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創作物語 ThunderForce forever

第32話 もう一つの終局 - 信じるもの -

 戦いの混沌はさらに強さを増していた。
 戦う者達は、自分が何者で、何をしているのかすらわからなくなり、握られたトリガーを無意識に引き続け、自分の命が散る瞬間は、喜びに満ちる。S.O.LもGUARDIANSもドロドロに溶け込み合い、すべてが消えてしまうかもしれない。それはリアルに、確実に近づこうとしていた。
 オーンとの戦いに終止符が打たれてから間もなく、誰もが、生気を失っていた。本来ならば、オーンという謎の生命体に命を奪われることがなくなり、安定した世界を向かい入れた人々は、安らぎを実感し、生命として繁栄を迎えるはずだったのだ。だが、人々は何もできないでいた。今日という一日を生き延びる。それだけが、彼らを束縛し始め、未来永劫、生き続けることを望まなくなっていくようだった。それは、生への虚しさが彼らに芽生え、種の寿命は消えたようにも見えた。
 しかし、この戦場では、誰もが、生きている実感を感じ取っている。ハミエル、オン、彼らも、渦巻く命の活力に捕われていた。
 ハミエルは、S.O.L艦隊最後の力を振り絞り、前進した。後方のCLAW防壁を突破し、迫りくるGUARDIANS第三艦隊。しかし、彼は前方に広がるGUARDIANS第二艦隊に集中する。自分達艦隊を包み込んだCLAWが、敵の砲撃を防いでいる間、全力を持って、これを目指した。

 「後方との距離、限界です!。」

 オルグが額に手を当てると、頭を抱えた。ハミエルは、留まることなく、声を張り上げる。前方の艦が砕け散るが、前方への突撃を緩めない。四散しつつあるL.E.O隊を呼び戻し、前方を固める。縦陣形をとっていた艦隊は、徐々に、横へ裾野を広げ、囲い込みを始めた。
 GUARDIANS第二艦隊は、勢力が衰えないS.O.L艦隊に焦りを増す。その焦りが、彼らに隙を作っていった。ハミエルは、敵艦対防御が崩れたところへL.E.O隊を回し、それを完全に崩壊させる。そして、艦隊の戦力を持って押し込み、前進したのだ。

 「ハミエル准将。バフラヴィッシュから入電。我、後方の防御に回る。どうします!?。」
 「ハミエル、迷ってはだめだ。ここは、彼らに任せよう。」

 ハミエルは、前方を厳しく見つめ、額から汗をたらす。オルグは、そんな彼の横顔を見ながら、そう言った。
 彼は、後方の防御に、バフラヴィッシュを含む数機の艦隊を回すよう伝令する。バフラヴィッシュは、すぐに対応すると、迫り来る第三艦隊を目指した。だが、その直後に、洗礼を受ける。艦ぎりぎりをかすめていく敵の粒子砲。左舷の一部が融解し、爆発した。

 「なんの!、まだまだ!!。」

 艦長はそう叫ぶと、右手を大きく下から振り上げ、砲撃の元へ一斉照射した。遠くで光が数点点滅する。

 「敵の溢れ出る点はお見通しだ!、出てきた奴からどんどん叩け!。」

 彼は、L.E.O隊を準備させ、敵との距離を縮めた。
 GUARDIANS第三艦隊は、自らの犠牲により、その数を減らしながらもわずかなCLAW防壁の隙間を作り上げ、吐き出るように突き上げる。バフラヴィッシュと衝突した。

 「オン総帥!、ケルベロスが!!。」

 その時だった、戦艦ファフニールの索敵班が叫ぶ。
 前面に広がるモニタに巨大な影が投影された。その大きさは、自分たち第三艦隊を飲み込んでも余りがでるほどの物だった。オンは、これを見るや否や、自分達の勝利を宣言する。それに呼応するよう、艦内誰もが、喜びの声を上げた。
 しかし、そこに、フォンが立ち上がった。

 「総帥!、ケルベロスを手にした者が、どちらかは、まだわかりません!。」
 「そうだ、だからこそ、まだ攻撃の手を緩めるわけにはいかん!。」

 オンの闘争心は消えることなく、激しく燃え上がっている。

 「しかし、これ以上戦う意味はありません。これ以上戦えば、互いに傷口を広げるだけです。なにより、この戦いは、悲劇ではなかったのですか!?。」
 「そうだ。だがな、ハミエルを許すことだけはできん。奴は、この世界を否定したのだ。自分は違うと言った。私はどんなことがあっても、それだけは、認めん。この世界に生きるすべての民、その生を、否定させはせん!。私は、全人類に変わって、彼を追いつめる義務がある!。」

