TF

創作物語 ThunderForce forever

最終話 サンダーフォース - はじまり -

 Syrinxが銀色の光を遠くに感じたとき、ふたりのコックピットに再びジーンの言葉、鳴り響いた。その言葉に、吸い込まれ、彼はこの近くにいるのかもしれないと錯覚する。真実を理解した彼らの前では、それはまやかしでしかない。しかし、すべては虚しく真実の相違が、多くの艦とL.E.Oを引き寄せ、銀色の郡団に無抵抗のまま消え去っていくのだ。
 エレンが少し不安そうにマサヤに声をかける。

 「ジーンさんの言っていること…、間違っているとは思えない…そんな気もする。」
 「僕だって、アクエリアで言われたこと…本当なのか…、まだ信じられない。無理もないさ…。」

 エレンはうなずき、静かに目を細めて流す。その先には、炎上するS.O.L、GUARDIANS艦隊が見えた。
 セネスが彼らと戦いを始めたのだろうか、銀の艦隊から火が上がった。それは、瞬く間に広がっていき、一つの巨大な銀の船が崩壊しはじめる。これは、彼らに対して初めての反撃だったようだ。燃え上がる炎がたちまち巨大な船を包み、爆破の衝撃がSyrinxにも届く。小さく砕けた光の粒を全身に受け止め、機体は変形した。
 ジーンのそばにいたカレンが声を上げる。

 「ジーン大佐。あれを!。」

 ジーンは、カレンの示すマーカーに目を向ける。そこには、燃え上がる銀色の船。彼は、怒り叫び声を上げた。すると、その近くで爆発がさらに吹き出す。
 彼は、機体の情報パネルを操作し、可能な限り付近を拡大投影する。爆炎とノイズにまぎれる映像が広がり、光が入り乱れる。ノイズと思われた部分は、細かな銀が犇めき、筋を作っていた。そして、青の光り絡み合い、大きな筋をのばす。
 銀の衝撃波が広がり、血眼に散っていく光の中、赤い筋が一点より伸びていく。ジーンは、眉間にしわを寄せ、投影の視線を移す。
 光は先端は見慣れた卑しい機体であった。

 「あれは、Syrinx!!。どこまでも、邪魔をするか!!。」

 赤の光は速度を増し、戦慄に戻ることはなく飛び去っていく。彼は、その矛先にケルベロスがあることを知り、理解した。

 「そうか…、奴らめ、パネルを手に入れたわけか。ケルベロス…。やらせん!!。」

 ジーンは、Syrinxを追うべく、飛び去った。
 Syrinxの正面には、巨大なケルベロスが星の光を吸い込むよう黒く静かに沈黙している。そこには、銀の光も届かず、無言の空間だけが広がっている。以前は、その巨像に恐怖を感じたが、今は、希望を秘めている。

 「もうすぐだ。」

 マサヤとエレンは、その気迫に押しつぶされること無く、強く睨みつけた。
 マサヤは機体をケルベロス側面より接近させ、上部に回るといったん反転し、今度は、下部へ機体を進めた。その間、エレンが、侵入口を捜索する。
 彼女は、侵入口を見つけたのだが、それとは違う情報をコンソールに伝達した。
 鮮明な映像が飛び込む。

 「マサヤさん!、10時の方向より敵影、3機。」
 「Syrinx!、貴様は許さん!。」

 マサヤはケルベロスに向かうことなく、彼女の言葉通り機体を制御する。ジーンの攻撃は意味をなさず、逆に隙を作ることになった。彼をやり過ごすと、反転する。そのまま彼の後ろを取るよう、機体を攻撃形態へ変形し照準を定める。

 「なに!?。」
 「この機体!、ジーン大佐か!!。」

 マサヤは照準が定まったジーンの機体へ、数撃BLADEを打ち込む。二人の機体はクロスし、のけぞあった。ジーンは機体をCLAWで包み、マサヤの攻撃を無力化する。マサヤは機体を、そのCLAWへ同調させていく。

