、ぼそりと愚痴を吐き捨てた。そして、おもむろに低い声で返事をすると、ゆっくりと後ろへ身体を向ける。
 扉が開き、オンが現れると、彼は敬礼を始めた。
 オンはゆっくりと前に進む。彼の護衛として、ジーンとフォンが左右よりついてくる。ブリッジ内は静かなためか、オンらの足音はよく響いた。
 彼がガルドの前まで踏みよったとき、再び静けさが増し、艦内に響く機械音だけが淡々と耳鳴りのように聞こえ始める。

 「作戦は順調かね、ガルド・レヴァンズ。」
 「はっ!。前方に広がる艦隊をご覧ください。至って順調であります。」

 ため息まじりでそれに答えるオン。さらにもう一歩ガルドの前まで歩み寄り、彼と同じ位置に肩を並べる。そして、彼の言う通り、前方に広がるGUARDIANS艦隊を眺めながら話し始めた。

 「くだらん前置きは、これくらいにしよう。聞きたい事がある。『惑星セイレーン』の崩壊についてだが、君は、いささかやりすぎたと思っていないか?。」

 オンは彼の反応を待った。

 「確かに、くだらん。あれは事故です。」
 「ほう…、ケルベロス・システムの改ざん、全く知らないとは言わせんぞ。」

 お互い顔を見合わせること無く続く。ガルドは言葉にはならない声を詰まらせ、言い訳がましく言葉を綴る。

 「これが、民の不振を仰ぎ、反感を作り出した。S.O.Lのような同人類において、巨大な敵対勢力を作り出してしまった大きな原因だとは思わないのかね?。なにより、これから始まる戦闘を悲劇とは感じないのか。」

 オンは、軽くため息をつくと、彼の後ろ姿を横目で見て、後ろで組んだ腕の力を抜いた。
 そんな視線に気づくことなく硬直を少し解放すると、低い声で返事をした。

 「あたなも…戦いを選択してきたお方。連邦を解散させろと言われたのだ。今更、奇麗事で言い逃れはできまい。第一、民衆は、戦いを歓迎しているのだ。オーン殲滅により、問題となっていた経済の混乱、人々の結束を、再び脱出しようとしているではないか。」
 「そうか、わかった。貴様は、この殺し合に賛成という訳だな。私は、反対だ。」

 オンはガルドの言葉を遮るように即答した。ガルドはついに姿勢を崩し、拳を振り上げ、反論した。その人を睨みつけた表情とは相反して、オンは動じていなかった。

 「な、なにを!、評議会が私を評価し、直属に頂いた命令!。例え、あなたであってもそれを否定することはできん!?。」

 オンは、右の懐から手をそっと下ろすと、ジーンがガルドの真後ろに寄り添い、彼の片腕を取り、後ろ回し固定した。

 「貴様にはつけを払ってもらう。ここまで混乱を生み出したつけをな。」

 ガルドが、硬直した声を上げる。オンは、彼の言葉に耳も貸さず、答える。

 「愚か者め、何も気づかないのか…。新しい世界は、既に『GUARDIAN』には無い。」
 「評議会が、許しはせんぞ…!。これは、GUARDIANSへの反逆行為だ!!。」

 全く動くことのできない彼は、むなしくも吠えることしかなかった。周りのそれまで部下であった者達は、誰一人として振り向くことは無かった。

 「貴様のような者を野放しにしたことは、私の失態だ。過去にいかに優秀な人材であっても、それが、継続する価値となることは難しい。貴様がいい例だ。自分の役目を忘れ、立場を利用し、人の決断を、あたかも自分の決断のように振る舞い、驕った行為へと繋げる。そして、それを取り巻く人々を不幸にする。」