 フォンは、自分自身がどす黒い凶器に支配される瞬間を体感する。彼は、大きくそれを否定し、止めようとする。

 「貴様は、我に逆らうというのか!?。」
 「このままでは、S.O.Lも総力戦に移ってしまう。勝者は残らない、何もかもが、消えてなくなるだけです。」
 「そうか、そうかもしれないな。だがな、これだけは、間違えるな!、勝つのは我々だ!!。」

 彼は、下唇を噛み、自席に戻ると、ゆっくり目を閉じ正面の現実を見開いた。味方の艦隊図は、第二艦隊のほぼ全滅し、自分らの攻撃の勢いが衰えているが見える。そして、ケルベロス出現により、さらに第三艦隊に乱れが現れたのだった。

 「まずい!。」

 彼が気づいた時は、既に遅かった。
 S.O.L艦隊は、敵の攻撃が一瞬緩んことを感じ取った。もちろん、ハミエルとオルグは、その瞬間を見逃すはずがなかった。

 「ハミエル!、もう、今しかないぞ!。」
 「もちろんだ!。トラキアスム隊へ伝達!、全軍攻撃を開始せよ!。GUARDIANSの背後をつき、反撃に出る!。我々も、全艦反転!!。」

 ハミエルの気迫が、彼の前方に広がる第二艦隊をほぼ排除した。彼は、全滅に執着することなく艦隊を反転させる。
 その時、ハミエルとオン、二人の意識が重なった。新たな空気が戦場に流れ、その緊張は、オンの心を、一瞬に張りつめさせる。彼を含む、第一、第三艦隊を、一塊の渦が襲いかかったのだ。
 真新しいL.E.Oで構成され、トラキアスム隊と呼称された艦隊は、オンのずっと後方、重力潮流の中に潜伏し、この時を待っていたのだ。彼らは、すぐさま攻撃を開始し、ハミエルの取った先制攻撃にも似た方法で、CLAWを巧みに操り、オンらすべてを覆い尽くそうとしていた。

 「勝ったと思うな、ハミエル!。貴様の手の内は知っていたぞ!!。」

 オンは、自艦を含む、いくつかの艦隊を反転させこれに対応する。オンを取り囲む艦隊は再び二分化され、その大半が、トラキアスム隊と対面した。
 トラキアスム隊のほとんどはL.E.Oで構成されていた。それぞれが個別の判断で反転するGUARDIANS艦隊に対して、攻撃を開始する。彼らと初めて接触した艦隊は、群れを成す蜂に襲われたように、散り散りになり、小さな炎を上げ沈められた。

 「見ろ!、ジーン!!。」

 シェリーは、その光景を目の当たりにした。だが、ジーンは、至って冷静だった。ジーン達は、オンらを乗せた艦隊をS.O.Lへ導くべく、突破口を開いている最中だった。過剰な攻撃を行い、味方の艦も巻き込まれていた。
 突破口は、CLAWが弾け、突入を急ぐ者達がことごとく消滅する。彼はS.O.Lの伏兵を確認すると、他の部隊に勢いをつけさせ、自分は戦慄を引く。

 「フ…。フハハハ!。すばらしい…。」

 ジーンは、不気味な笑いをあげた。U.P-Sが捉えたトラキアスム隊とそれに応戦する味方艦隊。それは無様に崩れ行く姿だった。

 「何がおかしい…、ジーン!?。今、なんて言ったんだ!?。」

 シェリーは、彼の言葉に不安を感じ、駆り立てる自分の気持ちを抑えられず食らいつく。

 「これでよい…ずばらしいと言ったんだ。すべては、私の思った通りだ。」
 「どういう意味だ。ジーン。このままでは、我々は…。私達の目標は!?。」

 シェリーの反抗は、虚しく空を切る。

 「なぜ、お前は、こう目先のことばかり目を向けるのだ。いつからだ…?。この戦いは、もう勝ち負けの問題ではないのだよ。我々は、今、生命としてやり直さなければならないところまで来ているのだからな…。」

 沈黙が流れ、ジーンは続ける。

 「戦わなければ生きていけない民。その象徴がまさに、この戦いだ。見ろ、たとえ同士であっても、引き金を引くことに生を見出し、殺し合いを楽しんでいるではないか。ここにいる者達すべてがだ。そうだ…すべて…。」
 「ジーン!。」
 「…すべて、この者達すべて、種族として、生きる価値などない!。」