 「ジーン大佐!、あなたは、間違っている!!。」
 「別働隊2機!、座標クロスします!!。」

 エレンの声に反応するように、マサヤはジーンから下がるように機体を降ろす。

 「っく!。」

 ジーンが視界から遠ざかる。
 カレンとシェリーがマサヤを捉え垂直に機体を飛び込んで来た。Syrinxは突き放すように加速するが、2機の追尾を許した。

 「大佐、ここは、私が!。大佐は、ケルベロスの制御をすべて破壊してください!。そして、我々を導いてください!!。」

 カレンが叫んだ。ジーンは、Syrinxと味方2機を確認することなく、ケルベロスに向かい去る。

 「くそ!、どいてくれ!!。」

 マサヤは、振り切れず、2機の前に、もう一度攻撃態勢を移行する。CLAWの同調とチャージを行った。彼の後方は、カレンが追ってくる。彼女は、FREE-WAYを大降りに放つ。エレンは、その弾道の流れを視覚的に捉え、ANONYMAと状況を共有、判断する。それは、マサヤに視覚を通して伝わり、最終的な機体反応へと変わる。この流れは、旧式のシステムであってもなお、Syrinxをこれまで以上に躍動させた。マサヤは正確な動きとミスの無い防御を行う。U.P-Sは一人の世界を作り上げ、一人で作戦を遂行することをこれまで以上に完成させたが、今彼らは、ふたりでそれを凌駕しようとしている。

 「上!。」

 エレンの言葉と同時に、マサヤの視界に展開するマーカーの一つが、上方を指し示す。彼は、その動きを視線で捉え、正面を向いたまま左指のトリガーを押す。FREE-WAYを数発マーカーへ放った。そして、その反動も利用し、機体をさらに下方へ動かす。
 FREE-WAYの一発がカレンの目の前で爆発する。上方では、シェリーにその雨が襲った。

 「どこだ!?。」

 カレンの叫びも虚しく、マサヤは、彼女の機体下を突き刺すようにえぐった。そして、そのままCLAWを強化し、上方で弾幕を避けたばかりのシェリーを横切る。シェリーは機体を振られSyrinxを見失う。Syrinxは加速し続け、ケルベロスを目指した。

 「私はやられない!!。」

 シェリーは、Syrinxのアタックをぎりぎりで避けていた。彼女はSyrinxの後を追う。
 再び、エレンが後方からの攻撃がマサヤに伝わった。マサヤはケルベロス側面へ取り憑き、すれすれを飛行する。その動きは、シェリーを誘った。格好の標的を見せつけられた彼女は、徐にSyrinxへ向けて狙い、攻撃を繰り返す。しかし、それは、Syrinxではなくケルベロスに直撃する。巨大な爆発が、ケルベロス外壁から次々と起る。
 彼女は、しまっとばかり、スロットを戻すが、すでに遅かった。爆破が連鎖反応のように索敵を混乱させ、Syrinxを見失ったのだ。慌ててU.P-Sを索敵に回す。自分自身も身体を乗り上げ、空間を睨んだ。
 彼女がスロットを倒したときだった、燃えがる炎からSyrinxが飛び出し、機体同士が再び弾き合った。マサヤは、冷静にマーカーを敵機に合わせると、機体後部を攻撃する。シェリーは自機Styx Rev.2に接続させた爆発するブースターを、急遽、切り離す。
 CLAWの消耗をせず戦ったSyrinxに軍配は上がった。Syrinxのすべての武器が唸り、二転三転、2機の機体が弧を描く。シェリーは追いつめられはじめた。
 この戦闘の中、シェリーは、戦うことに身を委ね、それに安らぎを感じている自分の意志に気づく。そして、その戦いから、生を理解したのだった。

 「そうか…。私は、これをはじめから理解し求め続けたのか…。ジーンに近づきたかった…それが理由だと思っていた…。ちがうの?…あいつの言っていることは正しいの…?。この喜びはどこからくる!?。」

 シェリーは何かを振り切り、まさに起死回生の攻撃を行った。
 自分の本能をさらけ出し、すべて発散した。ありったけのFREE-WAYをばらまき、その先に出たSyrinxに機体をぶつけ、ありったけのSEVERを放つつもりだった。
 そう、つもりだった。