 詰まるような銃声が聞こえた。何かを砕くように音が響き、大きな身体が、崩れ落ちる。

 「ジーン…。」

 ガルドを撃ち抜いたのは、ジーンだった。オンも予期せぬことに、動揺の目をする。フォンは、目をつぶった。

 「確かに、奇麗事では済まされません。ですが、これ以上は、同人類の犠牲を、抑えなければ成らないでしょう。」
 「そうだな…。だからこそ、あれが必要なのだ。」

 ブリッジは、動きが止まっていた。あまりの生々しい人と人の殺し合いに、震えたのだ。そこに、オンは、力強く大声で叫んだ。

 「己で考え、己で選択したのであれば、その責任を貫け。個々の決断が、全体の命の決断を作り出す。私は、貴様らを引き連れ正しい世界を作り出すことを誓う。そのためにここまできた。我に続けば新たな歴史の入り口に立つことができるだろう。何も恐れることは無い…S.O.Lをケルベロスにより鎮圧し、人類は、また一つになるのだ。そして、戦乱を排除する道へ返り咲き、人の命を守る力となろう。」

 オンは最後に両手を広げた。

 「いくぞ!。」

 そして、前進を告げ、すべてを混乱させること無く士気を強めた。行き着く光の流れを見つめ、重力潮をめざした。

 バフラヴィッシュでは、何度かの戦闘が終わっていた。
 慌てながら人々が行き交う通路を横に、マサヤはロッカールームで、汗のかいたパイロットスーツを軽く外した。そして、ため息をつくように深呼吸する。
 部屋には誰もいなかった。
 待機順に休憩を取る状況になっていたが、マサヤは数名で編隊を組み、その隊長を勤めていた。そのため、すぐにL.E.Oに戻る予定だった。自分より年上の部下が、自分に敬礼し支持を求めている。彼の胸には、中尉の位を表す紋章が付いていた。
 バフラヴィッシュ部隊における中尉クラスのパイロット損失した為、彼の戦闘経験と実績が評価されたのだ。
 彼は、その紋章を少しなでると複雑な顔で、ロッカーを前に立ちすくんだ。胸に手を当て、それを少し見つめる。目を細め拳に力を込めた。
 パイロットスーツのジッパーを再び上げ、厳しい表情でテーブルのヘルメットを取ったときだった、部屋をノックする音がした。

 「入っていいかい?。」

 セネスの声だった。
 マサヤが了承すると、彼女は、相変わらずの軽装で部屋の扉をくぐり、椅子が見当たらなかったのか、テーブルの上に飛び乗るように腰かけた。その仕草が少しかわいらしく、マサヤは緊張でこわばった顔を少し緩めた。
 すると、自分に向かって何かが飛んできた。
 マサヤは慌ててそれをキャッチする。地面に落ちたヘルメットの音が、部屋に響く。
 片足に転がりながら当たるヘルメット。両手で受け止めたそれは、小型のナイフが入ったケースだった。

 「これは…。」
 「餞別代わりに、渡そうと思ってね。そいつは、Syrinxの装甲と同じ材質でできてるんだ。」

 セネスは、そういうと、肩をすくめながらマサヤを見つめ、続けた。

 「敵本陣はまだこれからだってのに…、やりきれんな。」
 「そうですね…、でも、丁度いいウォーミングアップですよ。」

 彼は、冗談まぎれにそう答え、礼を言うと、ケースからナイフと取り出す。鋭く冷ややかに光る先端へ向けて目を動かす。それに合わせて、セネスは話し始めた。

 「Syrinxの装甲は、他のL.E.Oに使われているものとは全く違う材質で造られている。もちろん、私のとも違う。難しいことは知らないが、あれを造った人の想いが込められているだ。」

 少し笑うと、宙に浮いた両膝を交互に動かした。視線をマサヤから自分の動く足下へ移すと、彼女は話す。

 「あれを造った人間は、キャロルって言うかわいい女性でさ。届かぬ想いを、あれに込めていたんだよ…。」

 彼女は動かす膝を止めた。

 「彼女の話では、SyrinxとCLAWの相性は最高のようだ。それが、どういう意味で、どういう可能性を秘めているのか、全くわからない。この間、エレンに渡した資料が最後の手がかりだったと思っていたけど、どうやら何も無かったみたいね。」