 シェリーは、何度も彼の名を呼び、彼を引き戻そうと試みた。しかしもはや、彼女の声がジーンに聞こえることはなかった。
 ジーンは続けた。

 「それは我々もだ。ロイを殺した者どもは、オーンなどという、くだらん生物などでは断じてない。戦うことでしか生きられない我々そのものの意志だ!!。」

 この言葉を最後に、彼の乗る機体Letheは、暗黒の銀河を駆け抜けていく。視界に入る艦隊をなぎ払い、取り囲むL.E.Oを瞬時に落とす。
 Letheの機動性、攻撃殺傷能力は彼が操るL.E.Oの中では最高のものだった。機体は、全方位に対して瞬時に攻撃可能であり、今までにない武器が青白く筋を作った。それがCLAW防壁を超えて、すべてを破壊する。スピードも、兵器も、彼の求めていたRynexを数倍上回っている。彼の魂は、機体と同化したのだろうか、彼を包む意志の力が、CLAWを拡散させ青く光った。そして、時折現れる好守に対しては、CLAWをまとい、包み込むように反撃する。それはまるで、ロイの真似をしているようだった。
 ジーンを傍らで追いかけるシェリー、あまりの彼の無慈悲な行為に、彼女は、恐怖を感じた。それは、S.O.LであろうとGUARDIANSであろうと、迫りくるものをすべて排除し始めたからだ。彼女の機体に、砕け散った同人類の断片が機体に鈍い音を立ててぶつかる。

 「やめるんだジーン。ケルベロスが姿を現したんだ!。これ以上の殺戮に意味はない!!。」

 もちろん、彼からの返事はなかった。

 「お前は、敵と味方の区別もできなくなったか!?、ジーン!!!!。」
 「いい加減にしないかシェリー!。ジーン大佐は、我々のもつ戦いへの執着、それそのものが、オーンであると解かれたのだ。それこそが、我々の本来あるべき使命!、オーン殲滅こそが!!。」

 シェリーの悲痛の叫び声を遮るように、カレンの声が入った。彼女の機体が、自分を追い越し、前に出る。彼女は、ジーンに同調するかのように、シェリーを威嚇した。

 「カレンなにを…!?。」
 「ジーン大佐は、やはり我々銀河の民を最も良く理解してくださっている。私達を導いてくださる偉大なお方です。私は、ジーン大佐についていきます。」

 そういうと、カレンはジーンの後につき、彼同様、遮るものをすべて撃破し始めた。
 シェリーは、ジーンの言葉だけでなく、彼女の言葉も、正気で受け取れなくなった。目を見開き、飛び行く二人の機体が遠く霞む。正気を保つように彼女は震える自分を左右に振る。しかし、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
 シェリーが、涙目で機体を加速させ、彼の後に並ぼうと前に出たときだった。
 空間を崩壊するような光が走った。
 うごめく戦いの渦に、光のメスが入れられた。シェリーは、声にならない悲鳴を上げた。
 それは、あまりの一瞬な出来事だった。そこら中から様々な悲鳴がこだまする。

 「一体!?。何だ!、何だというのだ!!。」
 「何が!…うあああああ!!。」
 「ああああっ!!!」

 淀んだL.E.Oと戦艦は蒸発するように白く灰になり、光はS.O.LとGUARDIANS、分け隔てなく突き刺すと、そこから無音の火柱が吹き出す。それが幾度となく降り注ぎ、すべてが灰燼と化した。光は、自ら飛び出した空間をゆがませ、白から銀に変わる。それを見た人々は、目を焼かれ、さらなる地獄へ導かれた。
 ほとばしる閃光と濁るように燃え上がる炎で、空間が支配されていく。
 ジーン達のいる領域には、たまたま光が届かなかった。突如襲った地獄絵図を逃れたジーンには、銀色に身を包んだ光が神秘的に映ったのだろうか、その輝きは、自分を祝福していると声を上げる。

 「銀河系外生物…、っくっはっははは。いや、違う…。すべてを創造した神が降り立ったのだ…。我々は、もう生きる意味を持たない。そういっておられるのだ…。我々の汚れた魂を浄化しに来てくださったのだ。」

