TF

創作物語 ThunderForce forever

第30話 雷鳴(後編) - 命を支えるもの -

 二人の手が引き合う。

 「大丈夫だ、座席に座って!」
 「うん。」

 エレンに引き寄せられるように、マサヤは顔を機体の破損した隙間に当てると、エレンもそこから顔を覗かせた。二人はベーシック通信で言葉を交わす。彼女は、落ち着きを戻したのか、涙声ではあったが冷静に返事をした。
 今にも落ちそうなNixコックピット下部に身体を張り付かせ、マサヤはコックピット・ハッチの強制解除スイッチを探す。内部からそれが動作しない事が告げられたが、やらずにはいられなかった。足首に括りつけられたナイフを取り出し、Syrinxと同じ装甲という言葉を思い出した。そして、それで一か八か、外部にあるスイッチを破壊した。
 コックピット内でアラートが鳴り響き、幸運にも弾き飛ぶハッチ。そこから、彼女も、小さく丸まった状態で外に飛び出した。
 マサヤは、飛び散る破片の当たらない側面へ向けて飛び、破片の合間を縫って回転する彼女を力強く引き寄せた。命綱が引き延ばされ、ぎりぎりで、腹部の小型バーニアで進む向きを変える。二人はゆっくり回転した。
 Syrinxに身体を向け、流れ始めると、彼女は、彼に強く抱きつき、顔を胸に埋める。
 マサヤは機体のコックピット・ハッチに手を引っかけ、身体の流れる勢いを止めた。その反動で、コックピット内部になだれ込む。そして、すぐに、ハッチを閉めるスイッチに手を伸ばした。
 ハッチは閉じ、コックピット・スクリーンいっぱいに、アクエリアの青さが広がる。機体はすでに落下し始めている。だが、二人はヘルメットのバイザーを上げ、互いに目を合わせた。
 生きていることを確認する。彼女は、彼に視線を合わせながら黙ってうなずく。
 マサヤが補助席を広げ、エレンをそこに座らせる。彼女は、自分の身体を固定し、彼もまた、自席に着いて状況を把握した。Syrinxの角度も危険な状態なのだ。
 惑星の大気圏に突入するに当たって、L.E.O本体構造は、ほぼ問題ないのだが、点在する各惑星によっては、極端な大気等の圧力や重力の違いにより、危険な場合もある。このため、機体は、大気圏突入角度を調整し、耐久性の低いパーツを収納する処置が必要だった。
 機器を慌ただしく操作するマサヤ。調整完了を確認すると、肩の力が抜けていく。
 後部の彼女からは言葉は無く、すすり泣く音が聞こえていた。身体は座席に固定されているため、マサヤから彼女の顔を見る事ができない。

 「…やっぱり、私、だめだったん…、ご…めん…なさい。」

 その言葉を聞いたとき、彼もまたうつむき、自分の部隊やストールが失ったことを口にした。しかし、それは、彼女への慰めにはならず、悲しみへと変わっただけだった。

 「…俺だって、何もできなかった…。」

 彼女は、膝に置いた拳に力を入り、肩が強ばる。再び涙を流す。

 「マサヤさんまで、…私…。」

 マサヤは、固定された身体を無理矢理動かし、彼女の方へ顔を向ける。

 「ば、馬鹿、大丈夫だったろ。今、こうして…、…ごめん。」
 「え、あ、違う、ごめんなさい…私、何言って…。」

 エレンも振り向くように、マサヤに視線を合わす。二人は言葉が詰まる。そんな状況をマサヤは笑った。

 「でも、うれしい。ほんと…よかった。」

 エレンも、彼の声から気持ちが和らいでいった。そして、違う感情と鼓動を感じ、落ち着きを取り戻していった。

 「うん、私も…。嬉しいん…。」

 相づちを打つように、そう答えると、彼女は自分の涙を拭った。

 「やれることはやったさ。大丈夫。それに、なにより、二人とも無事だってこと。」
 「うん。そうだよね。そう思って…いいよね。」

 言葉最後に、顔がくしゃくしゃになりはじめるエレンだったが、彼女の顔にようやく笑みが表れた。
 自分達の足下には、先ほど接触したNixの抜け殻が、赤い点となって消えていっていた。マサヤは、それを見つめると、故郷崩壊の様を目の当たりにし、守られているだけの彼女の気持ち思い出した。そして、出会ったばかりの彼女の行動から今までの彼女と自分の成り行きを重ねていった。
 その赤い点になることを彼女は望んでいたのだろうか。逆に、自分がそうなるべきだったのか。マサヤは、自分の身体をさするように小さく抱きかかえる彼女を見て、そのどちらも否定した。