 「…ジーン、私は、お前に近づくことも、守ることも、理解することも、…何もできなかった…。私は、お前を…。」

 身動きの取れないくらい脱力した彼女は、炎に包まれていた。

 ジーンを乗せたLetheは、ケルベロス後方下部にある過去、彼自身が破壊し侵入した入り口を見つけ、機体を可変させると静止する。

 「懐かしいな…。いや、ただの感傷か。あのときの私は、愚か者だ。オーンに勝利することだけを目指し、本当の敵を見失っていた。」

 ジーンは、そう言うと、機体を上昇させ侵入する。ケルベロスの中を突き進んだ。
 内部は異形の機械で埋め尽くされ、入り組んだ通路と異様な光景が、過去の戦いを思い出させるようだった。

 「もうすぐ、私もロイと会える。シェリーも、わかってくれるはずだ…。」

 通路は徐々に狭くなり機体の行き場をなくす。だが、ジーンはその隙間を見いだし、機体を絶妙に操作するとすり抜けていく。通路が広がる。
 彼は通路の先を捜査する。無数に広がる通路をチェックし正しい道を構成しようとしていた。そこにBLADEが降り掛かった。

 「これ以上行かせるか!!。」
 「!、いいだろう、Syrinx!!。私が引導を渡してやる!!。」

 ジーンは、機体を変形させると通路を進む速度を速めた。彼は迫り来る壁を巧みにかわして突き進んでいく。そして、速度をどんどん上げていった。
 マサヤも負けずと、高速形態へ移行し速度を上げていく。だが、ところどころ、通路の突起物が機体をかすめ、傷を増やしていった。

 「相対速度はややこっちが上。落ち着いてマサヤさん。CLAW残量は規定値。」

 エレンの操る機体制御がU.P-Sを上回っているのだろうか。彼の目の前に描かれた障害物がクリアーになっていく。そして、その速度はSyrinxを赤く染め上げていった。

 「捉えた!!。」

 マサヤは、高速戦闘域でジーンの真後ろについた。過去に何度も挑んだ彼の背中である。だが、ジーンを捉えたマーカーはまだ機能していない。

 「マサヤさん!。」

 エレンの呼ぶ声が、彼の中によみがえる悪夢を消し去る。

 「ジーン!!。」

 マサヤは、すべて拭い、彼の名を叫ぶ。

 「私を超えたつもりか。ならば、私を消し去るがいい。だが、この戦いで、我々は憎しみ合い、戦うことで生を感じ取る本能を理解してしまった。この罪を、誰が償うというのだ!?。貴様にできるか!?。」
 「あなたは間違っている。今しなきゃいけないことは、そんなことじゃない!。」
 「言ったはずだ…、貴様のような下らん英雄気取りがいる限り、この戦争は、戦いは、終わらんのだよ!!。」
 「違う!!。戦いに飲み込まれず、自分達がそれぞれの生きる道を見出さなくちゃいけないんだ。そのために、僕らは、命を、この瞬間の命を守らなくちゃいけない!!。それが、未来へつながる第一歩なんだ!。」

 そういうと、マサヤは目をつぶり、頭を左右に振る。

 「戦いを終わらせるんだ!!!。」

 その一瞬が、ジーンに隙を与え、命取りとなった。

 「くだらん!、そのくだらん戯言が、ロイを殺したのだ!。」

 ジーンは、マサヤの後方にいた。マサヤは、背筋の凍る想いを感じる。睨まれたジーンの気迫に押しつぶされそうになったのだ。Syrinxを目一杯加速させ重圧を振り切ろうとしても、逆に、重みがのしかかり、突き進む通路が容赦なく牙を剥く。

 「この世界は、そうやってを綴られてきたのだ!!。なぜわからん!!。」
 「このままじゃ、だめ!、マサヤさん!!。」

 左右に曲がりくねった通路を抜けた先だった。突起物が交差し合い道を完全に塞いでいる。マサヤは減速すること無く突き進むようスロットを引く。エレンの悲鳴が響いた。
 Syrinxはすべてを破壊し突破する。その先には、巨大なクレパスのような溝の空間が広がり、左右に挟まれた位置に浮いた。突き破られ粉砕した瓦礫が大きな溝に吸い込まれていく。息を飲むふたり。
 我を取り戻すふたりだったが、背後から強力なSEVERが降り注ぐ。マサヤは、機体を縦にし、そのままクレパスの奥へと下降した。ジーンがその動きをトレースしようとした時、何かに気づき、上昇した。
 二機の間に、巨大な物体が横切る。
 二機はそれぞれ分散された。巨大な物体はすぐ通路の突起物にぶつかり激しく爆発する。ケルベロス自身の老朽化により、その爆破が通路全体を振動させ、瓦礫を雨のように二機へ降らす。