 彼は、自分の心を落ち着かせるように、自問自答する。それを煽るように、カレンの言葉が届く。

 「そうです!。ジーン大佐。我々は、これを受け入れなければならないのです。」

 ジーンは、もう一度、光と消え行く命を見つめる。燃え上がる炎が、心を震わせる。

 「すべては、銀河のために!。」

 ジーンはそう叫び、歓喜に震え、涙を流す。
 シェリーは、その光の光景と飛び交う悲鳴の雑音に逆境し、叫び続けていた。

 小さな光の筋は、花を咲かせるようにいくつも広がっていき、形あるものに巻き付くように包み込むと、大きな青い光を放つ。ある者は、この光に踏みつぶされ、ある者は、燃え上がり、ある者は、目を焼かれた。誰もが、理解できず、誰もが、絶望した。
 オンを含むGUARDIANS第三艦隊は、その中心にいた。激しく光が衝突し、砕け散る。これらが銀色の形をした物体に反射し、さらにその色を強める。

 「なんだ!?、何がおこったというのだ!?。」

 オンは光を失った。耳元では、怒濤のように爆音と砕け散る金属のきしむ音が入り乱れ、強烈な激痛が体中を駆け巡る。彼の意識は崩壊していく。
 何か巨大な物が、下半身を支配し、身動きが取れなくなった時だった。めぐりめぐった彼の答えと、一瞬の光を感じる。

 「我々は、最後まで、あれに惑わされたのだ。有史以来、我々を…。」

 彼は、開いた口を閉じること無く、息を引き取った。
 崩れ行くブリッジ。爆風で弾き飛ばされたフォンは、自分の身体を認識できぬほど何も感じなくなっていた。そして、彼の脳裏には、先日ジーンと話した時が流れ出す。それは、静かに浮かび上がり、消えていく。

 『条件とは…?。』
 『…私の戦いを…最後まで見届けてほしい。お前は、私の最後の良心かもしれん…。』
 『何をおっしゃっるのですか。大佐はこれまで、最善を尽くされ、何も間違ったことなどしておりません。そして、私は、大佐とこうして話せるだけで、十分幸せな身分ですよ。』
 『そうか…。だが、そんなことはない。私は…。』

 「…私は、オーンを排除してしまった罪深き人間だ…か…。あの時、私は、確かに、大佐の良心を理解できた。大佐のさみしそうな目が…そうか…だから…。」

 もう一度大きな爆発が近くで起きる。身体の一部が軽くなり、軋む金属が、頬を割いていく。痛みは無かった。
 周りは燃え上がっているのだろうか、厚さが傷口を通してさらに濃く浮き上がらせる。かろうじて見える目で辺りを見回す。近くにしわくちゃの手が横たわっている。自分の手ではないこと理解しその先を見つめると、オンが倒れていた。自分の身体も、もう身動きできない。
 ものすごい勢いで、周囲の空気が天をめがけて流れる。

 「大佐は、大丈夫だろうか…。すみません大佐、あなたを…止めることも、見届けることも、できそうに…ありません。ゴホッ…私は、あのとき…。私自身が、ゲホッ…。ニック…、P・P…。」

 天井を見つめる彼のうつろな目には、銀の筋を作る小さな光が映る。戦艦ファフニールは、巨大な爆発と共に沈んだ。
 光は、どの生き物にも平等に差し込んでいる。S.O.Lも、その司令艦セヴァッツァも例外ではない。光が、叫び声と爆音、熱風を作る。

 「何も…何も、見えん!!。」

 ハミエルは混乱の声を上げたが、反響し埋め尽くされる苦痛の声に埋もれる。
 光の渦は、S.O.Lの伏兵であるトラキアスム隊を一瞬で蒸発させていた。だが、セヴァッツァはそれを理解する間もなく機能しなくなっている。S.O.Lの善戦もここに来て、完全に消え去ったのだった。
 そんな中、雑音まじりのベーシック通信が響く。その声は、どこか懐かしく、苦しみを和らげる声だった。苦しみ悶える戦場、一機一機の半壊するL.E.Oを繋ぐように、徐々に届き広がる。
 セヴァッツァにも届いた。

 『…ザザザ…私は、…英雄エイドラの孫、ジーン・…ザザ…ーンである…ザザ…この戦場にいるすべて民…伝え…ザザザザ…。我々…ザザ…罰を受けなければ…らない。ザザザ…のだ…ザザザ…。』