 「誰かが誰かを殺したり、誰かのために死んだりするなんておかしいよ。こんな戦い、絶対に終わらせるんだ。俺は、みんなを守り、自分も生きて、やってやる。…誰だって、死にたくて死んだんじゃない…。」

 マサヤの身体にも、自分を通り過ぎた命が、一気に流れ、弾けていった。わき上がる感情をこらえながら、頭よ左右に激しく揺さぶる。力の入った拳を、スロットから手放し、彼は、ぼやけた視界をぬぐい去った。

 「もうこんな辛い思いをしないですむ世界が来るなら…生きている俺達が、やり抜くんだ。」

 エレンも、たった今起きた出来事のすべてと、これまでの記憶と重ねていた。

 「次は、アクエリアだ!。一緒に行こうエレン。」
 「うん。」

 アクエリアの重力に機体が引き寄せられるような強い衝撃が起きる。Syrinxは突入状態に可変する。
 惑星アクエリアの重力は、大きかった。引きつけられるその力に、二人は見えない脅威を理解したが、もう、不安はなかった。

 黒い機体、Albionは、バーンズとキャロルを乗せ、熱い大気を抜けた雲の中にいた。
 バーンズは、機体を安定させると、早速、左側に自分で取り付けたコンソールをいじりはじめた。目的地の位置とそれまでの距離がメインスクリーンに表示される。そのまま左手でバイザーを開け、ヘルメットの顎を持つと、左右に動かす。

 「いよいよだな。」

 キャロルは、不適に笑うバーンズが理解できなかったが、すぐに、彼を制止させることとなる。彼は、思いもよらぬ行動をとったのだ。
 彼は、メインスクリーンに映し出された『目的地』に対し、装備された長距離狙撃用の銃身に火を入れた。

 「何をする気!?、バーンズ!。」
 「んあ?、お前はあんな物が欲しいのかよ。わかってるくせによ。」

 彼はなんの焦りもなく、笑って答えた。そして、その返事に、一瞬、心の奥を覗かれた感覚が襲い、身を引くキャロル。
 バーンズは、そんな彼女を横目に、標的を遠い目で見つめ直すと、鼻歌混じりに発射プロセスを進めた。
 キャロルは、彼が本気である事を理解した。彼は、黙々と、熱心に弾道計算を続ける。
 バーンズは、GUARDIANS、S.O.L両者が喉から手が出るほど欲しているケルベロス・システムのコントロールパネルが委ねられているアクエリア支部に対し、長距離弾を使用しようというのだ。普段冷静さを装っているキャロルも、さすがに取り乱し始めた。
 キャロルは、複雑な顔をしながらも、その操作を阻止しようとサブシステムから制御をかける。すると、バーンズは操作をやめ、目を閉じた。

 「お前は…、本当にあれで、すべてが終局を迎えると思うのか?。」

 キャロルは返事をしなかった。そして、自分が操作するコンソールを見つめ、手を止めた。うつむき黙る彼女に対し、彼は付け加えた。

 「俺みたいなのがぁよ、適任なんだよ。」

 バーンズは静かに告げると、各機体制御を開始した。メインスクリーンには、徐々に発射プロセスが表示され、彼がそれをチェックしていく。
 彼女はもう何もしていない。
 コックピットを包む雲が晴れた。眼下に淡い色が広がる。広大すぎる青い海と澄んだ空。それらは、恒星からの光を受け止め、美しく輝いていた。
 キャロルはその青さに過去を投影し始めた。それは、忘れられない大切な時間だった。