 すっと苦笑いをし、マサヤの方を見た。彼は、ナイフに映る自分の顔を見ては彼女の方へ首を動かし、機体状況が変わらなかった事にうなずいて見せた。そして、キャロルという名前が、再びしこりのように残るのだった。
 マサヤはナイフを元あるケースにしまう。

 「こんなに鋭く透き通るナイフ、見た事ないです。不思議ですね…ありがとうございます。」

 早速ナイフを左足首付近に括り付け、外れないかどうか軽く動かし、彼は話し出した。

 「今回の戦闘では、より多くの人と全体を見て戦わないといけないんです。やれるかどうか…不安です。」
 「ふふ、がんばれよ。」

 マサヤは、彼女の言葉に顔を上げた。彼女は少し笑うと目を閉じる。

 「正直驚いているんだ。君がこんなにあれを操り、歩んでいる事にね。やはり、新しい時代には新しい英雄が必要ってことなんだろうな。君にはその素質があるのかもね。」

 英雄という言葉に、マサヤは極端に反応した。こわばった顔つきになり、立ち上がる。

 「英雄なんて、僕には無理です。それに、この戦いで生まれる英雄なんて、殺戮を繰り返しているただの人殺しじゃあないですか!。…前は憧れてました。でも、今この世界で起きていることを理解していくうちに、例え、これが過去の状況だったとしても、それらは異常なことなんだって…。」

 強く否定するマサヤをみて、満足そうに微笑むセネス。マサヤは続ける。

 「英雄なんてのは…幻影なんです。」
 「…そうだね。私も、戦場を駆り立てるだけしかできない自分に悔しいさを覚えてる。回避したいと、どこかで願ってはいたが、作り出される状況と選択は、やはり、今もなお、戦いを生み出している。世界を救った英雄と言われても、それは、生き残った人が決めたことに過ぎない…。」

 セネスは目を細め、身体を支える手に力を入れる。

 「人々の願いが、戦いを欲している。私の星でもそうだった。私は、世界を救おうと、ここよりもたらされた戦いの元凶をすべて消し去ったつもりだった。自分らと…Vambraceを除いてね。」

 彼女は、そういうと腰掛けたテーブルから地面に向かって跳ねた。お尻のほこりを払う仕草をすると、キョトンとするマサヤの方に身体を向け、腰に左手を当てた。

 「私は、ここの…そう、いわゆる銀河連邦の生命体じゃないのさ。もっと遠くの、…『地球』という所からきた。その星も戦いに明け暮れた歴史。そんな世界にもたらされたその源が、この銀河にあるって知ってね。…馬鹿だな…、生きて見てみたいなんて考えてしまった。」

 セネスの最後の言葉は、少し寂しげであった。マサヤは、素直に聞き入れた。

 「はじめは、お前達を憎みもした。だが、戦いと状況に苦難する姿を見てて、同じもの感じたよ。放っとけなくなったんだ。」

 彼女は話し終えると背を向け扉へ向かう。急に自分の吹きだまりが咽せ返してきたのか、顔を隠した。セネスは軽く礼を言うと、自分を愚弄した。
 扉が開き、入り口の節に手を添える。マサヤは慌ててそんな彼女を止める。