 「あれは!?。」

 そんな中、見慣れた白と赤の機体がエレンの視界に入った。

 「クズハ大尉!、大尉が!。」

 エレンは喜びの声を上げる。RynexがSyrinx前方に出た。

 「大尉ご無事で!?。」
 「マサヤは、先に行け。ジーンは、ここで私が食い止める。」

 Rynexの機体は、ぼろぼろだった。装甲は各所に渡り凹み、機体内部がむき出しになっているところもある。両脇に備えるRound-Dividerの片方は、ほぼなくなっていた。そんな状態であっても、ロイの言葉に不安は無かった。
 それが逆の意味でマサヤを止めた。

 「いやです。もう、ここから先は、自分の意志に従います!。いくら大尉の命令であっても、もう、いやです!。」
 「マサヤ…。」

 マサヤは、彼を失いたくない気持ちでいっぱいだった。

 「大尉が伝えたいとおっしゃっていた意味が分かりました。パネルを手に取ったとき、理解…しましたから。だから…!。」
 「そうか…、ならば、なおさらだ。」
 「え?。」

 だだをこねるように振る舞うマサヤに対し、冷静に言葉を放つロイ。

 「お前は、これから世界を変えていく人間だ。もう、私に構う必要はない。先に進むんだ。」

 ジーンの閃光が、彼らを威嚇する。

 「Rynex!。お前は、私を惑わせる!!。」
 「いけ!、マサヤ!。」
 「嫌だ!。」

 ジーンは、マサヤではなく、ロイに取り憑こうとしてた。彼の目には、もうマサヤは映っていないのだろうか。マサヤの放った閃光が、彼の左側のRound-Dividerを直撃する。マサヤはさらに彼の後ろを取り、もう一度照準を定め、トリガーを引きそうになる。
 Rynexがマーカーを覆った。ロイがLetheの間に入り込んだのだ。

 「大尉!!?。」

 マサヤとエレンは、あわてて機銃を戻す。

 「ジーン!、これで、ハンデ無しだな。マサヤ!、お前は、お前にしかできない、やらなければならないことがあるはずだ!。いくんだ!!!。」

 空洞内に大きな振動が伝わる。鈍い音を立てて何かが入り込んだような嫌な音だった。その衝撃波が彼らとマサヤを引き離した。瓦礫が崩れ、見えなくなったのだ。
 マサヤは、まだロイと話しきれてないこと、力及ばなかったことに涙した。
 機体はゆっくりと流れる。後方で鈍い音が何度か伝わってきた。それでも、彼は、自分を振り切るよう、先へ進ませることに集中し直した。

 マサヤとエレンを乗せたSyrinxは、少し広い空間に出た。奥はやや茶色に濁った光を放っている。それだけが道しるべのように彼らの視界に入り込む。

 「マサヤさん、あれ!。」
 「見えた!。」

 ふたりは息をのみ、震える身体に鞭を打つ。通路が、巨大な振動に包まれていくようだった。
 エレンは外部状況を観測し始める。不安が的中する。道を照らす光が遮られる。そのモノは、通路から飛び出し、叫ぶようなけたたましい勢いで周りを破壊する。
 彼女の判断が一瞬遅れていたら、間違いなくつぶされていた。
 そして、それは自分達の数倍もある大きさをし、ヒトの形をしている。ヒトである証拠に、腕や足、手に相当する部分要所に見られる。ふたりは圧巻した。突如、手らしき部分が大きく振り下ろされ、Syrinxを襲う。からくも避けたマサヤだった。
 そのとき、何かが見えた。ANONYMAが解析するが、何かの文字でしかないと判断される。