 「あの海を超えて、私達は進んでいった…、ずっと昔のような気がする…。」

 彼女の独り言は、バーンズの耳にも届いてた。だが、彼は、目をつぶった。

 「そうだな、ずいぶん遠くまで来たもんだなあ。…いいぜぇ…これが終わったらよお、ぶっ飛ぶくらい激しいやつをよ…。」

 バーンズの言葉にキャロルは我に帰り、ゆっくりと小さな口を開いた時だった。別の誰かにロックオンされる警告が鳴り響いた。バーンズは、厳しい顔つきに戻り、全てをリセットした。
 左手が機体の操縦スロットを握り、旋回する。
 後方の雲の一部が破裂するように、一機の白いL.E.Oが飛び出してきた。加速するその機体はAlbionの大きさを一周り以上超えている。
 バーンズは、慌てて降下し、機体を元の形に戻す。再び確認すると、それは、まぎれもなくRynexだった。しかし、見慣れた白く小型の体型とは違い、機体後方に巨大なブースターを構えている。

 「おいおい…なんでぇあれ。ずりぃってんよ。」

 Rynex後部に取り付けられたブースター左右のハッチが開き、多くのFREE-WAYが飛び出した。
 無数のFREE-WAYは、旋回するAlbionをねじれるように追尾する。Albionも巨大なバックファイヤーを噴かすと共に、ねじれた。
 Albionは左に湾曲するように旋回していく。その機体ギリギリで、FREE-WAYが次々に爆発。Albionはさらに加速し、デコイを発射した。しかし、その黒煙を縫うように、さらなる残弾が抜け出してくる。

 「しつけぇっんだよ!。」

 バーンズはRAILGUNを放って、それらを撃ち落とした。機体と弾道が回転し筋を残すように、流れていった。
 バーンズ自身もAlbion自体も、近接戦闘は得意としなかった。彼は、Rynexの急激な接近に、間合いを取ることに専念する。再び上昇し、雲の上に出た。
 雲がAlbionの腹に沿って厚く流れ始めたときだった。機体の陰が、雲の中に映る。

 「あそこ!。」

 キャロルの声が響く。
 その雲が切れたとき、自機の陰と重なるようにRynexが姿を現す。お互い、平行に飛んでいたのだ。Albionへ吸い込まれるように、一気に上昇するRynex。
 機体の周りに展開されたCLAW同士が衝突し、プラズマが走った。
 Albionは、先ほど長距離弾にCLAWを変換したため、Rynexの圧倒的なCLAWに弾かれた。見えない力が反発し合い、磁石のように機体をなめて、重力に引かれる。パイロットの全身の血が頭に昇り、海面まで落ちていく。
 バーンズは、機体を起こすスライサーを海面ギリギリで解放する。海面は大きくえぐられ、空へ押し上げた。水しぶきが吹き上がる。
 機体を上昇させると、付着した水滴が、一瞬にして後方に飛び散った。

 「っぐ、あのゴキブリ野郎ぉ…、やりやがる!。キャロル!、どこだ!?。」

 厚い雲を隠れ蓑に、索敵を開始する。
 機体を静かに変形させ、長いノーズを露にする。先ほど不発に終わったエネルギーを放つべく、Rynexを捉え始めた。

 「いたぜ、こんちくしょぉ…。」

 バーンズがノーズの先端を目をこらえてにらんだ時だった。

 「無駄だ。」
 「!。」
 「!!、うそ…。」

 Albionの二人に、その声が届いたとき、後方アラートが鳴り響いた。RynexとAlbionは、雲から飛び出し、再び会いまみれた。

 「馬鹿な!!。」

 Rynexは、ドッキングしていたブースターを切り離していた。バーンズはその抜け殻と間違えていたのだ。
 AlbionのRound-DividerにRynexのBLADEがヒットする。機体の姿勢が崩れ、CLAWが吹き飛んだが、バーンズは、機体損傷に焦ること無く、逆に、笑い出した。

 「その程度だあな。所詮、ゴキブリはゴキブリだ。」

 Albionの前方スライサーからバックファイヤが見えたかと思うと、彼は変形しながら反転した。そして、溜めたエネルギーを、正面に見えるRynexへと放った。
 Rynexは避けきれず、巨大な火柱に飲まれる。
 瞬間の出来事だったが、キャロルの息を飲む声が走った。バーンズはその声を聞き逃さなかった。口をへの字に曲げ、ベーシック通信を開く。