 「セネスさん!、僕は、この戦いで成り立っている現実と営みを違和感なく感じ始めている…。それが、この世界なんだって、理解してしまっているんです。」

 セネスは立ち止まり、彼の問いには何も答えず言葉に耳を傾ける。彼はそんな後ろ姿に、困惑した表情を拭い、歯を食いしばると、セネスの背中を見上げた。

 「…でも、こんなのおかしい。だから!、僕は決めたんです!。」

 マサヤは言葉を説いた。彼の言葉はさらに続こうとしたが、セネスは振り向き、それを止めた。

 「君のその感覚、悪くないな。がんばれよ。」

 そういうと、扉が閉まった。
 再び静けさと外の雑踏が入り乱れ始めた。マサヤは床に落ちたヘルメットをゆっくり拾い上げ、深くかぶった。

 「緊張感の無い人ね…。あきれるわ。」

 頬杖をしながら、キャロルは右手でグラスを机に無造作におろす。グラスの氷が振動で軽く崩れる。
 対面には、大きく反り返るように椅子に深々ともたれ座るバーンズがいた。首を背もたれに引っ掛けるようにして天井を眺めては、タバコをくわえた口元が、何か物を食べているよう動く。
 彼は、彼女の言葉に気づき、そのままの姿勢で右手でタバコを口から灰皿に移すと吸った煙を天井に向けて吐き出し、もう片方の手で自分のグラスではない彼女グラスを手に取り、数口飲み込む。

 「俺はぁ出撃前、ここで一杯やるって決めているんだっつうの。」

 キャロルは、彼の手から離された自分のグラスを遠目で見ると、ため息をついてあきれた。
 木の造りをしたこの店は、くすんだ木目が目につく。部屋の光りは乏しく、薄暗い中、時折点滅する地酒のネオンが、センスと古さを語っていた。
 床におかれたテーブルはまばらで、どれも空いていた。
 どこからかともなく聴こえる懐かしいソングが、天井できしめくシーリングファンと、よいリズムを奏でているようだった。
 壁には、古い写真が張り巡らされている。どれもこれも失敗作としか思えないL.E.Oを背景に、無意味にガッツポーズをする男達。その一枚に、若い頃のバーンズを思わせる一枚を見つけて、彼女はつぶやいた。

 「その割には、私はここ初めてよ。」

 顔を上げ、目を丸くしたバーンズは、瞬間固まるが、

 「くっはっはは!、そりゃちげーねぇ。」

 片方の手で顔を覆いながら、大きな口を開けて笑った。
 もたれかかった椅子が後ろに傾き、笑った拍子にだらしなく広げた足が、宙に浮く。そのまま後ろの壁に倒れきった。
 彼が口をへの字にしながら片目を開いたとき、店の主人が注文の品を持って彼を覗き込んでいた。バーンズと同じくらいの歳をした主人は、笑いながら品を置き、

 「お前、馬鹿だろ。」

 そうつぶやく。
 バーンズは、子供が仕返すように、そのまま怒鳴り返す。すると、二人は馬鹿笑いを始めた。バーンズは、椅子を戻し自分のグラスを取る。主人もキャロルのグラスを取り、二つのグラスが割れるような音を立て、乾杯を叫んぶのだった。
 一連の出来事を横目で眺めながら、キャロルはテーブルの上におかれた貧相な食事に少しも輝かないフォークを刺し込むと、小さな口に運ぶ。
 何やら大声で語り合う二人の会話は聞こえていない。ただ、狭いL.E.Oのコックピットは、苦労するだろうと思える主人の身体をなぞって眺めていた。

 「緊張感ねぇのは、お前の方だ。」

 不意にキャロルへ会話を振るバーンズ。
 少し頬を赤らめているキャロルは、そんな彼の言葉を無視して、空いたグラスを指先で持ち上げた。

 「マスター…、同じのを、ロックで。」

 馬鹿笑いを続けていた主人は、きりりと口元を変え、まるで紳士のように振る舞うと、グラスを下げカウンターへ戻っていった。

 「この星は、L.E.Oのパーツを、そりゃぁもう懸命に造っている奴らばかりだ。おかげで、こいつの店も、最近、客足が遠のいているってことだ。」
 「前までは、そうでもなかったの?。」
 「あぁ…当然だ。路頭に迷った馬鹿どもを慰めるために開いた店なんだからなぁぁ。」
 「そうね、あなたみたいな人が寄り添う店ですもんね。」

 彼女の皮肉も、バーンズには、うれしいのか、声をこらえて笑いながら皿に載る食べ物を手で摘み、口に運ぶ。

 「くっく。…だがなあ、あいつとは、中央に引っ張りだされる前に、この辺にある実験場で知り合っててな。俺が造った馬鹿みたいなL.E.Oを喜んで飛ばしてくれたんよ。だから…。」