 「Exalasis?。」

 ふたりは、新たな地球群兵器がケルベロスに取り憑いたことを理解した。

 「さっきとは違う形をしている…。なんて破壊力だ!。」

 振り切るように、機体を加速させる。だが、轟音とともに通路を破壊し、次々と同じ兵器が現れた。

 「この破壊力、セネスさんと同じ!?、ほんとうにチキュウの…!?。」
 「こんなのが、神様なわけないさ!!」

 その異形の戦闘兵器は、人形からL.E.Oに似た高速機動形状に変身し、入り乱れるように、彼らを追う。

 「エレン、ケルベロス起動の準備を!!。あれか!!。」
 「はい!。」

 濁る光の先が鮮明に飛び込んで来る。もう一度機体を加速させ無理に前に出たが、目の前に現れたそのヒト以外のものに、弾かれるSyrinx。機体は、鈍い音を立てて捩れるように通路に叩き付けられ、右翼がひしゃげる。ウィングが老化した地面をカッターのように断面し、粉砕させると通路を飛び出す。
 そこは、今までにない空間が広がる。中央に巨大な光の球、目指したコアが回転している。そこから照射される淡い光がSyrinxに反射しシルエットをぼやかせた。
 砕けた瓦礫がワンテンポ遅れて機体に降り注ぎ、転げるようにコアのにたどり着いた。

 「うああああ!。」

 沈黙するSyrinx。だが、彼らに休息は無い。引き裂かれるような音が響き、外壁から侵入した敵機が触手のように次々と這い上がる。

 「くそ!!。どうする!?。」
 「コンタクト開始!!。」

 エレンは、ケルベロスとコンタクトを始める。まだシステムが生きていることがわかった。彼女は希望と託し、キーを叩き始める。

 「やってやる!。」

 マサヤは、身体を前に浮かせると、機体は力強く駆け上がった。
 異形の兵器は、一斉に襲いかかってくる。マサヤは、ありったけの攻撃兵曹で彼らに対向する。CLAWの弾けるエネルギーは徐々に失われ、攻撃をより強く行えば行うほど、Syrinxは力を弱める。
 マサヤ達は追い込まれた。

 「くっ!?、出力が足りない!!。」

 異形の敵機を数機破壊する。砕け散るヒトの形が、恐怖に陥れる。バラバラになる手、脚、胴体。エレンは、それに目をつぶるように、視界から避ける。激しく揺れ動く機体の中、必死でシステム起動に集中する。

 「起動、成功です!!。」
 「よし!!。」

 静止していた巨大なケルベロスは、全体を軋ませながらエネルギーを増し、前進していくのが伝わる。コアの光は、さらに大きく輝き、それを取り囲む機器が、巨大な歯車のように回転し始める。内部は共鳴しおぞましい音を立て始めた。ケルベロスは、地球群に対して、直進したのだった。
 ふたりの願いは通じたのだ。心の底から喜ぶ。
 異形の兵器群は、慌ててケルベロスの破壊に入ったようだった。ふたりへの攻撃が止む。

 「っ!、壊されてたまるか!。」

 マサヤは彼らの行為を阻止させようと、動き出したその時、巨大な手がSyrinxをむしり取った。

 「しまった!!。」
 「きゃああああ!。」

 機体左側のRound-Dividerがも切れ爆発した。Syrinxはそのまま崩れ、コアの支柱に背面をこするように落下する。操縦桿を握っていた手は、力が抜けかける。後ろに座るエレンの声が少しだけ聞こえてた。彼は、浮遊感に捕われず、力強くもう一度握りしめ直すと、あきらめなかった。わずかに機首を上げ、直撃を避けるように、静止するのだった。
 その時の激しい衝撃が、マサヤのヘルメットを痛める。割れた破片が額を傷つけ、血が流れた。彼はぼやける敵機を睨みつける。

 「こんなの、痛くなんかないさ!。まだだ!!。」

 見下すように、彼らはマサヤ達を囲んだ。巨大な振動と警告の警報が鳴り渡り始める。ケルベロスの破壊の危険がわかる。
 マサヤはヘルメットを脱ぎ、座席の横に固定すると、エレンの無事を確認する。