 「てめぇのやり口は知ってるぜ。まんまと、ハメられたがな。聞こえてんだろ!?ロイ中尉殿ぉ。」

 キャロルは、バーンズの言葉に目を丸くし、手の汗を握りしめた。

 「バーンズ…、あなた…。」
 「確信したぜ、さっきの声でなあ。」

 バーンズは握るスロットを戻し、再び左手で索敵を始めた。中央に赤い点が現れる。

 「見えてるぜぇ、旦那。」
 「だめ!!、バーンズ、やめて!。」

 キャロルの声だった。後部座席から前のめりになりながら叫ぶ。
 バーンズはキャロルの答えを待っていたようだった。少し首を傾げ、目をつぶって頭の後部を座席に当てる。そして、もう一度、自分に向かって動く標的を追った。

 「…ん、だあな。」
 「…えっ…。」

 キャロルの言葉を返すと、軽くなった引き金を引いた。機体全体に巨大な制動がかかり、腹部にGを受け座席に押し戻されるキャロル。
 モニタに映る光点は、逆流するように彼女の伸ばす手から、どんどん離れていく。その巨大な爆音の最中、キャロルは、身体の底から声を張り上げていた。
 自分の見開く目から、うっすらと流れる涙を感じたときだった。スクリーンをかすめるように横切っていった青と白の機体カラーが目に入った。

 「ったく、はずれだぁ!。もう一機いやがったぁ!。」

 Albionは、耐性を反転させ、それを追う。
 二機の距離は縮まるが、バーンズは攻撃することは無く通信回路を開く。

 「おい、Syrinx!!。てめぇの出番は、まだなんだよ。死にたくなかったら引っ込んでろ。」

 その声は、Syrinxのコックピット内に響き、マサヤとエレンに届いた。
 マサヤは、バーンズの挑発的な言動に反発する。

 「アクエリア内では、L.E.Oの戦闘が禁止されているんだぞ。何を考えている!。」
 「は!?、良い子ぶってねぇで、よぉく考えるんだなあ!!。」

 バーンズは、通信を切ると、雨のような威嚇射撃をSyrinxに繰り返した。マサヤは、すべての攻撃を小刻みにかわしていき、彼との間合いを詰めていく。だが、バーンズは、更なる物量でマサヤを押さえきった。
 惑星内のCLAWは、宇宙空間と違いCLAW量が極端に少ない。このため、大気中にあるわずかなCLAWと、機体に温存された量をうまくコントロールしなければならない。マサヤは、直撃を避けるために、海面付近まで高度を一気に下げるしかなかった。

 「大尉は、交戦中なんだ。このままじゃ。」

 Syrinxの左側からバランサー用のスライサーが動く。
 大気中のため、極端な制動はパイロットにも負担がかかった。二人は身体を固定しているベルトに体重を預ける。空気の壁を抜け、Albionの後ろにとりつく。加速力を活かして、Albion腹部に突進した。
 バーンズは、これに対し、バックファイヤを放ち、威嚇しつつ逃れる。

 「ったく、しゃぁあねえなぁ。」

 彼は、当初の目的が全く果たせず、いらだち始め、Syrinxの動きに付き合うように戦慄を離れた。
 マサヤとエレンは、Alibonの脅威のなくなったこの空域に、ロイを探した。すると、Rynexがブースータを取り付けた形で、二人の前に姿を現すのだった。

 「マサヤ。お前が、パネルを持ち帰るのだ。私は、確かに違反者であり、敵は、パネルを破壊しようとしている。どちらも、必要の無いものだ。」
 「大尉…。」

 どこなく、雰囲気の違うロイだったが、マサヤは前に感じた違和感を思い出した。命令を受け入れるも、彼の言葉を求めた。

 「大尉…。今大切なことは、パネル奪取です!。」
 「…。そうだ。それがお前の任務だ。」

 もっともなこと聞かされるが、マサヤはよけいに反発した。ロイの前に出ようと機体を動かしたのだ。だが、再び、巨大な火柱が彼らの間を通り抜け、Syrinxにヒットする。CLAWが弾け、二機は互いに避け合った。