 バーンズが少しばかり感傷に浸ったと思ったら、すぐに主人からヤジが飛んだ。
 左手には、まろやかな旨味が香る大皿を、右手には、キャロルに頼まれた酒と氷水を持って、彼は、バーンズの背中を蹴ったのだ。

 「なに言ってんだ。女の前だからって、かっこつけやがって…、今じゃお前がL.E.Oに乗り、俺はバーテンだ。そんな昔話してどうなる。」
 「はっん、うるせぇえなあ。かっこつけてんのは、どっちだ馬鹿!。」

 さっきは大笑いしていたかと思えば、二人は今度は怒鳴り始めた。
 キャロルは、置かれたグラスを空にし、腕時計を見る。氷水の氷が静かに崩れる。
 彼女は、気になった湯気の香る柔らかい肉に優しく切り込みを入れ、一口サイズをゆっくり味わいながら食べる。すると、少し微笑み、もう一度皿にナイフを入れた。
 そして、水を取り、上着のポケットからハンカチを取り出して口元を拭き取った。

 「もう、時間よ。」

 喚いていたバーンズも、真面目な顔つきでキャロルを見つめる。乱れた服の襟を張り直し、隣の椅子にかけてあった上着を手にする。
 胸を張り、背筋を伸ばすと、主人の胸の辺りを叩く。

 「んじゃぁ、ちょっくら行ってくるかな。」
 「っお、おい。自慢のメインディッシュを食っていかないつもりかよ。」

 バーンズは、仕方なしに文句をいいながら、フォークで肉を突き刺すと、持ち上げ、口一杯にほおばりながら食いちぎった。
 キャロルは、そんな彼をあきれながら、自分のハンカチをそっと差し出した。彼は主人をにらみながら、ハンカチをぶんどると、口元を一気に拭って戻す。

 「残りは、帰ってきてから食うからなぁ。大事にとっとけ!。勘定もそんときなぁ!。」

 主人は笑っていた。
 キャロルも釣られて笑うと、

 「マスター。あなたはどうして、飛ぶ事をやめたの?。」

 彼に問いかけた。軽く胸を叩きながら主人は答えた。

 「なあに、コックピットが狭くてたまらなかったのさ。」

 彼は片目をつぶって見せた。
 再び騒ぎ出す二人。キャロルは二人を横に、そっと店の扉を開け外へ出る。外は、勤しむ光と人々で溢れ、沈みかかった夕日の中、いくつものL.E.Oやシャトルが飛び交っていた。

 「それぞれの要素が絡み合い、我々銀河の民は、新たな世界に旅立つ予定だった。」
 「だが、結果は、己の欲に捕われ、全体を見通せない愚か者だったわけだ。」
 「我々の高貴な使命は、どうなる?。」
 「それは問題ない。最後の切り札がいる。」

 静かな空間に数名の老人達が、戦況を表す台座を見つめていた。

 「ジーンか。」
 「キャロルの結論と、彼の判断がうまく噛み合おうとしている。」

 老人達はどこまでも続く、部屋の暗闇の一点を見つめ、過去と未来を語りだした。

 「レーダーに、重力潮の一部が突出しています!?。」

 ファフニールの前に巨大な光が溢れ出す。その一つ一つからS.O.Lの艦首が大きな波と共に荒れ狂う潮流を突破してきたのだ。光の裾は左右に巨大な蛇のように波打ち、まぶしくほとばしった。
 光の点が各GUARDIANS艦隊を刺激し、誰もが、何が起きたか理解できなかった。

 「全艦、縦陣形を取りつつ、一気に本陣を切り裂け!!。」

 ハミエルの声だった。

 「ハミエルか!、何を考えている!!?。」

 オンが、光の中で叫んだ。
 S.O.LがGUARDIANSの艦隊に飛び込んだのだ。

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