 ハミエルは、目の痛みが全身を襲っていた。もがき苦しむ彼の暗闇に、その声が響く。

 「…。エイドラ…エイドラがいるのか!?。」

 不安の苦しみから、すがるように声を出す。もがく身体を止めると、見えるはずの無い瞳に、七色の光が差し込む。

 『…ザザ…光に包まれた神の使いが降り立ったのだ。ザザザ…愚かな我々を、浄化しに来てくださったのだ。戦うことしかできない、ただ、生命を破壊することしかできない我々を…ザザザザ。』

 その声は、安らぎに満ちていた。絶望の中、誰もがその声にすがり、理解しようとした。ハミエルも祈るように身体を小さくし、苦しみを胸の奥にしまい込んだ。
 徐々に身体の痛みも消えていくようだった。腫上がった目を両手で覆い、その隙間から大きく口を開けると空気を吸い込む。震える歯と歯を噛み合わせて、自分の身体を抱きしめる。
 だが、次の瞬間、彼のすべてを拭い取るような声が、身体に突き刺さった。

 「それは違う!!。」

 マサヤの声だった。

 「ハミエル准将!、聞こえますか!?、マサヤです。応答してください。司令艦セヴァッツァ!!。誰か!?、応答してください!!。」

 マサヤの声は、ハミエルに届いた。そして、徐々に彼の声と共に、戦場の騒音が聞こえ始める。それは、叫び声、苦しむ声、助けを求める声、怒りと不安の混ざった混乱の声だった。固くなった筋肉に暖かさが戻る。目が見えなくなった彼だったが、その状況が、手に取るようにわかりはじめた。
 拳を近くの物に叩き付けると、拳の痛みを感じ取り、目を覚ます。彼はゆっくりと目の前にあったはずの計器を探る。くだけた破片が手に傷を与え、燃え上がる炎が身体を襲っても、彼は、立ち上がった。

 「すまない、私は目を失ってしまった。状況が理解できない…今、私の回りにいる者達ですら、どうなっているのか…。何も見えない、何も聞こえない。すまない…本当にすまない…!!。」
 「准将、落ち着いてください!。」
 「ハミエル准将!。」

 マサヤとエレンの声が、彼を励ます。そして、生きている者達の声、再び怒濤のように流れる。

 「准将!、あれは、神なんかじゃない!。」

 マサヤの声が、艦内に響く。そして、彼は続けて言った。

 「あれは、敵です!。」

 苦しむ誰もが、我に返った。絶望が犇めいた艦内を拭い取るような声だった。

 「そうだ!、惑わされるな!。あれは、お前も知っている。敵だ!。」

 今度は、女性の声が聞こえた。セネスだった。

 「マサヤ、よく無事で戻ったな。その通りだ。あれは、敵だ。あれは、私と同じ、愚か者だ!。」

 セネスは、自分を戒めるように叫び、ハミエルを奮い立たせた。

 「敵ならばどうする!?。」

 ハミエルはそう答えると、何者かが自分の足首を握る感触に気づいた。ゆっくりと手探りで腰を下ろし、壁によりかかりながら足物と探る。生暖かい感覚が左手に当たった。オルグだった。彼は、ハミエルの手を握りしめる。

 「ケルベロスをぶつけます!!。」

 再びマサヤの声が、艦内に響く。ハミエルは、オルグの手から彼の身体を確認しようとしたが、彼の生暖かい液体と感触に、絶望する。すると、そんな彼を励ますように、オルグが声を張り上げた。

 「…コ、コントロールパネルを持ち帰ったのか!?。」
 「はい!。」
 「よくやった…、しかしだ…、この状況では、我々がケルベロスをコントロールすることは不可能…L.E.Oでパネルを起動させるにも、出力が弱すぎるぞ。」

 一旦迷うマサヤだったが、それよりも早く答えが入る。

 「私がやります!。」

 エレンだった。マサヤもすぐに同調する。

 「私…。私、知ってますから…。」
 「僕達が、内部に侵入して試みます。ですから、それまで、あきらめないでください!!。」

 オルグは、もう一度ハミエルの手を握り、笑いながら息を切らした。ハミエルは、そんな彼の手を強く握りしめ、マサヤの言葉を最後に了承する。そして、ケルベロス制御のためには、その中心へ行く必要があることを付け加えた。
 マサヤは、セヴァッツァからすぐ離れると、飛び立った。光が作った死の光景を横目に、マサヤは、銀の固まりに突入していく。