 「行くんだ!。」
 「っう!。…了解!!。」

 くやしくもマサヤはSyrinxを変形させ、反転すると離脱した。
 Alibonの長距離弾を気にして、彼は、海面すれすれを飛び始める。マサヤは、ロイの変化にいらだちを見せた。

 「揺動は失敗だったのか!?。それとも、敵は知っていたのか!?。これじゃ、なんのために!!。くそっ、こんなことになって、クズハ大尉は、どうするつもりなんだ!?。」

 一連の戦闘中、エレンは本物の空中戦を始めて体感し、緊張の糸が切れずにいたようだった。詰まり切った息を、徐々に吐き出し始めた。

 「…う、ん…。大尉は大尉で、何か考えがあってだと、思いたいん…。でも、戦っている時の、クズハ大尉って、全然違うん…。ちょっと怖い。」
 「…前もこういうとき、あったさ。大尉には、僕らの知らない部分がある。そんな気がする。」

 Syrinxのモニタに目的地を示す指示が表示され、マサヤは、強く指示通り機体の向きを変える。

 「マサヤさん…。」

 エレンの心配する声が聞こえた。マサヤも冷静さを取り戻し、言葉を返した。

 「ごめん…。クズハ大尉…いつもと違う感じだったから。」

 首を横に振る彼女。マサヤはもう一言追加した。

 「…最近、何か、言葉が詰まった感じで、息苦しいんだ。大尉は、何か話したいんじゃないのかな…。」

 そんな二人の心配する中、Syrinxが不安定な動きを見せた。先ほどの攻撃が原因かは定かではないが、バランスが崩れ始めたのだ。
 マサヤは、舵を修正すると自己診断プログラムに目をやった。エレンは、左脇についたサブモニタに、U.P-Sのエラーが表示されたのを見つける。彼女は、そこから調整を何度か試みたが、全て失敗に終わった。
 マサヤは、心配する彼女に少しくらい大丈夫だと彼女に優しく伝え、目的地を定め直すのだった。

 重力潮を超えて戦闘を開始したS.O.Lは、GUARDIANSの虚をつき、見事に数の差を埋め、ロイ、マサヤの活躍によりGUARDIANS第一艦隊とは互角以上の戦いにした。そして、S.O.Lは作戦通り、第一艦隊を二つに分断し、各個撃破を開始。GUARDIANSの指揮系統は乱れ始め、戦局は、S.O.Lに傾き始めたかに思えた。
 しかし、S.O.Lも無傷ではなかった。メインパイロットの損失と、現状でのロイ、マサヤの離脱が、GUARDIANSのL.E.O戰に勝率を与え始めていた。その結果、戦力がそぎ落とされ、徐々ではあったが、引き裂かれた艦隊の傷は閉じ始めようとしていたのだ。
 ハミエルも、それに気づいていた。しかし、迫るGUARDIANS第二、第三艦隊を前に、動じず戦局を見極めようとしていた。

 「敵、増援を確認!。まもなく、第二、第三艦隊と合流する模様!。」
 「ついに来たか…。」
 「敵がコチラの優勢を覆し始めたな。ここが踏ん張り時だ。」

 オルグは、腕を構えてわかったようなことを口にした。ハミエルは彼より一歩前に踏みより、CLAW散布パターン変更を伝令した。
 突出したL.E.O隊を引き戻し、防衛ラインに出たL.E.O隊に戦列を任せる。各艦隊からCLAWパターン変更に入った。
 これにより、GUARDIANS艦隊を覆った巨大なCLAWパターンに、個々の違うパターンが出現することになる。この空間が、GUARDIANSとS.O.Lの間に防壁として作用する作戦だ。
 このわずかながらの変化を、GUARDIANS側で気づいた人物がいた。彼は、その変化と状況を感じ取り、静かに息を飲む。そのわずかな変化を作った映像を強く睨みつける。