 「もう、武器は、あれしか残ってないんだ…。ごめん。」
 「そんなことないん…。」

 彼女もバイザーを上げて、彼の顔を見つめる。彼女は少し震えていた。でも、強く決意する。

 「まだ、俺たちは生きているんだ!。やらなきゃならないことがあるんだ!!。」

 機体はおぼつかない動きで変形すると、ありったけのCLAWが機体に集中する。Syrinxは軋むように小さな火花がところどころ見える。動こうとするとどこかが崩れた。しかし、機体を包む真っ赤な光が、波紋のように広がる。そして、それは、機体の中心で最も深紅に輝いた。

 「いっけっええええ!。」

 マサヤがTHUNDER SWORDを発動させたときだった。ケルベロスのコアが赤く唸りをあげ、共鳴する。ふたつの光がひとつになり、エネルギーを拡散していく。

 「この感じ、あの時と違う…、これは、THUNDER SWORDなの?。」

 赤く染まった光は、機体を中心に矛のように四方に伸び、襲いかかる地球群を串刺しにした。その光は彼らを破壊させるのではなく停止させ、そして、消滅させていく。光は膨張する。その光を消そうと、群がる兵器も次々と消滅していく。

 「Syrinxも消えていく…。」
 「そうか!。」

 マサヤは、そういうと、足下につけられた銃とナイフを取り出し、手放す。そのナイフは、Syrinxと同様に真っ赤に染まり自分達を包んでいく。握りしめていた操縦桿が消え、握力がなくなった。

 「あの戦い以降、みんな何かのタガが外れたように戦い始めた。ジーン大佐の言う通り、もう、後戻りはできないかもしれない。でも、それでも、…僕は、これで終わりにする。もう自分で決めたことなんだ…それが力となるはずさ。」

 エレンも、彼から渡された銃を手放した。

 「私も…。」

 宙に浮いたナイフは、真っ赤に染まり、辺りを染める。銃もその中に消えていく。

 「Syrinxと反応しているん…。」

 その光は、やがてふたりをも包み始める。エレンは、席を立ち、彼の手を探った。そして、彼の顔を見ようとしたが、もう、彼の姿は見えなかった。マサヤもまた、エレンの姿を見ることはできなかった。
 ただ、重なった手が、ふたりを理解させていた。
 赤い光がすべてを包み込むように広がっていく。
 ケルベロスは中心から光を放ち、自ら塵となって消えていく。それを囲うように取り憑く異形の兵器も、銀の船をまとう地球群も、引き込まれたS.O.L、GUARDIANS、次々に飲まれては消えていった。空間がゆがみ、やがて、大きく伸びると、静かになった。
 もう、戦場はなかった。誰と誰が何をしていたのか、誰もわからない。ケルベロスを中心に、何もない空間が生まれ、まだ失うことのない赤い星のような光だけが、彼らが戦っていた証拠のように瞬き続けた。

 赤いさざ波がいくつもの艦隊を通り抜けていく。すべては、力を無くし静止する。バフラヴィッシュも、進む力を無くし、ただ立ちすくみ、人々は宇宙を仰ぐ。
 たくさんの人が、たくさんの星を見つめる。
 天に溢れる星星。その中で、一つの光が広がり消えていく様を彼女は見ていた。握りしめられた手がゆっくりと広がる。
 二本の花が風に流され、赤く染まった海へと帰っていく。

 「THUNDER SWORD…、それは、THUNDER CLAWの営み。そして、そのすべての力の源、THUNDER FORCE…。」

 再び、ゆっくりと空を見上げる。

 「解放されたCLAWは、正しい力へと還元される。もう二度と、これを得ることはないわ…。もう、二度と…。」

 風に流され、水面に揺らぎ落ちた花びらは、うっすらと赤く染まり沈んでいった。風が起ると静かな水面に波が立ち、光が揺らぐ。
 波紋のように連なっていくその光は、惑星エクセリーゼに届く。
 老人達が一つのスクリーンを通して、光り輝く深紅の星を見つめていた。