 「マサヤさん…、私…。」
 「わかってるよ…。ケルベロスは、君の…。」

 彼女のトラウマともいえるケルベロスに近づき、潜入、操作をしなければならない状況、マサヤも彼女の気持ちを理解していた。

 「いいえ…!。違います…、希望です。」

 エレンは、彼の言葉を否定した。そこには憎しみはなかった。

 「聞いてください…。」

 彼女は、亡霊戦争で自分の関わったこと、静かに語り始めた。
 それは、戦いの中、暴走するケルベロスを止めるために、自軍であるたった一機が、その炉心に向かったことだった。その作戦は、炉心をTHUNDER SWORDで破壊することを試みるのだが、逆に炉心が吸収増幅し、溢れかえったエネルギ−を放出する。最後に、ケルベロス共々、故郷を破壊したのだ。

 「この機体にも、THUNDER SWORDは装備されてる…。でも、ケルベロスとTHUNDER SWORD。これが、私達の希望になってくれるのならば、…私は、何も、憎みません。」

 彼女は、一部始終話し終えると、呼吸と整え、前に広がる無数の銀を見つめた。マサヤは、黙って彼女の言葉を聞いていた。

 「そうさ。戦うことでしか、生きられない種族…、自分。でも、それを憎んだり、呪ったりすることで、すべてが解決するとは思えない。この戦いだって、終わらせることもできない。…だったら、その力で、今を救い出し、すべてを終わらせるんだ。」

 アクエリアで誓ったことを確認するように、互いに気持ちを落ち着かせる。

 「私達のできる最善。」

 エレンも自問するように言葉を残す。
 マサヤはふとエレンが聞いてきたことを思い出し、話し始めた。それは、故郷のことだった。父のこと、父を待つ母のこと。そして、赤く染まるフラームの木々のこと。

 「真っ赤に染まったフラームの森、一度見てほしいな。」

 言葉最後に、機体を敵突入角度へ変更する。少しの沈黙があり、エレンが口を開いた。

 「ん…。きっと…、大丈夫だと思うん。」

 ふたりは、笑っていた。それは、これから起ることを理解していたからだ。その不安を口にするより、自分のことを話したのだった。
 一つの銀の光が、コックピットをかすめる。

 「いくぞ!。」
 「はい!。」

 マサヤは、エレンが描く鮮明な索敵図を把握しながら、飛び行く銀の固まりを追った。その光は、近づくにつれ、自分達の乗る機体を彷彿させる。彼らは、改めて銀の光を敵と認識する。

 「これが、チキュウという星の力…。」

 そう確認すると、自分達の射程距離を縮める。しかし、それは、青白い光を放ちSyrinxを包む。音も感じ取れないその攻撃は、静かにSyrinxのCLAWをむしり取り、装甲をむき出しにする。エレンは、すぐさまCLAW効率を調整し、マサヤは距離を置く。迫る後方の敵機にRAILGUNを放つと、飛び散る光を吸収し、再び加速する。その力は、敵の攻撃を超える。前方の敵を貫いた。
 しかし、敵の数は無限に近い。溢れかえる光の群衆が彼らを襲う。マサヤは、流れる光を感じ取り、赤く染まった機体をねじ込んだ。
 機体を囲むように敵が群がったとき、FREE-WAYを放つ。爆風が広がる中、銀の敵機は、彼らを攻める。視界は黒煙と閃光でいっぱいになった。だが、マサヤは落ち着いて、エレンから伝わるCLAWの流れを感じ取っていた。機体を左右に振り、彼を襲った青白い閃光が彼の機体をなめるように、スライドさせていく。敵の攻撃は、もう傍らの光と衝突し、互いに傷つけ合う。
 マサヤはその隙に、一つの波を突破する。
 後方で、波が大きな光と共に消えていく。その光をも吸収し、更なる力で跳躍する。
 すると、Syrinxに寄り添うようにVambraceが近づいて飛んだ。そして、セネスの声が聞こえる。

 「さすがだなマサヤ。だが、これは私の問題だ。お前達は生きて、しなければならないことをするんだ。」
 「セネスさん…あなたは…。」
 「私は、私のところでうまく生きていくさ、こいつらとな。」

 エレンは、彼女を心配し、引き止め声を返すが、セネスは少し笑って目をつぶった。

 「…気にするな…。また、会えるといいな。エレン、キャロルによろしくな。」

 銀の矛を連想させる巨大な船らしき物体から、再び次々と、小さな群れが吐き出されているのが見える。彼女は、そういい残すと、その群衆に向かって2機の青い光が、共に飛び去っていった。
 ふたりはそれを見つめ、自分達のするべきことを噛み締めるのだった。

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