 「まずい、敵のCLAWパターンがここに来て急変している。我々は一度引き、部隊と合流後、態勢を整え包囲網を形成すべきです。」

 フォンは思い切ってオンに指示をした。

 「ここで、止めないと…私は後悔する。」

 彼は、最後に自問するように自身にそう言い聞かせ、無礼を承知でオンの前で必死に指示を続けた。だが、オンは、勝機を察したのか、全て否定した。

 「何を言う。第二、第三艦隊の合流となる今が、敵は最も恐れる。この機を逃すわけにはいかないではないか。先制攻撃を許したのだ…今度はこちらの番だ!。武力増長を徹底的に押さえ込む必要があるのだよ。」

 フォンの目には、彼の理屈は跡づけにしか見えなかった。彼は今、押された戦果を塗り替える快楽と、奇襲をかけられた復讐に個人的な感情を当てているようだったのだ。そんな彼には、フォンの言葉は届くことはなかった。
 そんな最中、フォンは、ジーンとの最後に交わした真実を思い出した。

 『わかった…、ただし、条件がある。』

 あの時のジーンの言葉だった。初めて両腕の拳に力が入る。今にも暴力で訴えてしまう勢いであったが、強く目を閉じて振り切った。
 オンは、艦隊合流を開始すると、部隊の再構成を行った。
 戦力が乏しくなった艦艇を隊列の先頭に立たせ、合流した艦隊を後列に配置した。後列に配置された艦隊は、CLAWパターンを全体のそれに合わせるよう動き始める。それぞれが持ち込んだCLAWパターンが混乱する中、比較的安定した前列艦隊を皮切りに、S.O.Lの造り出したCLAW防壁に向けて前進させ、CLAWの衝突を行った。
 数での圧倒的な有利を理に、その衝突で粉砕する艦隊をさらに後続の艦隊が押し上げていく。自分らもその流れに乗って、S.O.L艦隊へ踏みよろうとしていた。
 まばゆい光が、オンの瞳に映り、彼は、飽くなき勝利への追求と快楽に埋もれ始めていった。

 「このままでは…、大佐を止めることなどできない…。」

 彼は、深くうつむき悔やんだが、あきらめようとはしなかった。

 「まだだ!、まだ可能性はある!。」

 S.O.Lは、GUARDIANSの合流混乱とCLAWの混乱を利用し、各艦艇の再配置とL.E.Oの補給を行う予定だったが、GUARDIANSは、その間合いを、数でねじ伏せ、間近に迫ってきていた。

 「なんて暴力的だ。」

 ハミエルは艦隊展開図を見るや否や、叫んだ。

 「きれいごとでは澄まされんのだよ。このままではどちらにせよ、つぶされるぞ。いい加減に、切り札を出したらどうだ!?。」

 オルグの言いたいことはわかっていたが、ハミエルは、冷静になり目を閉じ沈黙した。
 GUARDIANSの再編されたL.E.O隊は、第二、第三艦隊を中心編成され、CLAW値が正常値に書き換えるタイミングを見計らった。とても強引で悲惨なやり口ではあったが、S.O.Lに取っては、最悪の状況へと突き進まれ、まさに蛇に睨まれた蛙だった。

 「CLAWの混乱も、ねじ伏せられそうだ。我々の善戦も最後か…。」
 「違う。オルグ、我々は、まだ終わってはいない。」
 「!?、しかしだ!。思ったより敵を分断できなかったではないか!。これでは、切り札も意味をなさないぞ!。どうする??。」

 オルグは、組んだ腕を振りほどき大きくジェスチャーをする。不満げに敵味方の艦隊配置図を見上げた。

 「敵は、絶対的な戦力を得たことで、必ず勝利を確信する時が来る。その時がチャンスだ。…負けんよ、我々はな。」

 ハミエルは、堂々と胸を張り、自信を露にする。

 「全く、その自身はどこから来るんだ。その自信だけでは、どうにもならん状況なのだぞ!?。」

 そう言うとオルグは、勝つことと負けることで生まれる価値を何やら考えはじめたようだった。上の空で、ぶつぶつと数字をつぶやき始めた。
 オルグのいうことも正しかった。現実は厳しいのだ。ハミエルは、補給状況と負傷兵の量やリストを目で追り、その被害の大きさに、胸を打たれる。

 「オルグよ、これらは、新しい世界の礎に、必要な命なのか?。」
 「ふん、勝つのだよ。勝つしか道はない!。勝って、新たな世界を作り上げることが、彼らに対する弔いになるのだよ!!。」