 「CLAWの循環を無に返したのか…。」

 独りの老人が、深いため息をついた。

 「力の源が消えたという訳か…、新たな課題だな。だが、我々の算定はここまでといったところか。」
 「これ以上は、すべてを潤滑させることができん。もう、矢が放たれてしまったからな。」
 「ある意味、生命の営みは、新たな世界へと誘ったともいえる。どの結末にしろ、ヴィオスが望んだものなのかもしれない。それは理解できる話だ。」

 息を吸い込み、笑みを見せる。

 「そうだな、あらゆる要因が作り上げた結果だ。そう評価しようじゃないか。」

 老人達の言葉は、大きな微笑みに変わろうとしていたときだった。

 「ご立派だ。」

 独りの男が扉を開けて、そう叫ぶ。続けて、複数の男達がなだれ込んだ。

 「ふっ…、我々をどうする気だ?。もう、戦いは終わった。永久的にな。我々の評価もここで終わった。」
 「そうかい。…じゃあ俺もこの銃はもういらないわけだ。…だけどよ…、死んでいった奴に、なんて言ってやればいいんだ…。」

 男は、銃を構え、憎しみをあらわにする。

 「もう一度、その銃が必要か?。」

 すると、男は銃を手前に寄せて見つめる。そして、投げ捨てた。

 「いや…、いらねえな。」

 そういうと、着込んだ制服も脱ぐのだった。
 映し出された映像に、赤い光が一層瞬く。彼はそれを見上げるように見つめ、眉を細める。

 「あの光、俺達は知っている。もっとも、あの時は…。」

 ため息をつき、男はもう一度光を見上げた。
 部屋全体を照らし、空間が広がり、光は赤く暖かくにじんでいく。暖かい光は、星全体を包み込み、銀河の星星へと流れ着く。
 フラームが真っ赤に揺れる。揺れる色に心が激しく動かされる。情熱が戻る。

 「もう、やめんか。…もう、すべて終わったと思うんじゃ。」
 「しかし…。」
 「あれを見てみろ…。」
 「…ああ!。」

 老人は天を仰ぐように空を見上げ、男に引かれた女性をかばい、間に割って入った。そして、胸につけたGUARDIANSの印を剥がした。
 男は心を揺さぶる何かを感じ取り、天を見つめ続けている。その場を包むように、空は、真っ赤に光る。そして、それに呼応するかのように、フラームの森も激しく染まる。

 「坊主は大丈夫かね。」
 「ええ…、あの子は、きっと大丈夫ですよ。ありがとう。フェリオ。」

 女性は腰を少し丸め、静かに礼を言った。

 「わしゃ…、こんなことしかできんかったのう…。情けない。」
 「そんなことないわ。見て…、なんて暖かい。」

 銀河を染めた深紅の光は、さざ波のようにもう一度、中心に帰って来る。人々の情熱と生きる力を感じ取りながら。
 拡散したCLAWは、すべてを飲み込み、一粒の涙に変わる。
 その結晶が、夢に現れ形を作ったのだろうか。CLAWの流れが、世界を二つに分けて戦う世界を作り上げた夢が広がる。

 「以前、あなたと同じ想いを寄せた人に、私は出会ったわ。願いは、みんな同じ…。」
 「…ん…。」

 女性の声がしたように感じた。

 「宇宙全体の生命が、秩序を欲していた。今のあなたが求めたように…。私も求めたのよ。」
 「!、あなたは…!?。」

 語りかけたその声を求めた時、マサヤは目を覚ました。
 彼の目の前には、満点の宇宙が輝いていた。薄らと赤い光の残像を残しては、星が広がる。彼は、そばに暖かな感触を感じる。エレンだった。周りには何もなかった。ただ、自分の身体と目の前の彼女の身体が、静かに横たわっている。

 「私…、生きてる…。」

 エレンは、うっすらと目を開き、光を感じ取りながら自分を取り戻す。マサヤは、強く彼女を抱き寄せるのだった。
 ふたりを乗せた小さなコックピットは、赤く光る海に浮いていた。時折流れるさざ波が宇宙の色を反射させ、弾けては静かに消える。
暖かな光が、二人を包む結晶を淡い水晶へ変えていく。
 永遠に繰り返される営みの中で、それは、ひっそりとたたずみ、輝き続ける。

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