 GUARDIANSは、新たなL.E.O隊とも合流した。その中には、シェリーとカレンがいた。
 彼女達は、すぐさまジーンと合流するべく、L.E.O隊再編の指令を無視し、単独で飛び出した。彼女達は、ジーンのL.E.Oが置かれた戦艦ファフニールに着艦しようと試みたが、案の定、彼女らのL.E.Oを許す場所はなかった。だがすぐに、艦の左翼に、L.E.Oをフックで固定させ、二人はコックピットから直接向かった。
 艦の中は慌ただしく、多くの負傷者と戦闘員で溢れかえっていた。彼女らは、行き交う人々を退かしては、はね除けては、ブリッジへ向かっていった。
 途中、一人の男の身体とぶつかるが、男は何事も無かったように通り過ぎていく。シェリーは、何かに気づき、雪崩のような通路の人波から、その男の肩を強く引き止めた。
 ジーンだった。
 男はシェリーだと理解すると、口を開いた。

 「…シェリーか。なぜここにいる。」

 ジーンは振り向き様に、横目で彼女を見ただけだった。
 シェリーは、バイザーを開け、目を丸く開くと、ヘルメットを脱ぎ捨てる。

 「ジーン!、私は、あなたの布石じゃないのか!?。教えろ!。オーン殲滅のためなら、私はどんなこともする!。」
 「…。お前がここにいるという事は、…そうか、フォンだな…。」

 ジーンは、右手で怒りで震える彼女の左頬をなでるように触るり、瞳を見つめる。

 「そうだな…、実質的なオーンの殲滅など、既に、どうでもよいことなのかもしれないな。」
 「!?。」

 そう言い、ジーンはまた歩き始めた。

 「来たからには、手伝ったもらうとしよう。」

 ジーンは、シェリーの言葉を無視しするかのように、再び歩きながら始めた。そして、攻撃に出るための作戦を伝え始めるが、シェリーは、全く頭に入る様子がなった。

 「どうして!?。」

 シェリーには、意味が分からなかった。ただ、自分が想う彼とは、また再び、遠く離れていったことを感じた。

 マサヤとエレンは、空を抜け、海をつたって広大な山脈を超えていった。その美しさは表しようがなかった。二人は、時々その光景に感嘆の声を発していた。
 地面すれすれを飛ぶSyrinx。木々が揺れ強い風が起こり、葉が舞った。そのとき、眼下に巨大に人工物が飛び込んできた。

 「あれか!?。」

 Syrinxは上昇すると、それを中心にゆっくりと旋回した。二人は互いに確認し、うなずきながら、もう一度それを見る。
 その人工物は、地中から生えたように天に向かって伸び、その勢いを押さえつけるように数本の鎖のような物で、地面から繋がれている。塔のようなそれは、緑の木々の中にあって、場違いなほど物々しい様相をしていた。
 すると、そこから、誘導灯が点灯し始めた。
 自分達が来たことがわかったのだろうか、マサヤは、指示に従った。
 徐々に機体が、塔に近づく。その大きさに、圧倒された。目の前に開かれる扉は、重々しく巨大だった。
 中に入ると白で統一された広い空間に出た。Syrinxが地面に反射して映り込んでいる。マサヤは機体を停止させると、マスターキーを抜く。
 マサヤは、持ち込んだ装備品を確認し、機体に備え付けられた銃を手に取り後ろを振り向きながら後部座席にまわった。そして、うつむいた顔を起こし、彼女と向き合う。
 彼女は、キョトンとした様子で、彼の顔を見上げた。マサヤは、ゆっくり手に持った銃を彼女の前に差し出すのだった。

 「エレン…。エレンには、これは使わせない。でも、いざというときは…。」

 彼女は、彼の言葉最後にそっと手を差し伸べ、銃の上に手を置いた。

 「うん…。」

 小さくうなずき、ゆっくり彼の胸にもたれかかった。

 「私も、もうこれは使いたくないん。」

 広々とした白い空間に、沈みかけた恒星の赤い光が差し込んだ。重なるの二人の影が、強く映し出されていった。

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